第4夜 死を運ぶ悪魔
どんな物語にも、ハッピーエンドはつきもの。
だから時には、そうじゃないお話を書きたくなる人だっている。
例えばそう―――『彼』が作った世界とか。
ティーナがいつものように図書館で夜に読む本を探していた時のこと。
ふと目に留まった一冊の、黒い背表紙の本。
それはまだ最近に新しく仕入れた物のように新品同様で重厚感のある、この図書館
にはとても『異質』に見える存在だった。
中をぱらりと開いて数枚の挿絵だけを覗き見る。
最初の一枚は『人々に悪さをする悪魔の絵』
次の二枚目は『退治された悪魔が大きな箱に封印される絵』
最後の三枚目は『人々が大きな箱に入っている絵』
これはどういった内容の物語なんだろう。
そんな興味に引かれてティーナはその真っ黒な本を大事そうに両手で抱えて部屋へと
駆け足に戻った。
その夜―――昨晩はカロンが本を読んでくれたこともあって、今晩は自分が読むと
始めから宣言してベッドの上で一人意気込む。
「カロン。今日はね、特別な一冊を見つけたの!」
「……ふむ?黒い本とは珍しい。」
「でしょう?私も初めて見たの。中の絵もとても綺麗だったから、今夜はこの本を
読もうと思うの。」
ティーナは静かに何度か頷いたカロンを見てから本を開いて世界を語る。
誰が一体、どんな人にどんな思いで綴ったのかを知る為に。
―――とある国のとある村に、一匹の悪魔が降り立った。
その悪魔は人々に悪さをして不幸を集めることで命を永らえる悪い存在だった。
国の偉い人たちは一ヵ所に要人を招集して大きな会議を何度も行い、被害が広がる
前にと悪魔の退治を急いだが…悪魔にはあらゆる攻撃が効かなかった。
人々に不安が募る中、数年後に一人の聖人が不思議な力を用いて悪魔をいとも簡単に
大きな箱の中へと封じてしまったのです。
そうして国にはしばらくの平和が訪れました。
「めでたしめでたし、であろう。普通によくある話なのではないか?」
「んと…でも、まだページが残ってるの。お話が続いてる。」
聞いて本を覗き込むカロンに見せるようにティーナは彼の方へ傾けた。
本の厚さは残り半分といった具合で、物語の後日談でも書かれているような感じ
だったが続くその文章からはそうでない様子が窺える。
この話の往きつく先がどこであるのか。
少しの好奇心と仄かに身体の底から沸き上がってくる不安を感じながら、ティーナは
ゆっくりとその続きを朗読する。
―――大きな箱に封じられた悪魔は、数年後に再び外へと出てきました。
脆くなった封印を破って人々をまた不幸に陥れようとしましたが、その時代の人
たちは今の悪魔よりも強かったのです。
敵わないといち早く悟った悪魔は今度こそ自分が滅ぼされてしまうことを激しく恐れ
より強い新たな力を手にして人々へ復讐をすることにしました。
自分を封じた大きな箱に人々を押し入れて、悪魔はその中で永遠に彼らを終わらない
不幸と恐怖の底へと落とし続けました。
「…あわわ。とっても怖いお話だった。ね、寝られるかなぁ…。」
本を閉じてティーナが小さく身震いすると、不意にカロンの明るい声がした。
「なに。恐れる必要は全くナイ。何故ならこのワタシがいるのだからな!」
「ふっ…あはは。なにその自信。カロンったら、おかしい。」
「んん?」
変なことを言っただろうかと首を傾げるカロンに対して、ティーナは彼の根拠の無い
自信がおかしくてクスクスと笑う。
そうしていたらいつの間にか暗い雰囲気も感じていた不安も消えていた。
そこでティーナはカロンへ抱ける好感をもう一つ見つけた。
彼はいつだって紳士のようで紳士らしくないヘンテコな人だけれど、言っていること
もコロコロと変わるけれど、こうしてティーナが怖かったり不安に思うことがある
時はすぐにそれらを吹き飛ばしてくれる。
カロンは陽の光が大の苦手。本人も真っ黒に染まってる。
でも、ティーナにとっての彼は心の灯り。
ひとしきり笑ってカロンから小言を貰いながらベッドに潜り込めば、いつものように
ティーナはうとうとと夢の中へと沈んでいく。
だけどこの日は何か違うと、ハッキリとわかったのは再び目が覚めた時。
窓の外はまだ暗く夜であることを教えてくれる。
いつでもすぐ傍に居てくれたカロンの姿が―――ない。
代わりに見つけたのは、彼がいつも座っていた椅子の上に乗っている…どこかで
見た憶えのある二つの小さな鍵。
「……カロン…?」
ティーナはカンテラを片手にその鍵を拾って部屋を静かに抜け出し玄関ホールへと
足を運ぶ。
ホールの中央に、チカリと光る小さな反射物。
それが何かと近寄って小さくかがんでみれば、先に見つけた二つの鍵と同じ鍵。
ティーナはその鍵が何かを知っている。
知っているのに、何だったのかを思い出せない。
彼女の足は無意識に自然と一度も入ったことの無い館の奥の部屋へと進み、厳重に
幾つかの鍵が掛かった扉に辿り着く。
鍵穴は―――全部で四つ。
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