第19話


「現時点での調査結果はこちらになります」


 魔道兵団の研究所にある団長用の執務室で、ルワールは部下からの報告を受けていた。

 彼の手元にある資料は、都市に現れた魔物を回収して、調べた研究結果。


「魔物は、この付近で偶に見かけるものと同タイプのものでしたか。他に何か新しいことはわかりましたか?」


「申し訳ありません。特に新しいものは何も……」


「かまわないさ。君たちの能力は高く評価している。僕のほうこそ、そちらのことにかかりきりになれなくてすまない」


「そんなことは……ルワール様がなさっていることは、私たちにはできないことばかりですので。今日は確か、孤児院の視察を行ったのでしたか」


 ルワールは、魔道兵団の団長という肩書の他にも、フラウロス家の当主としての政の仕事も行っていたりしている。


 その中の一つに、この都市のいくつかに孤児院を立てている。

 孤児院の子供たちのほとんどは、両親が魔物に襲われて亡くなっている。


「そうだね。僕が作ったものだし。定期的にこの目で確かめておかないとね」


「失礼ですが、そちらに置かれているものは、施設の子供たちからの贈り物か何かで?」


 ルワールの執務机に置かれているのは、どこにでもある紙に、覚えたてと思われるたどたどしい文字が掛かれており、真ん中に、よく見るとルワールに見える顔が書かれている。


「ああ。子供たちが僕に向けてのお礼をくれてね……っと、話が大分それたね」


「失礼いたしました。引き続き、詳しい調査を行います」


「頼んだよ。僕も今抱えてるのが終わったらそちらに合流するから」


「かしこまりました……それでは、失礼します」



 部下が部屋を出ていき、室内にはルワール一人だけ。

 ひとりになったルワールは、ある魔法を発動させる。

 その魔法、空間魔法の一種で、別空間にものを保管しておく魔法。

 空間の境に手を入れた彼は、中から1冊の魔導書を取り出す。


 その魔導書からは、禍々しい魔力が絶えず外に漏れ出ていた。


「まずは、実験動物モルモットの調達からか……」



 魔導書を見ながら笑みを浮かべているルワール。



 その笑みは、彼の部下でもまず見たことがないだろう。そう言えるほどの狂気に満ちている。

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