第2話
突然女性の声が聞こえた後、アシュリーの目の前にお茶の入ったグラスが置かれる。アシュリーとレイモンドは、声が聞こえるまで、女性に全く気付いていなかった。
「リサさん!いつからそこに」
「最初から。気配遮断と迷彩系の応用さ」
「相変わらずだなお前は」
「その言葉そっくりそのまま返すよ」
彼女の名前は「リサ」。ここルルベルの魔導師ギルドのギルドマスターを務めている。
ギルドマスターとは、魔導師ギルドを管理している人のことで、いわばそのギルドの顔ともいえる存在。
ギルドマスターになる人は、単純に実力の高い魔導師が就く場合がほとんどだが、中には、魔導師としての実力がそこまで高くないが、代わりに交渉術やギルドの運営術に長けるている人がなる場合もある。
リサは、その高い実力から、『ルルベルの魔女』と呼ばれていたほどの魔導師で、いろんな魔導師が彼女に勝負を挑んでは、ことごとく返り討ちにあっていた。その実力を買われて、今から約5年前ここのギルドマスターに就任した。
実は、ここルルベルの魔導師ギルドが周辺で一番といわれるようになったのは、彼女の存在が大きかった。ギルドマスターになる人は、魔導師としての実力が高い人が就く場合、交渉は専門の人を雇うのが一般的。
しかし彼女は、組織運営などの面でも優れた実力を有していた。彼女の咄嗟の気転で、依頼人や都市の役人との交渉事をほとんどをギルドの有利になるように進めることができたことが多い。
さらに、ここのギルドで活動している魔導師のほとんどが、彼女に挑んでボコボコにされた魔導師。 ボコボコにされた後、彼女にほとんど脅しに近いお願いを受けて活動していた。最も今では、ほぼ手下みたいな位置にいるのを満足していたりするのだが……
その魔導師たちの中には、他の地域では名の知れた者も少なからずいた。そのため、大きな依頼を解決できる人員がいたのも、ギルドが大きくなる要因の一つでもあったのだ。
「うちの方でも情報は当たってるんだけどね。他の厄介な方に割かれて余裕ないんだよね」
その時、突如都市中に届くほどの警報音が激しく響き渡る。
すると、酒を飲んで大騒ぎしていた魔導師たちの手が止まり、一瞬で酔いがさめたかと思うと、先ほどまでの騒ぎが嘘のように、皆その表情を険しくさせる。
この警報音は、都市の内部に魔物が侵入したことを示す合図。
これは、ルルベルの周辺の魔物の中には、非常に危険な個体も多く存在しているため、万が一、都市の内部まで、魔物が進行してきたときに、都市の住民たちに速やかに知らせると共に、逃げる準備を整えやすくする狙いがあった。
つまり、今の状況は非常に危険な状態であることを知らせている。
「噂をすれば……」
「うちの所からの連絡は来てない……ったく、これで何度目だよ!クソッ!都市の人の避難はこっちでやる」
「魔物討伐は、あたしたちに任せて」
「頼んだ」
現在、都市の外周には、騎士団の詰め所が各所に設置されており、外からの魔物の警戒を常に行っている。当然、魔物の接近があったら、その時点で団長であるレイモンドのもとに報告が来ているはずなのだ。
しかし、その報告は来ていない。
しかも、この出来事は今回が初めてではないのだ。
実は、ここ2、3週間で何度も同様なことが起こっている。騎士団も警戒を厳重にしているにも拘わらず、魔物がどこからともなく現れるのだ。
「あんたら!仕事だよ!さっさと行ってこい!」
リサの声に、ギルドにいた魔導師たちは、皆立ち上がり、ギルドの外へと向かっていく。魔物の討伐数に応じて、ギルドから報奨金も出るため。それで今晩の酒代にでもしようと考えているものは特にやる気に満ちて意気揚々と出て行った。
「リサさん!私も向かいます」
「すまない。気を付けて」
アシュリーは、魔導師たちの後に続いて、外に出て行った。
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