第7話

 都市の中心部に位置しており、どの店にも行列ができている中、その店の前だけは、行列がなくすんなりと中に入ることができる。


 アシュリーは、少し店の前でためらうも、意を決してその店に入る。店内は、どこにでもありそうな料理店という印象。

 店主は少し気難しそうな印象を与えてくる。



「……注文は」


「……レッドウルフのソテー」



 少しして、アシュリーの注文した料理が出てくる。


 その料理は、とにかく見た目からしてヤバいというのがはっきりとわかるもの。全体をモザイクで覆わないと見せられないような代物。

 実はこの料理、ここの店でもまだ見た目がましな方の部類。それ以外の料理となるとそれはもう……。


 この店は、ルルベルの都市の中で一番料理の値段が安い。何故安いのか。

 ここで使われている食材は、早朝に店主自ら、都市郊外まで出て、刈ってきたものを出している。その刈ってくる対象が、都市の危険指定生物にしているモンスターで、店主は凄腕のハンターなのだ。この店は、店主がハンターの傍らに趣味でやっている利益度外視の店なのだ。

 この店は実は、創業20年にもなる都市の中でも老舗。なぜ今日まで潰れなかったのか。

 これはこの都市にある七不思議のひとつにも数えられている。



「……いただきます」



 意を決してアシュリーは、料理を口に運ぶ。噛めば噛むほど、口の中に広がる形容しがたい何かのうごめくような感じ。

 今日はまだ食べられる味で、ヤバいときは口からモザイクが出ること間違いなし。


 とその時、店の中で客同士が何か小声で会話をしているのが聞こえてきた。

 アシュリーが、声のする方を見ると、フードをかぶった人の前に料理が出されている。


 アシュリーはその人影に、どこかで見たような気がするがよく思い出せない。

 それよりも、その人の目の前に出されている料理に釘付けとなっているから。


 その料理は、この店で一番ヤバいとされているゲテモノ料理だった。その見た目、はとても表現できるようなものではない。アシュリーが食べたものがかわいく思えるほど。


 アシュリーをはじめとした客たちが、固唾をのむ中、その人は料理に口をつける。

 一口、また一口と料理は口にし続けている。

 その光景に周りの誰もが唖然としている。



「……ごちそうさま」



 気が付いたら料理がきれいに完食されていた。

 そのことに周りの客は驚いている。



「すいません……おかわりください」



 ――まだ食べるのか!?……この場にいる人の総意。


 アシュリーは、その人から発せられた声を聞いて、目の前の人が誰なのか気付いた。



 今、目の前でゲテモノ料理を平然と食べている人こそ、先の魔物との戦いでアシュリーのことを助けてくれた女性その人だった。






 アシュリーが、悪戦苦闘しながら目の前の料理を食べ終えたころ、フードの女性は追加で10皿お代わりをしていた。


 ……帰ったら胃薬を飲もう。

 アシュリーがそう心に決めていると、女性は会計を終えて店を出ていくところだった。

 アシュリーは慌てて女性の後を追いかける。



「あの!」


 アシュリーは女性に追いつき声をかける。


「……何?」


「この前、一緒に魔物と戦ってくれたの、あなたですよね」


「この前?……思い出した。あの時の魔導師」


「その時は助けてくれてありがとうございました。まだちゃんとお礼言えてなかったので」


「別に、偶々近くを通りかかっただけ」


 女性はそれだけ言うと、その場を離れていく。


「……待って!」


 アシュリーはなぜか彼女のことを引き留めてしまった。

 ただ無意識に引き留めてしまったので、次の言葉が見つからないでいた。


「……まだ何か?」


「その、最近この街で女性を狙う不審者が出てるんですけど、何か知りませんか?」


 それは、今アシュリーが一番考えてたことであったので咄嗟に出たものだった。


「……知らない」



 女性はそれだけ言うとアシュリーのもとを去って行ってしまう。

 アシュリーは、その様子が何か気になり、女性を引き留めようとした。

 

 その時、目の前に小規模の魔法式が浮かび上がる。

 魔導師ギルドに設置してある、連絡用の通信魔法だ。



「……リサさんから?」

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