第9話

「……ここは」


「気が付いたかい」


「リサさん」



 部屋に入ってきたのはリサ。

 ここはギルドの宿泊施設の1室。



「私は、確か森で……」


「事情は生き残った魔導師から聞いてる。すまない、危険な目に合わせて。私の判断ミスだ」


「そんな、私が油断したのが原因です。リサさんは悪くないですよ。それより、リサさんこそ。休んでなくて大丈夫なんですか」


「それは、まあ。動けるくらいには……」


「駄目ですよ。しっかり休まないと。レイモンドさんも心配しますよ」


「……そこでなんであいつの名前が出てくるんだ」


「いや、なんとなく……2人を見てて」


「…………冗談のもほどほどにしてくれ。それより一つ聞きたいんだけど、森の中で誰かに助けられた?」


「多分……ごめんなさい。よく覚えてないです」


「そうか……今までと違う……」


「あの、いったい何の話……」


 ベッドから起き上がるアシュリーはその時、違和感に気付く。


「私の怪我って……誰が治療してくれたんですか?」


 魔物との戦闘でアシュリーの負った傷が、すでに完治しているのだから。

 アシュリーはあの時、かなりの重傷だった。それこそ1日2日で治るはずなどないほどの大けが。


「私たちがアシュリーを見つけたのは森の入り口だよ」


「入口?あの時私は、森の奥に入って、それで魔物と……」


「森の入り口の安全地帯に寝かせられていた……アシュリーの周囲を結界で覆ってね」


「私の周囲を結界?……それって」


「私を襲った相手と同じなんだろうね。多分」


「え、でも私……」


「私やほかの子とは違い、記憶があるんだよね」


 アシュリーが発見されたときの様子は、今までの事件と同じ。違うのは、彼女が直前の記憶を失ってないということ。

 事件の様子を確認していく中で、リサは一つの推測にたどり着く。


「……これは私の推測なんだけど、魔物消滅事件と、女性襲撃事件は同一人物の可能性がある」


「そういえばあの時……あの人が魔物に手を触れたら」


「やっぱり……このことは、2人だけの話にとどめてほしい。特にルワールにはまだ話さないで」


「どうしてですか?ルワール様程の魔導師なら、何か分かるかもしれないのに」


「レイモンドも言ってたけど。私もどうにも信用できないんだよね、彼」



 その時、扉をノックする音がする。



「失礼するよ」


「ルワール様」


 部屋に入ってきたのは、ルワール。


「調子はどうだい?」


「ルワール様がどうしてここに?」


「君の見舞いと、ギルドマスターと魔物についての情報共有をね」


「それで、そっちでは何か新しく分かったことは?」


「残念ながら、都市で回収した魔物からは新しいことは何も見つからなかったよ。このあたりで偶に見かけるタイプと同じものですね」


「そうか……こっちも特に新しいことはなかったよ」


「北の森に魔導師が向かったという話を聞いたのですが。なんでも魔物が出たという話」


「そうだね。けどそちらに渡せる情報は何もないよ。なんせ魔物の死体がなかったんだから」


「それは残念。しかし、消滅魔法を使える魔導師ですか。僕のところに欲しいですね」


「探すなら勝手に探したら。ギルドに所属してない魔導師のようだから」


「ええ、そうしてみます。それでは私はこれで……それとアシュリー」


「なんでしょうか」


「君のお姉さんの行方が見つかりそうだ」


「それは……本当、ですか?」



 アシュリーの姉は、7年前の強盗事件の際に行方不明となっている。

 アシュリーがルルベルの魔導師ギルドに所属しているのは、行方不明となった姉を探すためだった。ギルド同士の情報網なら見つかるのではないかと思ったため。


「詳しいことは僕の部下に調べさせているが、確かなところからの情報だ。可能性は高いだろう」


「生きて、る……お姉、ちゃん……」


「場所がわかり次第教えよう。二人とも、私はこれで失礼するよ」


 そう言うと、ルワールは部屋を後にする。

 アシュリーは、喜びで涙を流しており、リサが彼女の頭を撫でている。

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