第20話
アシュリーは、セシルと一緒に市街を探索している。
「セシルさん。どうですか?魔神書の反応」
「この街にあることは確か。でも、性格な場所までは相変わらずわからない。リリスはどう?」
「こっちも同じ感じー。多分魔神書が完全に覚醒してないんだと思う」
今二人は、都市内を歩きながら、魔神書の反応をもとに捜索を行っている。
魔神書の捜索は難航していた。
「アシュリーお姉ちゃん!」
とアシュリーを呼ぶ声がしたほうをみると、10歳に満たないと思われる男の子がアシュリーのもとまで駆けてくる。
男の子は勢いそのままにアシュリーに向かって抱き着いてくる。
アシュリーもそれを難なく受け止める。
「その子は?」
「孤児院の子なんです。たまに遊んだりして」
「アシュリーお姉ちゃん、今から僕たちと一緒に遊ぼう?」
「ごめんなさい。今日はお姉さん用事があるから」
「そんなー!」
「また今度ね」
「今度じゃダメなんだよ!」
男の子のいつもとは違う必死さに、アシュリーも拒否できないでいる。
その様子を見ていたセシルは、アシュリーに声をかける。
二人は孤児院に来ていた。
アシュリーの周りでは、子供たちが楽しくはしゃいでいる。
アシュリーは、それに振り回されつつも、一緒になって遊んでいる。
セシルはその様子を、少し離れたところにある椅子に座って見ている。
しばらく遊んだ後、子供たちはその手に魔導書を持っている。
アシュリーは今から子供たちに魔法を教えてるところ。
ここの孤児院にいる子供たちのほとんどは、大きな魔力の核を持っている。そのため、きちんと魔法を教えないと、魔力が暴走する危険があるのだ。
「それじゃあ、この的の真ん中に一番近かった人の勝ちね」
「「はーい!」」
アシュリーの声を合図に、まずは都市でアシュリーに声をかけてきた男の子が魔法を発動させるために、集中して力を込めている。
男の子が使用した魔法は、初球の水魔法の一つで水流を目の前に発射する魔法。
男の子の出した魔法陣から放たれたのは、水鉄砲と例えたほうがわかりやすい規模の魔法。
この規模の魔法でも、この年の子供としては規模の大きい部類の魔法といえる。
一般市民で孤児院と同じくらいの年齢の子だと、そもそも魔法を発動することすら難しいのだ。
男の子が放った魔法は、残念ながら的には当たらず、的から5メートル程それていた。
「外れたー!」
「少し魔法を発動させることに集中しすぎね。的に当てるイメージを持つともっと上手くいくよ」
「うん!」
「それじゃあ次の子……」
この調子でアシュリーは、子供たちの魔法を見てアドバイスを送り、手本として偶に魔法を放ったりして、子供たちに魔法を教えていた。
「……ねえねえ」
「何?」
その様子を変わらず見ていたセシルのもとに、子供たちの中にいた女の子のひとりが、近づいてきて声をかけてきた。
「お姉さんって魔法使いさん?」
「……そうだけど」
「やっぱり!魔法使いさんの恰好してるからそうだと思ったんだ。お姉さん、魔法教えて!」
「いや、私は……」
そういうや否や、女の子はセシルの手を引くと、アシュリーたちのもとへと戻ろうとする。
セシルも女の子の手を無理に引きはがすわけにもいかず、女の子に手を引かれるままに一緒にアシュリーたちのもとへと向かっていく。
それから1時間くらい、セシルはアシュリーと一緒に子供たちに魔法を教えていた。
その後は、先ほどまでセシルが座っていた場所に、今度はアシュリーも一緒になって、座って子供たちの様子を見守っている。
子供たちは、魔法を使った、的当てをしたり、追いかけっこをしたりと、思い思いにはしゃいでいた。
すると、アシュリーたちのもとに、修道服を着た老人が歩いてきた。
この人は、この孤児院の院長を務める男性で、近くの教会の神父も務めている人だ。
「子供たちのわがままにいつも付き合ってもらって申し訳ありません。わたくしがかまってやれたらよかったのですが、身体が歳には勝てませんでいて」
「 いえそんな、私も楽しかったですし」
「そちらの方は、この街で見たことないですね。旅の方でいらっしゃいますか?」
「……セシルです」
「ご迷惑じゃなかったでしょうか。突然のことで」
「とくにそんなことはないです」
「あの子達もアシュリーさんに会えるのが今日で最後かもしれないからどうしてもって聞かなくって。わたくしも止めることができずに……」
「最後って……ということは見つかったんですか?」
「はい、ルワール様が来てくださって、子どもたち全員の引き取り先が見つかったと」
「そうなんですか。よかった……」
「いやはや。ルワール様にはいつも、わたくしたちのことを考えてくださる。感謝してもしきれませんよ」
「あの子たち。これから、幸せなことがいっぱい訪れるんだろうな……」
「アシュリーさんも子供たちと会ってからずいぶん経ちますね」
「最初は、ルワール様の付き添いで来たんでしたっけ」
「それから、偶に来ていただいて、今では子供たちもすっかりなついてしまって、子供たちはあなたのことを本当のお姉ちゃんのように思っていますよ。きっと」
「お姉ちゃんだなんて、そんな大げさな……」
「先生ー」
遠くから、院長を呼ぶ子供の声が聞こえる。
「子供たちが呼んでるのでわたくしはこれで、二人はどうぞゆっくりしていてください」
院長は二人のもとを離れ、子供たちのもとへと歩いていく。
「お姉ちゃん、か……」
「……アシュリー?」
セシルの呼びかけに、アシュリーは心ここにあらずかのように、反応しなかった。
するとセシルは、アシュリーの様子を見たとたんに、自然と手がアシュリーにのびて……
「……セ、セシルさん!?」
アシュリーの頭に手をのせたかと思うと、そのまま優しく彼女の頭を、ポンポンと撫でた。
「……自分でもよくわからない。気づいたら自然と……」
セシルは自身の手をアシュリーの頭から離す。
「待って」
アシュリーがセシルの手をつかんだ。
つかんだ手を自身の頭まで戻す。
「アシュリー?」
「……もうちょっとだけ、このままで……」
そういうと、アシュリーはセシルに体を近づけ、そのまま自身の体重をセシルに預けている。
セシルもアシュリーを受け止めると、先ほどの続きで、彼女の頭をポンポンと優しくなでている。
こんな時に茶化してきそうなリリスも、珍しく声を出さずにおとなしくしていた。
二人の周りだけ、時間がゆっくりと流れているかのように……
グリモアール・コントラクト Ryo-k @zarubisu
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