第21話 『妹』のために

 宿を抜け出したアローがまず向かったのは教会だった。

 ひとつは、大蝙蝠の一件が呪殺事件絡みだとするならば、ミステルは墓所の様子を見に行った可能性があること。もうひとつは、ミステルは無条件で自分を視認できるハインツ、彼の他にも聖霊魔術師がいるのであろう教会には、必要以上に近づかないであろうと踏んだからだ。

 彼女の足取りを掴みやすいだけではなく、教会にいる分にはミステルに見つからないであろうという、一石二鳥の策である。

 ミステルの場所は、アローには探知できている。ミステルはアローの使い魔だから、それも当然だ。真っ直ぐ居場所を追わなかったのは、彼女が近づかないであろうと見込んで、教会で人を待たせていたからだった。

 教会の門扉は固く閉ざされていたが、アローを見るなり門番は無言で会釈して扉を開ける。ランタンすら持たずに突然やってきたアローを即座に迎え入れるくたいだから、話は通っているのだろう。

 大聖堂まで足早に駆けていくと、そこにはハインツとヒルダが待っていた。

「やれやれ、君は本当に司祭使いが荒いね。本当だったら今頃は乙女と夜の仕事に勤しんでいるはずだったのだが……」

「男女の営みは仕事じゃない。ましてや結婚もしていない上に聖職者の君の場合は、単なる放蕩と呼ぶ」

「これは厳しいな」

 肩をすくめるハインツをさらりと無視して、アローはヒルダを見やった。騎士の正装をしているので、きちんと許可をとって来たのだろう。

「君は来てくれないかもしれないと思った」

 ハインツに渡してもらった騎士団への書状は、実は騎士団あてではなくヒルダ個人へのものだった。ヒルダが本当に狙われているのかどうかはともかくとして、犯人を追いつめた時に彼女がそばにいなければ、呪いを防ぐのに苦労するのは必至だからだ。

 とはいえ、それは同時に剣技でどうにかなる相手ではなかった場合、彼女を人質にされる可能性もあるということだ。おまけに確実に彼女が苦手とする死霊、呪いがらみの話になるだけに、ここに来ることは強要しない、とは書き留めていた。離れているからといって、守る術が全くないわけではないからだ。

「そりゃ、正直嫌だって思う気持ちがないわけではないけど。自分が狙われてるなら自力で何とかしたいし……それに、剣で何とかなることなら私がアローを護れるから」

「無理をしなくてもいいぞ?」

「いいのよ。七年前のお礼をしないといけないしね」

「七年前?」

 アローが首を傾げる。

「覚えてない? ……って言っても、私もミステルさんに聞いて初めてちゃんと顔と名前が一致したんだけど……子供の頃、王都で一度会ったよね? 私が誘拐された時、助けてくれたでしょ?」

 七年前、王都で出会った子供。誘拐事件。

 そこまで言われてわからないほど、アローも鈍くなかった。

「あの時の貴族の女の子……ヒルダだったのか? 全然わからなかったぞ……確かに元気な子だったけれど、もっとこう、ドレスとかを着て……」

「そりゃ、あの頃は剣を習ってない、ちょっとおてんばなだけの子供だったもの」

「それなら……ヒルダが死霊を苦手になったのは。僕のせいじゃないのか?」

 七年前のあの日、魔法書店に入り浸ってなかなか出てこない師匠にしびれをきらしたアローは、たまたま屋敷を抜け出して遊んでいた貴族の少女と仲良くなった。お互い、名前も知らないまま遊んだ。その時流行していた子供向けの本に、男の子と女の子の二人組が活躍する物語があったらしい。彼女が教えてくれた、その本の主人公たちの名前で呼び合った。だから、彼女の本名は知らなかった。

 アローは帰りに、師匠にねだってその本を買ってもらおうとのん気に考えながら、彼女とのごっこ遊びの冒険を繰り広げた。そして裏通りを冒険している内に治安の悪い区画に入り込み、身なりのよさで貴族の娘だと気づいた悪漢にアローもろとも攫われた。

