第5話 惨劇
ある日の晩の事である。とうとうこの一家に悲劇が起こってしまう。
いつもの様にNが仕事から帰って来た。そして、迷わず一升瓶とコップを持ち出してきた。夕方から、相変わらず飲んだくれている。F子は夕飯の支度や洗濯物の世話に追われていて忙しく動き回っていた。そんなことはお構いなしにNは酒を
「いい加減にしろ。このろくでなし‼」
「何だと、このバカ女!」
「うるさいね~、飲んだくれの死にぞこないが‼」
「何だと~~、もういっぺん言ってみろ、この役立たずが・・! てめぇ、Hの受験をいい事に、ちょくちょく町へ出ちゃぁ男と浮気してるそうじゃねぇか!!」
「何だって~? 冗談じゃない、Hの為に必死になってるって言うのに、デタラメな事言うんじゃないよ、バカ‼」
ついにF子は切れた。 もう手が付けられない。あろうことか、亭主のNを平手打ちにしてしまった。何度も何度も泣きながら殴った。
気が済むまで殴ってから最後はNを両手で突き飛ばしてしまった。
そして、F子はボロボロになって疲れ果て、ひとしきり泣いていた。
それからおもむろに立ち上がり、
「あたしは先に風呂に入って、もう寝るから・・・。」そう言って風呂に行ってしまった。
Nは怒りが収まらない。収まりようがない。女房に殴られても、身体の自由が利かず、やり返すこともできない。 日頃のウサと悔しさと自由の利かない身体の腹立たしさと・・・。
とうとうNの怒りが頂点を超えてしまったのだ。今まで何とか持ちこたえてきた、張りつめていた心の糸がついに切れた。
Nはまるで何か覚悟を決めた様に"ふっ"と一息ついて、ある種の冷静さを取り戻した。
そして・・・、大切に持っている
落ち着いた手つきで銃に弾を込める。何かに取り憑かれたように、Nの心に"迷い"は無くなっていた。
そして、銃を抱えて左足を引きずりながら風呂場へと向かった。
「お~い、F子~・・。」
「何だい、うるさいね。風呂場までケンカを売りに来たのかい?」
湯船につかっていたF子はこれから起きることも知らずに、吐き捨てる様に答えた。
「お~い、開けるぞ~~・・・。」
「何だい、・・・ うぇっ・・・。」
“ バァ~~ン ‼ ”
乾いた銃声が鳴り響く。
至近距離からの一発。 即死だった‼
二階にいた息子のHが驚いて階段を駆け降りてきた。
「何、今の音。何、どうしたの?・・・エッ‼」
息子のHは息を飲み、驚いて固まった。
Nはうつろな目で振り向き、息子のHに銃口を向けた。
“ バァ~~ン ‼ ”
2人とも一瞬の出来事だった。 湯船は真っ赤に染まり、廊下には顔面を半ば吹き飛ばされた血だらけの息子が死んでいる。 Nは息子の死体を
そして銃口を自分の口の押し込み、 引き金を引いた。
“ バァ~~ン ‼ ”
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