第12話 貧乳VS巨乳
「そう言えばさ、いつか貧乳で議論になったことあったよな」
月曜の朝っぱらからコイツらは……。
しかも、またエロ談義から僕の話に移行するのか。
これでは周りの印象は、エロ=沢村勉になってしまうではないか。
「巨乳の大雑把で判りやすい曲線に美は感じられない、とか言ってたな」
「そうそう、貧乳の微妙な曲線と
「いやぁ、無いわー、エロに判り難さ求められてもなぁ」
くっ、僕が反論出来ないからって、好き放題言っているが真理は変わらない!
「だからこそ芸術なんでしょ」
「げ、
咲、貧乳代表として、黙っていられなかったのか?
というか、先日の夜のことを思い出すと少し照れ臭い。
咲はチラッと僕に視線を向けるが照れた様子は無く、やはり女は図太いのではないかと思ってしまう。
「まあ判りやすい大衆文化を否定はしないけど? 高尚な芸術も否定すべきじゃないわ」
だがさすがに幼馴染、僕の言いたいことを代弁してくれた。
「そうだそうだ!」
更に他の貧乳女子も加勢する。
以前、僕が議論した時と同じ構図になってるな。
「まあウチらもアンタらに判ってほしいとは思わないけどねー」
「判んないヤツに見せる価値も無いしー」
貧乳は好きだが、口の悪い女子は苦手なのだが。
「判るヤツなら見せてもいいのかよ」
男を代表して雄介が言う。
対立しているように見えて、その実、見せてくれるとなれば簡単に貧乳派へと寝返りそうだ。
「そ、そんなの相手次第でしょ。価値が判れば誰でもいいってわけ無いじゃん」
「じゃあ勉は?」
おいコラ、死んだ人間の名前を出すな。
どうせ微妙な空気になってしまうんだし。
「……私は、見せても良かったのにな」
なっ!
悲しげな声で言うから微妙な空気だけど、想定していたものと違う!
というか生きてるうちに言ってくれ!
で、なぜ咲に睨まれるのだ。
「私も沢村なら別にいいかな」
おい、僕は君とそんなに親しくしていた覚えは無いぞ。
「でも沢村君って、胸の形とか冷静にケチつけてきそうじゃない?」
「わかるー! あとエッチする時に持論を述べてきそう。こうあるべきだ! みたいに」
いや、僕にそんな余裕があるわけないだろう。
「でもぉ、意外とさ、大切に扱ってくれそうじゃん?」
それはもちろん、女性の身体には優しく丁寧に接しなければ……。
「二宮さんはどう?」
咲、ずっと苦々しげな顔をして黙っていたのに、どうして二宮に振るんだ?
しかも離れた席に座っているのに。
「わ、私!? 私はたぶん……沢村君の好みの胸じゃないから」
さすが部長、良心的巨乳だ。
わざわざ立ち上がって答える生真面目さも素晴らしい。
「二宮さん!」
え? どうして咲が語気を強めるんだ?
「あ、えっと、沢村君は、頑固で主張を曲げたりしないけど、結局のところ、その、人となりはちゃんと見ててくれるっていうか……」
部長が恥じ入るように身を
アリだ。
恥じらいに身を
だが時既に遅し。
僕はもう死んでいる。
そんな僕の落胆など置き去りにして、一瞬、周囲に火花が散った気がした。
それはあまりに一方的な、持たざる者の
今この話の輪の中にいる全員が貧乳。
その全ての視線が二宮に集中した。
多勢に無勢だ。
僕以外の男三人は巨乳派だが、好色な視線を向けるだけで助けにはなりそうに無い。
いや、寧ろ好色な視線を集めている巨乳に、より一層、貧乳組の嫉妬心はメラメラと燃え上がるようだった。
「だいたいアンタらはさぁ」
女子の一人が僕の机に座った。
ちょ、既に僕が座って──こ、これは座位!
……僕が移動すればいいだけですよね。
咲が不機嫌になると僕はお手上げなので、即座に咲の隣に移動する。
「どうして来たの」
咲が周りにバレないように、吐息のような声で言う。
少し色っぽい。
「あれは、彼女達の同情票みたいなものだ」
何故か僕まで声をひそめてしまう。
「嫌いな男性だったら、死んだところで見せてもいいなんて思わないけど?」
女にとって嫌いな男は、死んでも嫌いなままらしい。
「咲」
「何よ?」
「どう収拾つける?」
「……私のせいなの?」
「ほぼ」
「……もうすぐ先生が来るわ」
咲の言う通り、確かに先生は来た。
だが──
「タマちゃん先生は私達の仲間ー」
空気を読まない女子が、先生まで巻き込んでしまった。
「貧乳は正義です」
先生のその一言で、貧乳派の圧倒的勝利に終わったのは、僕としてはそれで構わないのだけど。
「先日、二宮と話してどうだったんだ?」
昼休み、屋上の扉の前に座る咲に尋ねる。
というか、貧乳談義の際の、咲の二宮に対する態度が気になっていた。
先日、咲が部室に押し掛けた時に、やはり何かあったのだろうか。
「女同士の秘密です」
それを言われると追及しづらい。
咲に限って、何かを強要するようなことは無いと思うが、さっきの強い口調を思うと何も無かったとも言い切れない。
「ただ、勉の存在は確かに感じてるみたい」
……そうでなきゃ、机に本を入れたりはしないか。
「気配と言うより、視線らしいわ」
「視線?」
「朝、一人で教室にいると、斜め後ろから誰かさんの視線を感じるんだって」
僕ですね、はい。
でも、教室に部長しかいなかったら、やっぱりそっちを見てしまうものでは?
「視姦?」
「咲、どこでそんな言葉を!?」
「……勉が以前、あのバカ三人組と、ていうか勉を入れて四人組だけど、視姦の是非を論じてたじゃない」
学校の昼休みに、いったい何の話をしてるんだ、その馬鹿どもは。
……でも、楽しかったな。
「二宮さんのこと、好きなの?」
「そ、そんなわけは無い! 好ましい女性だとは思っているが……」
咲は何故か優しい笑みを浮かべる。
ただ優しいだけじゃなくて、包容力というか、出来の悪い子を見守るみたいな……。
「勉はバカだなぁ」
うん、そうかも知れない。
僕は何故か、素直にその言葉を受け入れてしまう。
「周りも、すぐ
咲の言う意味をイマイチ理解できていないけれど、僕はバカなのだろうということは理解できた。
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