第8話

「(これで、最後っ!……)」


 ルルベルの西に位置する森。その中をアシュリーは歩いている。

 リサからの連絡は、この森に多数の魔物が出現したというもの。

 この森の魔力はかなり安定していて、魔物の発生は今までになかった。

 既に先遣隊の魔導師が調査に向かっているが、連絡は帰ってきていない。

 先遣隊の魔導師が見つからず、さらに森の奥まで行こうとした矢先に、この魔物たちは現れた。


 魔物は森の奥から次から次に森の中から出現している。

 しかもその魔物は、先日都市内に現れた魔物と同じタイプ。


「(都市に突然現れた魔物、魔物が出現しないはずの森に現れた魔物。そのどちらも同型の魔物……これは果たして偶然?それとも……)」


 アシュリーは、現状の報告のために、一度森を後にしようと考える。


 その時、森の奥から先ほどの魔物たちとは比べ物にならないほどの強大な魔力反応を感じる。


「(何?この魔力……今までに感じたことのない大きさ……)」


 魔力反応は徐々にアシュリーのもとまで近づいてきていた。アシュリーは既に身体強化魔法を発動させ、戦闘態勢をとる。


「嘘……」


 森の中から出てきたのは、先ほどまでアシュリーが戦っていた魔物と同タイプのものであった。しかし、大きさが桁違いに巨大であった。

 今までの魔物よりも、大きさも魔力も10倍はあろうかというほどで、アシュリーの身長を軽く倍は上回っていると思われる。


 その魔物は、口にくわえていた何かを吐き出す。

 それはアシュリーの近くに転がってきた。

 すぐに確認したアシュリーは、すぐにそれから目を離すと右手で自身の口を押える。


 魔物が吐き出したものは人だったと思われる、見るも無残な肉塊。

 装備品から、先遣隊の魔導師だということがかろうじて判別できるくらいの損傷。


 魔物は、まっすぐにアシュリーを見ている。

 アシュリーは、すぐさま戦闘態勢をとり魔物と対峙している。


 すると、目の前の魔物が突如として彼女の視界から消えた。


「速っ……」


 気付いたら魔物の攻撃が目の前まで迫っていた。

 咄嗟に自身の目の前に防御魔法を張り、魔物の攻撃を防ごうとする。

 防御魔法は魔物の攻撃をかろうじて防いでいたが、徐々に亀裂が入り始める。

 アシュリーは防御魔法が砕ける直前に、後方にジャンプし何とか魔物の攻撃をかわす。

 

「(今の速さ、それにこの威力……こんな魔物が現れたことは今までになかった……うんうん、考えるのはあと。今は……)」


 アシュリーは、身体強化魔法を2重に重ね掛けし、魔物に向かっていく。魔物の攻撃をかわし、カウンターで攻撃を仕掛ける。

 攻撃は魔物に直撃した。

 しかし、魔物の動きは一切鈍くなることなく、アシュリーに攻撃を仕掛けてきた。


「攻撃が効いていない……だったら……」


 魔物の攻撃をかわしながら、魔法を発動させる。

 魔物の周囲から無数の鎖が出現し、魔物を拘束している。魔物は振りほどこうともがいており、拘束が解けるのも時間の問題。

 その間にアシュリーは、魔法の準備を行う。


 魔物を拘束していた最後の鎖が解けた瞬間。アシュリーの魔法の準部が整う。

 使用する魔法は、先の都市での戦闘の時に魔物を一掃した魔法。今回はそれを対象の魔物1体に集中させる。

 魔法陣から次々と発射される氷柱は、魔物めがけて絶え間なく向かっている。


 氷柱を出し尽くした魔法陣は消滅していく。攻撃の余波で、魔物の周囲を土煙が覆っている。アシュリーは、立ってるのがやっとで息も呼吸を何とか整えようとしている。

 やがて土煙が晴れると、そこには……。


「嘘、でしょ……」


 何事もなかったかのように立っている魔物の姿がそこにあった。

 森での魔物との戦闘でいくらか、魔力を消耗。行動不能にならないための最低限の魔力は残していたとはいえ、それでも中規模魔法程の威力はあったはず。

 それなのに魔物には、かすり傷一つ付いた形跡が見られない。


「(私の魔法じゃ、傷一つけられない。一度引いて体制を立て直さないと……)」


 アシュリーの注意が一瞬魔物から離れていた。魔物はその隙を突くようにアシュリーに攻撃を仕掛けてくる。

 防御魔法を使おうとするも、間に合わない。


「きゃあああ!」


 魔物の攻撃を受けて吹き飛ばされるアシュリー。そのまま吹き飛ばされた先の木にぶつかる。ぶつかった木は、その衝撃で根元から真っ二つに折れてしまう。

 アシュリーは、魔物の攻撃の影響で起き上がることができないでいる。


 魔物は徐々にアシュリーのもとに近づいている。


「(お姉、ちゃん……)」


 魔物の攻撃がアシュリーに襲い掛かる。



 アシュリーは咄嗟に身を守ろうとする。

 魔物の攻撃は……一向に来ない。


 アシュリーは、ゆっくりと魔物のいる方を見ると、魔物がアシュリーに攻撃をしようとした状態のまま、何かに縛り付けられているかのように身動きできないでいる。


「これは、いったい……」


 その時、アシュリーの背後から、魔物とは別の強い魔力反応を感じる。

 段々近づいてくることに警戒を強めるアシュリーだが、現れた人物に驚きを隠せないでいる。


「あなたは……」


 その人影は、つい数時間前に見かけたゲテモノ料理を平然と平らげた女性だった。


 その人は、アシュリーの横を通り過ぎると、魔物に向かっている。

 魔物は、その人が近づくにつれ、その場を動こうと必死になっているが、身動き一つとれない状態が続いている。

 女性は、魔物の目の前で立ち止まると、その手で魔物に触れる。


 魔物は、セシルが触れた途端に、苦しみだして激しく抵抗しようとする。

 魔物は次第に、その動きを止める。すると、徐々に魔物の体が消え始めていた。


 最終的に魔物は消滅し、影も形も残っていない。



「今のは消滅魔法。あなたはいったい……」



 女性は、ゆっくりとアシュリーに近づいてくる。

 アシュリーは、戦闘態勢を取ろうとするも、魔物との戦闘での怪我の影響で、次第に視界が狭まっていく。


 突然吹いた風に、女性のフードが外れる。


 アシュリーは、女性の姿がぼんやりと見えている。遂には、その場に意識を失い倒れてしまう。


 女性はアシュリーのすぐ側まで近づくと、何かの魔法を発動させる。





 女性の手が……アシュリーに向けて伸ばされる。



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