第7話 偽妹?
今朝の七菜香は俺のことを「兄貴」と呼んだ。
いや、どうして早起きしてきたのか判らないが、可愛らしいピンクの寝間着姿のまま、「行ってら~」と送り出してくれたのだ。
始業式とホームルームを終えた今、俺はそんな今朝の七菜香のことを
「
アイツも、生活習慣を改めようとしているのだろうか。
「昇也」
それとも、俺を見送るためにわざわざ起きてきたのだろうか。
いや、アイツのことだから夜通し起きてただけという可能性もあるな。
「……」
あ、そうか、昨日は出掛けて疲れたから、普通に早寝早起きしただけのことか。
「……兄さん」
「な、なんだ!?」
「……兄さんって言葉は昇也にとってパワーワードなのね。シスコン過ぎて妹の血が騒ぐわ」
「なんだ、
クラスメートで他人の姫香が、俺の席の前に立っていた。
「なんだとはご挨拶ね。可愛い妹が話し掛けてるのに」
「妹? 他人だ他人」
可愛いに関しては否定できないが。
いや、可愛いというより綺麗系か。
「だ、か、ら、血の繋がってない妹でしょう?」
吐息混じりに耳元で言うな。
しかもなぜ腰をくねらす。
お前には欲情しても家族への情愛は無い! などと口に出しては言えないが。
「血の繋がらない妹って男子が最も憧れる設定なんだから、さっさと受け入れなさいよ」
「勝手に決めるな勝手に。そもそもお前は妹じゃない」
七菜香とは全く違うタイプの綺麗な顔立ちなのに、プッと
いや、これも演技くさいのだが。
「私のお母さんはだぁれ?」
くそ、またこのやり取りか。
「……俺を産んだ人だな」
「でしょう? で、私は昇也より半年遅く生まれてるから、ね?」
何が「ね?」だよ。
離婚して他人になった、とまでは言わないが、その母親が再婚した相手の連れ子なんて、それこそ赤の他人じゃないか。
「実際、あのとき昇也がお母さんの提案を受け入れていれば、今ごろ正真正銘の義兄妹だったのよ?」
両親は俺が小五の時に離婚して、俺は父親に引き取られた。
それ以後も母親とは定期的に会ってはいたが、俺は親父との暮らしに特に不満は無かった。
たが中三の秋、母親が再婚すると言って相手の男性とこの姫香を紹介してきた。
しかも、これを機に一緒に暮らさないか、と。
正直、受験を
俺は迷わず断ったし、姫香と兄妹になるなんてルートは断たれた筈なのだが……まさか同じ高校、同じクラスになるとは!
「思うのだけど」
「何だ?」
「昇也があの話を断った瞬間、フラグが立ったんじゃないかしら」
「ああ、他人になるフラグな」
「違うわ。恋人以上、兄妹未満のフラグ」
……それって、恋人以上に親しくて、もう家族に近い存在ってことだよな?
「いや、知り合い以上、友達未満ってところじゃないか?」
「じゃあ間を取って、知り合い以上、夫婦未満ってことにしましょう」
ぜんぜん間じゃねー! ていうか知り合いと夫婦の間にどれだけの人間が該当するんだ!?
「ところで、七菜香ちゃん、だったかしら? あの偽の妹はお元気?」
偽はお前だお前。
「元気だよ。冬休み中も何度か一緒にお出掛けしたしな」
「くっ、あのちんちくりんが!」
「え?」
「い、いえ、子供のお守は大変ね」
「まあちょっと変わったところはあるけど、お守ってわけじゃない。兄妹仲睦まじくってところだ」
「そう。実妹だから仲がいいのはいいことね」
アンタさっき、偽の妹と言ってたよな!?
「ねえ兄さん、私、思うのだけど」
「なんだ。っていうか俺はお前の兄さんではない」
「一緒に暮らしていると、色々と粗が見えてくるわよね。ズボラな性格とか、
一つオカシナものが混じってるぞ。
「あと奇妙な生態?」
淫らな性癖は知らんが、それ以外は概ね合っているような……。
「ズボラな性格怠惰な生活淫らな性癖奇妙な生態♪」
「
「やだ……兄さん、私のこと綺麗だなんて」
くそ、コイツと関わると、いつもコイツのペースに飲まれてしまう。
「ねえ兄さん」
「な、なんだ」
つーか近い。
「ずっとクラスの女子、いえ、学校の女子には義理の兄妹って言い触らしてきたけど」
「さらっと明るみに出た衝撃の事実!」
「禁断の
「俺が女子から避けられてるっぽいのはそのせい!?」
「中二の女の子と二股かけられてるっていうこともね」
「避けられてるどころか嫌われてるかも!?」
「だから、私達の関係は周知の事実。もう兄妹っていう障壁は気にしなくていいのよ?」
最初から無い障壁相手にシャドーボクシングでもしてんのかよ!?
ていうか障壁はお前のその性格だ!
「さて、と、あんまり強引に迫ると嫌われちゃうから、今日はこのくらいにしておくわね」
ここに至るまでの強引さは何だと思っているんだ?
「じゃあ兄さん、また明日」
「ああ。って姫香」
「なに?」
「お前、ちゃんとメシ食ってんのか?」
「……」
あー、コイツはもう。
クール美人なのに、どうしてそういう子供っぽい上目遣いをするかなぁ。
「いや、ほら、あの母親はあんなだし」
そう、息子の受験前に再婚話を持ってくるような無神経さ。
そしてその相手でもある姫香の父親も、同類ってことだ。
「食べてるけど……」
高慢だった口調まで、しおらしいものに変わる。
くそ、なんでコイツにまで庇護欲を覚えるのか。
「その、それならいいが、居心地が悪かったりしたら、まあ……たまには遊びに来い」
ぱぁーっと表情が輝く。
「お兄ちゃん!」
「いや、俺はお前の兄では無い」
「そんなことはいいの!」
いや、良くはないだろう?
「世間が認めなくても、私達は血の繋がらない兄妹だから!」
いや、世間どころか本人が認めてないんだが?
「ありがとうお兄ちゃん。また今夜、電話するね」
クール美人から甘える妹に
……。
七菜香はヘンなヤツだ。
だが、全く違うベクトルで、姫香もヘンなヤツだ。
義理の妹と、自称、義理の妹の二人に、俺は振り回され続けるのだろうか。
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