第10話

 アシュリーは、ルルベルの北東部にある遺跡に来ていた。

 ギルドからの依頼で、先日遺跡内部から強大な魔力が発生されたことへの調査。

 ギルドが調査チームを組んでいたが、連絡が途絶えたため、アシュリーが向かうことになった。


 遺跡の内部を進んでいくアシュリーだが、内部に入った途端に周囲の魔力が減少しているのを感じる。

 それは、この遺跡に使われている鉱石によるもので、その鉱石は、魔力を一切通さないという性質を持っており、身近なところでは、犯罪を犯した魔導師を拘束するための道具にも使われている。


 アシュリーの進む先は真っ暗で何も見えない。

 光魔法を前方に発生させ、奥へと進んでいく。


 しばらく進んでいくと、奥から激しい物音が。

 物音を聞いたアシュリーが急いで向かってみると、開けた小部屋のような場所に出た。

 そこにいたのは、先日都市でアシュリーと一緒に魔物と戦い、お店ではゲテモノ料理を何食わぬ顔で完食していたフードをかぶった女性だった。

 女性の目の前には、積みあがっている大量の瓦礫の山。


「あなたは……」


 女性は、アシュリーの声に見向きもせずに、遺跡の奥へと歩いていく。

 アシュリーは、その後を追いかけようとする。


 その時、瓦礫の山がかすかに揺れる。しかしそのことにアシュリーは気づいていない。

 瓦礫の山はゆっくりと動き出し、やがて、巨大な腕の形になる。その腕はまっすぐにアシュリーに向かっていく。

 アシュリーは腕が自身の近くに近づいてきたときに初めて気づく。

 慌てて防御魔法を発動させようとするもすでに間に合わない。咄嗟に両腕を顔の前に出し防御体制をとり、攻撃に備える。


 しばらくしても攻撃が来ないことに、アシュリーはゆっくりと腕をどけて前を見る。

 

 そこには、片手で止めている女性の姿が。


 女性は受け止めている手に魔力を込める。

 すると、腕の形をしたものは跡形もなく消滅した。


「これは、消滅魔法?」


「けがは?」


「いえ、平気です。ありがとうございました。また、助けてくれて」


「私は先を行くから」


「先って、この奥にですか?」


「そうだけど」


「一体何の目的で、そもそもここは現在立ち入り封鎖中のはずです一体どうやって中に。少しお話聞かせてください」


 アシュリーは、女性に対し警戒をしながら、魔力を込める。


「待って!」


 アシュリーが魔力を込め始めたと同時に、部屋が激しく振動する。

 すると、先ほどまであった瓦礫の山が、動き出し、やがて一体のゴーレムを作り出す。

 アシュリーが、その様子を見ていると、女性がアシュリーの腕をつかむ。


「走って!」


 二人は遺跡の部屋を抜け、遺跡の奥へと続いている通路まで走る。

 通路に出たと同時に女性は壁のある部分に触れる。

 その部分を奥まで押し込むと、通路と部屋の間に壁が現れ、ゴーレムの行く手を遮る。



「あれは、魔力を感知したら復活するタイプ」


「すみません……ってそうじゃなくて」


 アシュリーはつかまれていた腕を振りほどく。


「話の途中です。貴方はどうしてここにいるんですか」


「少し、この遺跡に用があるだけ」


 そう答えると、女性は奥へと進んでいく。

 アシュリーは、先を進む女性と背後の壁を交互に見やる。

 あのゴーレムは過去の調査で目撃情報はなかった。

 一度引き返すか、それとも先へ進むか……


「待ってください……私も行きます」


 悩んだ末アシュリーは、女性の後を追いかける。




「そういえば、まだお互いに名前知らなかったような。私の名前は、アシュリー・クローネです」


「……セシル」





 ――この二人の出会いをきっかけに様々な人の運命が動き出したことを、まだ誰も知らない。

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