第18話

「なるほどね、話は分かった……」


 ここは、ギルドの2階にある、ギルドマスターの執務室。

 セシルとアシュリーの2人は、ギルドマスターであるリサの前に立っている。

 ここでの会話が、周囲に聞こえないように、部屋全体に遮音結界と隔離結界が張ってある。

 リサはアシュリーから、セシルについてと一連の事件についての報告を聞いている。



「セシルさん。君の中の魔神書は、あの遺跡に封印されていたものとは、別のもので間違いない?」


「ええ、リリスもあそこに封印された記憶はないって言ってるし、遺跡に記された文字とも一致しない」


「ちょっと待ってください。あそこの遺跡にも魔神書が封印されていたんですか?」


「そう。記されていたことは、封印されていた魔神書の中の魔神について」


「そっか、魔神書はなかったか。となると既に誰かが持ち出している……もしかしたらほかのところも……」


「リサさん。あの遺跡について、知ってたんですか」


「うん。ごめんね、アシュリーちゃん。君には魔神書のことを伝えるわけにはいかなかったんだよ。魔神書に関しては、ギルド設立と深くかかわっているからね」


「ギルド設立と、って……ギルドは、大陸中の魔導師間のでの情報の共有をすばやく行うためのものだって……」


「それは、表向きの理由。本当の理由は、大陸各地に封印されている魔神書の監視と戦力の確保」



 今から100年余り昔の話。

 ひとりの優秀な魔導師がいた。その魔導師は、魔道の才に恵まれ、無数の魔法を編み出し、現代でも用いられる魔法の大多数を、その魔導師が作ったといわれるほど。

 その魔道への探求心はとどまるところを知らず、遂には魔神書の封印を解いてしまう。


 魔神書の力は強大で、敵味方を問わず、破壊の限りを尽くしていく。

 それにより各国は、魔導師を集め、連合を組み、魔導師の討伐を決定する。

 戦いは熾烈を極め、集まった魔導師の8割もの犠牲を払い、魔導師を討伐。魔神書は、再び厳重に封印された。


 これを機に、再びこのようなことが起こらないために、魔導師ギルドは組織された。

 このことは、ギルドマスターにのみ口伝で伝えられている。


「あの時の、魔力の異変は、魔神書の封印が破れ持ち出されたということか。リリス、魔神書である君は何か分かることはない?」


「うーん。少なくともこの街のどこかにはあると思う」


 リリスのその言葉を聞いた途端に、リサの顔つきが険しくなる。

 アシュリーも、口をはさんでいないものの、驚きを隠せないでいる。


「それは確かかい?」


「多分。あの遺跡に行った後から、同じような魔力の感じがこのあたりからするんだよねー。セシルも何となく気づいているんじゃない?」


「気のせいかと思ってたけど。この感じはやっぱり……」


「でもあの遺跡。セシルさんがリリスさんの能力を使って何とかなりましたけど。あの遺跡から魔神書を持ち出せるほどの魔導師となると……」


 この都市にいる魔導師では難しいのではないか、そう考えるアシュリー。


「遺跡の内部を詳しく知っていれば、仕掛けを作動させずに、奥まで進行することは可能なはず。ただ、あの遺跡はそれこそ100年以上前のもの。当時の資料は何一つ見つかっていない」


「リリス。もしかしたら……」


「可能性はあるかもね」


「それってセシルさんの話に出てきた……」


 セシルが考えている人物は、彼女に魔神書を融合させた魔導師のこと。魔神書を持っていたことから何か関係があるのではという期待をセシルは抱く。


「……セシルさん。君が都市の人間を襲ったことに対する償いは。魔神書を見つけてきて、私のもとに持ってきたら不問にする。それでいいね?」


「……わかった」


「アシュリーも一緒に魔神書の捜索をしてもらうよ」


「私もですか?」


「君には彼女の監視の意味合いもあるからね二人で一緒に行動してもらう」


「わ、わかりました」


 リサの普段とは違う迫力に、アシュリーはうなずくしか選択肢がなかった。

 事は、アシュリーが思っている以上に深刻な事態になっている。そう感じた。


「私はこれから、各地のギルドと連絡をとって、対策を考えないといけないから。すまないが任せる。それとリリス」


「何?」


「他人の魔力を吸い取れるってことは、その逆も可能?」


「リサさん。逆って……」


「魔力を分け与えることだよ。流石に今のままだと満足に戦えないしね」


 今のリサは、リリスによって魔力を吸い取られたことが原因で、 魔力欠乏症に陥っており、魔導師として前線で戦うことができないのだ。


 魔力欠乏症の治療方法は、時間経過とともに魔力の自然回復を待つ他に、失った魔力を外部から補充する方法が存在する。

 後者の方法は、非常に繊細な魔力コントロールを要求するため、治療専門の魔導師でも、できるものは限られるもの。

 ルルベルには扱える魔導師がいなかった。そのためリサは、各地のギルドに連絡し、魔導師を探していた最中だった。


「大丈夫だよ~」


「それじゃあ私に頼める?」


「了解~。セシル」


「……わかった」


 セシルはリサのもとへと近づいていく。

 セシルの魔力の雰囲気が先ほどまでとは変化している。

 今はリリスが表に出てきて、セシルの身体を操作している状態。


「?セシルさん。何を……」


 セシルとリサのお互いの顔がすぐ近くまで近寄っていた。

 セシルに見つめられるリサは、抵抗することなく、身体をセシルに預けている。

 セシルの唇が、リサの唇に迫る……というところで、アシュリーが声を上げたためその動きをピタリと止めている。



「どうしたのアシュリーちゃん?」


「リリスさん?……あの、今何をしようと……」


「何って?この人に魔力を上げようと」


「今しようとしてたのって……キ、キスですよね……」


「うん。だってそれしか方法ないもん」


「え!?そ、そうなんですか……」



 それからセシル(リリス)はリサの唇に自身の唇を合わせる。

 リサは無抵抗にそれを受け入れている。

 二人の甘く、ねっとりとしたキスは、次第に激しさを増していく。





 見ているだけはずのアシュリーも、何故だが胸がドキドキして、視線を逸らすことができずにその光景を見つめていた。

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