 アローはあの頃はまだ、やっと無意識に死者を呼び覚ましてしまうクセをどうにか抑え込むことを覚えただけだった。そして、初めてできた友達の危機に、アローはついそれを忘れてしまった。

 ――僕と彼女を守れ

 たったそれだけの命令で、路地裏は阿鼻叫喚の煉獄となった。

 アローが制御のきかない魔法で、その近辺で死んだあらゆる生物の霊を呼び出してしまった。そして死霊たちは、ヒルダと自分以外の全てを攻撃し始めた。止めることはできなかった。異変に気付いた師匠が駆けつけるまで、殺戮は続いた。

 ヒルダはそれを目の当たりにして、トラウマになってしまったのだろう。

 本を買うことはできなかった。いつしかその物語のことも記憶から抜けていた。

 ただただ、魔力を使い尽くして動けなくなり、師匠に背負われながら泣いていた。もう都にきてはいけないという、師匠の言葉だけが深く胸に突き刺さっていた。

(全部、僕のせいじゃないか)

 ヒルダがトラウマになったのも、森に引きこもっていたのも、ミステルがアローに何も告げず一人で死んでいったのも。

 全て、自分が原因ではないのか?

「君はやっぱり、ここに残るべきだ。聖堂にいれば呪いは届きづらくなる。だから……」

 恐らく、自分は焦っていたし、混乱していた。だけどヒルダはこともなげに笑った。

「ねぇ、アロー。私、剣の道を目指したのは、あの時何もできずに怯えた自分が、一番嫌だったからよ。それこそ、死霊よりもね」

 彼女は剣を抜き、その切っ先を空へと向ける。淡い月光に照らされ、銀の刃が鈍く光った。

「剣で斬れるものなんて何も怖くないわ。そうでしょう、カーテ司祭」

「うんうん。やっぱり騎士はこうでないとね」

 ハインツが取り出したのは、小さな玻璃の瓶。薄明りの下でも、それが何なのか、アローにははっきりとわかった。

「そうか、聖油か」

「ご名答。それも儀式用の形式ばかりに作った濫造品じゃあない。正真正銘、フライアの加護をたっぷりと受けている聖油だよ。これを使えば、剣戟でも聖霊魔法と同様の効果を発揮する」

 聖油は、単純に言えば死霊系の魔物に対して物理的攻撃で対処するための魔法道具だ。消耗品であるし、よほどのことがなければ物理攻撃で少しずつ倒すよりも、聖霊魔法で一網打尽にした方が早い。だからあまり実用はされない。

 だが、戦女神とされるほどの剣の腕前を持つヒルダなら、話は別だ。発動に時間がかかる聖霊魔法の欠点を考えれば、下手な聖霊魔術師を連れていくよりもよほど戦力になる。

「さあ、行きましょう、アロー。ミステルさんを助けにいくんでしょう?」

「知ってるのか?」

「あれだけぴったりくっついていたがるミステルさんを連れてきてない時点で、私だって色々察するわよ」

「そうか……」

 ミステルを救いにいく。

 色々と察する、と言ったのだから、ヒルダもミステルがお姫様のように犯人に囚われているなどとは考えないだろう。呼び出しの手紙を持たせたあの時、ミステルはまだアローと一緒にいたのだから。

 青薔薇館でアローとハインツがバートラン家のことを聞きだしている間、ヒルダとミステルの間にも何かはあったのだ。ミステルは必死に否定していたが、ヒルダがミステルを助けたいと思うだけのことは、あった。

「さて、戦力はアロー君の死霊術、聖油の加護付きのヒルダ嬢の剣、そして私の聖霊魔法だ。悠長に発動させる猶予があるとも思えないし、略式魔法の護符を持ち込むくらいだがね。相手が無茶なことをやってこないことを祈ろう」

「えっ、カーテ司祭も行くんですか!?」

 ハインツはあくまでアローが来るまでの立会人だと思っていたらしい。ヒルダは、若干複雑そうな顔になった。聖油で死霊に関して言えば強気になっている彼女だったが、ハインツは別口で苦手なのだろう。彼女はハインツの聖霊魔法の有用性を見たわけではないので、なおのことだ。

