第4話
広場では今、騎士団の人たちがせわしなく動いている。
周辺の被害状況の確認。魔物の発生原因の調査。負傷者の治療などに当たっている。
アシュリーも、ようやく事態がひと段落して、ほっと一息つく。
すると、緊張から解かれたからか、戦闘での疲労が今になって襲ってきて、足元がふらついて倒れそうになる。
「おっと」
倒れそうになるアシュリーの体を支えるのはレイモンド。
「レイモンドさん……すみません」
「気にするなって、結局俺達は大したことはできなかったしな。ほとんど、お前に任せちまった」
「そんなこと、騎士団の皆さんがいたから、私も戦いに集中できましたし、それより被害のほうはどうなんですか?」
「町の一部が被害を受けて復旧に時間がかかるくらいだな。住民や、都市に来てたやつも、幸いなことに、重傷者はいなかったよ」
「それならよかったです……」
アシュリーは、レイモンドの腕を振りほどき、自身の足で立とうとするも、足に力がうまく入らず、再び倒れようとしてしまう。
慌てて、レイモンドは、アシュリーの体を受け止める。
「少しはおとなしくしてろ。全く、そうとう無茶したなお前。ほんと、そういうところもあの人そっくりだな」
「……そうだ、あの人にお礼」
「あの人?」
「うん、私を助けてくれたの……」
アシュリーは、そういうとあたりを見渡し、一緒に戦っていた女性を探す。
しかし、女性の姿はあたりには見当たらなかった。
「いない……」
「アシュリー」
アシュリーは声のしたほうを振り向く。
声のしたほうからは、一般の魔導師では手が出せないほどの高級そうなローブを身にまとった魔導師の一団。
その一団の先頭に立つのは、周りの魔導師と同じローブだが、所々に装飾が施された服を着ている男性。
男性の立ち居振る舞いから、育ちの良さが滲み出ている。
彼の名前は、「ルワール・フラウロス」。魔導師貴族の名門フラウロス家の貴族にして、35歳にして当主を務めている。
魔導師貴族の当主は、その家で最も優れた魔導師を意味している。
事実、彼は魔導師としての才にあふれ、都市内だけでなく、大陸中にもその名が広く知れ渡っているほど。
彼は、魔導師としての実力だけでなく、その知略も優れ、魔道の研究において、様々な功績を残している。
今、市民に行き渡っている魔導書も、彼の研究成果のひとつである。
「一人でこれだけの魔物を倒すなんて。さすがはアシュリー。少し見ない間に成長したね」
「いえ、私一人だけではこれだけの数はとても……気づいたらいなくなってしまったんですけど、もう一人、私を助けてくれた魔導師がいて、その人の力が大きかったんです」
「ほう、君がそこまで言うということは、その魔導師の能力はかなりのものだろう。ぜひ、お目にかかりたいものだ」
「お話し中失礼します、ルワール卿。随分駆けつけるのが遅かったようですが、事態をわかっておいでですか」
「レイモンド君、すまないね、北部で急に魔物が出現したもので、そちらの対処を行っていたら思ったよりも時間がかかってね」
「うちのほうにはそちらから何も連絡は入っていないのですが」
「申し訳ない、部下の伝達ミスの用だ。部下には厳しく言っておこう。それと負傷者には、僕のところから治療師を回そう」
「ありがとうございます。治療師は、都市の住民の避難所に向かわせてください。団員のけがは自分たちでしますので」
「わかった。魔物のほうはこちらで引き取ろう。最近発生している。都市内での魔物の突然発生。これについての手がかりがあるかもしれないからね」
「……分かりました」
ルワールの指示を受けた魔道兵団員たちが、数人がかりで魔物の亡骸を取り囲むと、一斉に同じ魔法を使用する。
使用している魔法は、転移魔法。空間を移動させる魔法のため、魔物を転送するには、膨大な魔力を必要とするため、数人がかりで行っている。
魔物の亡骸は、次々と転送されていく。転送先は、魔道兵団の研究施設で、そこで今回の魔物の発生について詳しく調査するためだ。
「さてと、僕はこれから、魔物の死体を調べるからこれで失礼するね。アシュリーも、たまには僕のところに顔を出すといい。ちょうど、南方の希少な茶葉が手に入ったのでね。よかったら一緒にどうかな」
「時間が空きましたら、後程うかがわせていただきます」
「うん、たのしみにしているよ」
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