第13話

 セシルの纏う魔力が急激に増大する。


「何……この魔力」


 アシュリーはこれほどの魔力を魔導師が持つのを今までに見たことがない。

 その魔力は周囲の空間をゆがめるほどのもので、恐怖すら覚えるものである。


「セシルさん!」


 セシルの目前に迫るゴーレムの拳。

 セシルはその場から動こうとしない。それどころか、真正面から迎え撃ってでる。

 セシルの拳とゴーレムの拳が互いに拮抗し合っている。


 拳に亀裂が入る……ゴーレムの拳に。

 物理耐性の高いゴーレムの拳にひびが入った。それも、打撃攻撃で。

 亀裂は、ゴーレムの腕の根元まで、徐々に進んでいき、遂にはその腕は粉々に粉砕される。


 アシュリーはその光景に言葉が出なかった。

 ただ、セシルのことが心配になった。あれだけの威力の攻撃だ。セシルの体にも少なくない影響はあるはずだと。アシュリーが視線を戻したときには、すでにセシルの姿はなかった。


 セシルはその時、ゴーレムの頭上に一瞬にして移動していた。

 セシルはもう一度、ゴーレムめがけて、その拳を振り下ろす。

 セシルの攻撃は、今度はゴーレム自体を粉々に破壊して見せた。

 ゴーレムであったものは、ただの瓦礫となり果てている。

 再生する気配は見られない。セシルの一撃は、核ごとゴーレムを破壊するものだった。


「終わった……セシルさんは……」


 セシルから突如として発生したあの魔力。あの魔力は一体何だったのか、そしてゴーレムをいとも簡単に倒したセシル、あんな魔導師がいるなんて今までに聞いたことがない……。



「セシルさん。その能力はいったい……」


 セシルのもとに駆け寄ろうとしたアシュリーの足が止まる。それは、セシルを見たから。

 身にまとっていたローブが、先の戦闘の衝撃で外れてしまったのだろう。その姿があらわとなっている。

 腰まで届きそうなほどの艶やかな黒髪。全身を黒の服とスカートで身にまとっている。その服装から肌の見える部分は手足のわずかと顔のみというほど。

 服とのコントラストを感じさせるかのような白さの肌。

 どんな宝石でも勝てないと思わせるほどの翡翠の瞳。



 その姿は、誰もがみな例外なく見惚れると思わせるほどの美しさを持っている。


 アシュリーも、セシルの姿を見たとたんに、思わず足を止めてしまった。

 さらに、見てるだけで、心臓の鼓動が早くなっており、自分でもそれは心臓の音ではっきりとわかるほど。この時、アシュリーには、セシルから視線を逸らす、という考えは一切なかった。

 それに合わせて、自身の体が胸の奥から熱くなり、意識が段々と虚ろになってくる。


 セシルはゆっくりとした足取りで、アシュリーのもとへと近づいてくる。

 二人の距離は徐々に近づき、セシルはアシュリーの目の前まで来る。

 セシルが、アシュリーの両肩にそれぞれ手を当てる。

 見つめ合う二人……


 この時、アシュリーは、セシルを見つめたまま、うっとりとした表情を浮かべている。



「……ごめん」


「……んっ」




 セシルはゆっくりとアシュリーの唇に、自身の唇を重ねる。


 アシュリーは、セシルの唇に気持ちよさを感じながら、自然と受け入れていた……

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