第3話 異変
初めに起きたのは、この家の小学生の娘E子である。
インフルエンザにかかり高熱が出て、そこから肺炎を引き起こして入院することになったのだ。このため少し入院が長引いたのだが、その間は当然小学校を休むことになる。いかにも小学生らしく、初めは心配する子もいたが次第におかしな話になって行く。
「E子ってインフルエンザらしいけど、本当は違う病気じゃねぇのか?」
「インフルエンザだってうつるけど、何かの伝染病じゃねぇの?」
「昔、E子の家で伝染病で死んだ人がいたって、うちのばあちゃんが言ってたよ‼」
子供たちの間で根も葉もないうわさ話が始まった。
しばらくしてE子は元気になり学校へ戻ったのだが、クラスの生徒達はE子に対してどことなくよそよそしい態度である。E子もその空気は感じていた。
次に異変が起きたのは中学3年生で受験を控えている息子のHである。
成績優秀で将来を期待されていたHだが、春先からなぜか学校の成績が落ち込んでいた。母親であるF子は学校に呼び出されてからと言うもの、受験を控えた息子が心配でならない。母親としては当たり前だろうが・・・。
この村は人里離れた山奥にある。小中学校、小さな診療所の他、駐在所や郵便局に農協などの公的機関の他にはろくに店など無い。ましてや書店や学習塾などの受験生に関わりのあるものなど全く無い。このため、心配した母親のF子はこの村から1時間半ほど離れた町まで出かけて行き、参考書や高校の資料等々受験のために必要な準備を始め出し、必要とあれば何度でも町へ出かけて行き息子の為にと必死になっていた。
Hは、そんな周囲の
川幅が狭く浅瀬の岸に立って対岸を見ていたRが声を掛けた。
「あそこ見ろよ‼ 何か動いたぞ。 何かいるぞ、見に行ってみようぜ‼」
それを見て、3人は川を渡ろうとした。その時、Hは右足を川底の石に挟んでしまい、バランスを崩して倒れてしまった。
「痛ってぇ~~‼」 2人が駆け寄って来る。
「ひねったみたいだ、痛てぇ。 右足抜けねぇよ!」
2人が川底の石をどかそうとする。
「大丈夫か? この石重てぇ、動かねぇ~~。」
「足は抜けねぇのか? 引き抜いてやるよ」
「うわっ、よせ、痛てててて・・・」
2人が無理矢理なんとか引き抜いたが、捻挫とすり傷で血だらけになっていた。
Hは2人に
Hが学校を休んでいる間、ここでもクラスメイトの間でおかしな噂話がはじまった。
「Hの奴あんな浅瀬で
「成績も落ちたみたいで最近イラついてたしなぁ~。」
「そう言えば、俺この前うちのかぁちゃんと隣の婆さんで話してたの聞いたんだけど・・・。関係ないかもしれないけど、Hの家に[優曇華の花]が咲いたらしいぜ‼」
「何それ~~」
「詳しくは知らないけど、不吉な花なんだってよ‼」
「じゃぁ、その「優曇華の花」の呪いとかなんじゃねぇの?」
特にこれと言った娯楽の無い田舎の山村である。老若男女問わずこうした噂話が好きなようだ。
母親のF子からすれば、この春から息子の成績は落ちるは、怪我はするはで、この大事な時期に心配の種は尽きない。自分が躍起になって息子を煽り立てているのも
村人の一人が町に出かけた時にたまたまそんなF子を見かけたことがあった。見知らぬ男性と話をしていただけだったのだが・・・。その村人が帰ってから隣人と
「Fちゃんて、最近よく街に出かけるよね‼ 息子が受験だから大変なんだろうね。」
「うん、そうみたいだけど・・・。 この間、町で見かけたんだけど、知らない男と会ってたよ。どういう関係の人だろう?」
「え~、どうせ学校とか何かの人でしょう?」
「だと思うけどね~、まさかねぇ~」
そんな他愛もない世間話が、次第に尾ひれがついてとんでもない話に変わって行く。
「IさんちのFちゃんは、ちょくちょく町に出かけてはどこかの男と浮気してるらしいよ‼」
馬鹿げた話だが、閉ざされた村社会ではこんな噂話は
当初Nは、くだらない噂話と無視していたが、例の花の一件以来悪いことが重なっていたので、気になっていたのだった。
Nは地元の森林組合の職員として、大好きな山の仕事に従事していた。この道一筋のベテランである。
そんなNがある晩たまたま深酒をしてしまい、少々二日酔い気味で仕事に出かけて行った。 その日は
仲間たちと準備を整え、チェーンソーを動かす。二日酔いとは言えこの道のベテランだ。難なく木を切り倒していった。そして、数本伐採してから・・・。
「あと、この一本切ったら昼飯にしよう‼」
そう言ってチェーンソーを動かし、もう少しで木が倒れる、と言う所で突風が吹いた。
「あ~~ッ‼」
まるで木が、確固たる意志を持っているかのように、Nを目掛けて襲いかった。
倒木は、Nの頭と右肩に当たり、Nは弾き飛ばされた。その
緊急手術ののちしばらく入院していたが、回復して退院することになった。しかし、その後も障害が残り、車椅子は免れたものの左足には麻痺が残り、引きずって歩くことになった。右腕にも少し麻痺があり思うように動かせない。右目の視力も著しく落ちたのである。
この事故のせいで二度と山の仕事は出来なくなってしまい、失業こそ免れたものの森林組合の取り計らいで、製材所の雑用と事務処理の仕事に就くことになってしまった。
この事故以来、村の中ではますます「呪いだ‼」「祟りだ‼」などと言う噂がまことしやかに
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