「一応、この事件の立会人ということになっているんだよ、私は。お任せというわけにはいかないさ。せっかく乙女の誘いを断ってまできたのだから、今晩で事件解決といきたいものだ」

「「乙女の誘いは断れ」断ってください」

 アローとヒルダが声をそろえて即答したのを、ハインツは「おっと」と肩をすくめて受け流した。この男も大概にブレない。

「それで、君の妹君は今どのあたりにいるのかな?」

「気配をたどるのはこれからだが、居場所については大体予測がついている。墓守からは何も報告はなかったのだろう?」

「ああ、墓所側の出入り口もくまなく見回りをさせている。訪ねてくる者も、侵入者もいないそうだよ。まぁ、彼は死霊が見える者ではないから、ミステル嬢がいたかどうかまでは判断しかねるが……」

「大丈夫だ。大蝙蝠の一件があるから、ミステルも墓所に直接来たりはしないと思う。遠目に確認する程度で済ませたはずだ。だから、ミステルは今、きっとバートラン公爵邸にいる」

「あ、バートランって……カタリナさんの?」

「ああ、そうだ」

 ミステルが呪いの肩代わりをするほどに関係があり、呪術を嗜み、更に教会が手を出すことをためらう血筋の人間。全てを満たすのはカタリナ・ワルプルギスの他にいない。

「理由はわからない。ミステルが何故関わることになったのかも。だが、呪殺を起こした実行犯は、間違いなくワルプルギスだ」

 それが、アローの出した結論だった。

 バートラン公爵邸は、貴族の中でも位が高い者が多い、王宮近くの一等地にある。公爵領は公国としての自治権を認められているので、常に王都の公爵邸に公爵が在宅しているわけではない。ちなみにバートラン公爵領は、アローたちが住んでいた黒き森近くの一帯であり、王の直轄領のすぐ隣である。黒き森の管理については半分がバートラン公爵にゆだねられている。

 そこにミステルが彼女に与した理由があるのかもしれない。

 教会で馬を借りて、三人はバートラン家まで駆けた。

 公爵邸の窓には灯りがともっていない。外から見れば、不在のように見える。もちろん、家を管理させるための使用人は常駐しているだろうが、この時間は眠っているか、使用人部屋にこもっているのだろう。

「アローが馬に乗れて助かったわ。二人乗りだと速度も落ちるし」

「森で育ったから乗り慣れているわけではないが……狩りもしていたから大抵のことは一通りできる」

「傭兵を物理で転がしてたものね」

「師匠の教えが役に立った」

「君の師匠は魔術師ではなかったのかな」

「あの人は何でもやる……何でも」

 自給自足だった森での日々と、師匠の容赦ない教育の成果で、アローは狩り、乗馬、家事は当然として、剣や弓、槍、体術など、一通り使い方は覚えている。

 もちろん剣術だけでは、ヒルダくらいの使い手が相手だったら普通に負けるだろう。それでも、ただの魔術師よりは物理戦闘をこなせる。

「……そういえば、結局戦女神の本分を発揮しるところを見ていないな」

「戦女神はいいから。地味な聞き込み調査ばかりだったから仕方ないわ。でも、剣の腕前は信用して」

 苦笑交じりにヒルダは馬から降りる。夜番の兵はいなかった。門扉は微かに開いている。鍵がかかっていないのだ。

「おやおや、これはこれは……入ってくださいと言わんばかりだね。随分と手厚い歓迎だ」

「おどけないでください。つまり、アローの推測がほとんど当たっていたってことですよね」

「いやいや、驚きの真犯人がいるかもしれないよ? カタリナ・ワルプルギス本人が望んで行っていることなのか、裏に黒幕がいるのかも今の時点ではさっぱりわからないんだからね」

