第6話
「リサさん!」
アシュリーが勢いよく扉を開けるとベッドに横たわっているリサの姿が。傍らにはレイモンドの姿も。
「アシュリー。やっほー」
「 リサさんが襲われたって聞いて……大丈夫なんですか」
「魔力欠乏症だって……体のほうは2、3日休めば動けるようになるって、ただ……魔法のほうはすぐには無理みたい」
「そんな……」
『魔力欠乏症』
体内の魔力の核に収まっている魔力が一定量を下回っていること。この状態まで陥ると、元のように魔法を扱うことができるまで、かなりの時間を要する。
その時間は人によってさまざまで、場合によっては一生戻らない場合もある。
「そんな落ち込んでる暇はないよ。そんなことよりも事件のほうが大事だ」
「念のため聞くが、事件の時のことは覚えてるか」
「全然駄目。きれいさっぱり何も思い出せない。ギルドを出たところまでは覚えてるんだけど、その後の記憶はベッドの上」
「そうか……まさかお前まで被害に遭うとは……俺たちで対処できるのか」
「何しけた顔してんだよ。あんたらしくない。あんたがしっかりしないでどうするんだよ」
「……そうだな。すまない。とりあえず女には夜出歩かないように都市全域に通達を徹底させる」
「うちのほうもその手の能力のあるやつの数を増やして調べてみる」
「あの、私も……」
「駄目だ。今回ばかりはお前の能力を借りるわけにはいかねえ」
「レイモンドさん。でも、私だって何か力に……」
「私も、今回は彼の意見に賛成かな」
「リサさんまで……」
「私でも勝てなかったんだ。アシュリーじゃまず勝てない。これ以上貴方には、危険な目には遭ってほしくないんだ。私も、レイモンドも」
何か言葉を発しようとしたアシュリーの頭に手を置くレイモンド。
「てめえのそういうところ、あの人にそっくりだな。なんでも自分でやろうとするところとかな。ここは俺たちに任せて、てめえはゆっくりしてろ」
事件の手伝いを断られたアシュリーは、かといってギルドの依頼も特にめぼしいものがなく、特に目的もなく、街中をうろついている。
「おや?アシュリーちゃんじゃないかい」
アシュリーを呼び止めたのは、彼女が偶に行く魔導書や古書の取り扱いをしている店の店長。
「最近うちのところに顔見せないから気になってたんだよ」
「すみません、最近いろいろあって……」
「確かにこのところ、この町もバタついてるからなあ……っと、そうだ。ちょっと珍しいものが入ったんだ」
そう言うと店長は、手元の魔導書を使って浮遊魔法を発生させると、奥から書物が浮かんで向かってきていた。
「これは……保存魔法?」
その書物は、どこにも色あせや傷が全く見当たらなかったのだ。
その書物にかけられていた魔法は『保存魔法』という、言葉の通り魔法をかけた対象をその状態のまま保存しておく魔法のこと。一般人も高価な食器を買った時には、割れないようにかけたりするほど身近な魔法。
書物にかけられる場合もあるが、そのほとんどは古代の文献や歴史書など、国が管理するようなものにかけられるもので、市場に出回るものでその魔法がかけられたものを見ることはまずない。
「知り合いの鑑定士に見てもらったんだが。その本、保存魔法の他に、耐熱、防水、その他もろもろの防御魔法。おまけに、魔法解除対策の攻撃魔法までという手の入れようだとよ」
「それって……かなりヤバい本なんじゃ……」
「いや、それがそうでもないらしい。本に使われてる文字は確かに古代文字だから価値はあるが、鑑定士の話じゃあどこかの御伽噺なんじゃないかとさ」
そういわれたアシュリーは書物を空けて中身を読んでみる。アシュリーも、古代文字も読むことができるから。確かに、冒頭部分を少し読んで見たところ、どこかの物語みたいな話だという印象。
それでも、これだけの魔法がかけられてる。アシュリーはこの書物に興味をそそられる。
「ちなみにこの本の値段は?」
「金貨5枚」
「金貨5枚!そんなに!!」
ちなみに金貨1枚で普通の一般人なら1ヵ月は暮らせるほど。魔導師として活動しているアシュリーは一般人よりは稼いでるが、それでもこの金額は厳しいものがある。
「 アシュリーちゃんだからこの値段何だぜ。他の奴ならこの3倍は吹っ掛けてる」
それほどの書物。もうお目にかかる日はないかもしれない……。
アシュリーは、手持ちを確認する。
金貨が5枚と銀貨が数枚。
……しばらく悩んだ末、アシュリーは答えを出す。
アシュリーの手元には、先ほどの書物を持っている。
……代わりに所持金は寂しくなった。
時刻はお昼時。
昼食をとろうにも、今の所持金では、この店で買えるものは限られてくる。
「この所持金だと……あそこしかないか]
アシュリーは、ある店へと向かう。
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