第17話

「今の状態でいるだけで、ワタシの魔力は少しずつ消耗していくの。だから定期的に魔力を補給しないといけないんだよねー。魔物でもいいんだけど、ワタシの場合女の子の精気か魔力が一番効率いいんだよね」


「……本当なんですか、セシルさん」


「……本当よ」


「そんな……」


「まあ、ワタシがセシルの身体を借りてやってるから。セシルはほとんど覚えてないけどね」


「襲われた人が、そのことを覚えてないのは」


「事が終わった後には、ちょちょいと記憶を消して証拠隠滅をね」


「消すって……覚えてないってことですよね」


「違う違う。言葉通りなかったことにするの」


「そんな魔法。聞いたこと……」


「ワタシの得意魔法なんだよね~。今ではこういわれてるんだっけ?消滅魔法?」


「消滅魔法……でもそれは、物体を消滅させる魔法のはずじゃあ……」


「普通の人にはそれが限界だろうね。でも私の魔法は違うの。文字通り。形があるものも、ないものも全部ね」


「そんなのって。それじゃあやっぱりセシルさんが、リサさんを……」


 許せない。アシュリーはセシルに対して敵意を向ける。

 アシュリーは、身体強化魔法を発動させると、セシルに向かって攻撃をしていく。

 アシュリーの攻撃は、セシルに命中し、後方に吹き飛ばされる。


「どうして……あなたなら今の攻撃くらい躱せたはず、なのに何で……」


 先ほどのアシュリーの攻撃をセシルは、無抵抗に受けた。

 セシル程の実力なら、アシュリーの攻撃は簡単に避けれた。

 でもセシルは、アシュリーの攻撃を受けた。


「……私が襲った人の中に、あなたの親しくしてる魔導師がいたから」


「!それってリサさんの事?……どうしてセシルさんがリサさんのことを知ってるんですか」


「前にあった魔導師の魔力から見た記憶の中に、あなたの姿があった」


「記憶を?」


「ワタシにはおこらないんだけど。魔力をもらうときに、セシルは魔力から、相手の記憶を見るんだって」


「その人は、あなたのことをとても大切にしている。とても暖かい記憶」


「リサさんが……」



 セシルの言葉を聞いたアシュリーは、最初にギルドを訪れたときのことを思い出していた。

 ギルドに入って右も左もわからなかったアシュリーに、やさしく教えてくれた。

 アシュリーが無茶してけがをした時には、激しく怒られたけど、その後に抱きしめてくれた。

 ギルドが、アシュリーにとって、もう一つの家のようになっていた。



 アシュリーは再度、魔力を練り直し、セシルに向かっていく。


 アシュリーの攻撃が、セシルの目の前まで迫る――





「……どうして」


「……わかんないですよ。私にも」


 アシュリーの攻撃は、セシルの目の前でピタリと静止している。

 もう少しで当たるという寸前のところで、攻撃を中断した。


「どうして私の魔力を奪わなかったんですか。それに記憶も……」


「それはね~。アシュリーちゃんは魔力よりも精気のほうがおいしそうだったからかな。記憶消滅はしたはずなんだけどね。なんでだろ?アシュリーちゃんには効かないみたい」


「襲った人たちを結界で覆ったのは」


「それは私。襲ったことへのせめてもの罪滅ぼし」


「記憶を見たなら、家の場所くらい分かったんじゃ」


「そこまではわからない」


 アシュリーは、セシルへと向けていた拳を降ろす。


「……別に無理しなくていい」


「無理なんてしてないです。とにかく、事件のことはあとでリサさんに報告に行きます。セシルさんも一緒に。それとリリスさんは、これ以上都市の人を襲わないでくださいね」


「ええ~~」


「襲おうとしたら私が止めますからね」


「わかったよ……それじゃあ、お腹すいたらアシュリーちゃんにお願いしよっかな。アシュリーちゃん、ほかの子と比べ物にならないくらいおいしいし」


「リリス」


 リリスの言葉を遮るように止めるセシル。


「わかってるよー。冗談冗談」


「……わかりました」


「え?」


「本当に?やった!」


「リリス!アシュリーさんも無理しなくていいから」


「大丈夫です。それでみんなを守れるなら、私は」


「何なら今からもう一回いっとく?」


「リリス、少し黙って」


「はいはい。わかりました~」


「今はその……ちょっと心の準備が……」


「……アシュリーさん?」


「いえっ。何でも……」


 二人の間に気まずい雰囲気が流れる。

 リリスも、この雰囲気の中口を挟もうとはしない様子。

 少しの沈黙が続いている……



「……とりあえず、外に出ます?」


「……そうね」

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