「行けばわかる」

 アローはためらうことなく、門の中に入る。

「あ、ちょっと待って、アロー!」

 ヒルダはそれを追いかけ、刹那、横から襲いかかってきた大蝙蝠の牙をとっさに剣で受け止める。

「魔物!?」

 大蝙蝠を振り払い、両断。後ろから迫ってきたもう一匹を振り返りざまに突く。

 実に鮮やかな動きだった。戦女神の通り名は飾りじゃない。

「小出しにしてきたな」

 ミステルはここにいる。アローにははっきりと存在を察知できる。

 しかし、ここまで近くに来てしまうと、ミステルの方にもアローがここにきていることが知られているはずだ。だからこそ、アローたちを死なせない程度の魔物をけしかけて威嚇している。

「今の、ミステルさん?」

「さぁ、どっちだろうな。殺す気はないみたいだから、ミステルの方かもしれない」

「うむ。進むたびに大蝙蝠につつかれるのは面倒だ。ここは私が何とかしよう」

 ハインツが聖霊の護符を出す。

「フライアの加護を!」

 中空に白い光による円陣が浮かび、飛びかかってきた大蝙蝠一匹を弾き飛ばす。

「これでしばらく盾になるはずだ。アロー君、ミステル嬢のところに案内してくれるかな」

「カ、カーテ司祭が真っ当な聖霊魔法を!?」

 さんざんナマグサぶりを発揮してきたハインツが、時間がかかるはずの聖霊魔法を即時発動させたのがよほど衝撃的だったらしい。それでも彼女は職務を忘れなかった。盾を避けて襲来した大蝙蝠を瞬時に斬り捨てる。大蝙蝠は聖油がなくても剣で斬ることができる魔物だ。彼女は怯えることなく冷静に敵を屠っている。

 ハインツの魔法とヒルダの剣があれば、ひとまず大蝙蝠に邪魔される心配はないだろう。

 アローは落ち着いてミステルの気配を探す。

「……多分、屋敷の裏手だ」

「了解。そこまでなら護符一枚で魔法は維持できるな」

 三人は広い公爵邸の庭園を駆け抜けて、裏手へと向かう。ハインツの魔法に弾かれ、ヒルダの剣に斃された大蝙蝠の死骸が整った庭園を凄惨にしていくが、こちらも庭師の苦労にまでは構っていられない。

 屋敷を回って裏庭にたどりつく。そこは使用人たちのための離れ、彼らの使う井戸、納屋が配置されており、庭というよりは作業場に近い場所のようだった。夜の今はひっそりと静まり返っている。

 そこには一人の人間と一人の死霊が三人を待っていた。

 バートラン公爵家の長女で、骨董店主人にして占い師、カタリナ・ワルプルギス。そしてアローの義理の妹――であった死霊、ミステル・シュバルツ。

「お兄様、どうして来てしまったのですか。私は……私は、貴方に危害が及ぶ前に何もかもを隠してしまうつもりだったのに」

 ミステルが悲しげに目を伏せる。

「どうしてって、そんなの、簡単じゃないか。わからないのか、ミステル」

「わからないです。私が何をしているのか、気づいたからここにいらっしゃったのでしょう? それなのにどうしてですか? お兄様、何でそんな風に、いつも通り……妹を見るような目で私のことを見るのですか?」

「だから、簡単なことだろう。ミステルが僕の大事な家族で、大事な使い魔で、何よりも僕のことを大好きでいてくれたミステルが、何の理由もなくこんなことをするはずがないと確信しているからだ」

 アローはそこまでつとめて穏やかな声で答えた後、軽くカタリナを睨みつける。

「……右腕がない。ミステルの助けなしでの呪術は君には難しかったようだな」

「そうねぇ。まぁ、私の作ったイマイチな依代でも、命全部は持って行かれなかったんだから、褒めて欲しいくらいよ。大蝙蝠との舞踏会は楽しかった?」

「翌朝、大寝坊して大変だった。次は昼間に開催してくれ」

「あら、昼間だったら死霊術で簡単に、とはいかなかったんじゃないの?」

「君だって昼間だったら右腕じゃすまなかったぞ」

 死霊と同様に、魔物も夜間の方が活発なものが多い。とくに大蝙蝠は、蝙蝠の習性ゆえに夜目はきくが昼間はあまり役に立たない。昼間も動ける魔物を使役するのは、それなりの魔力と技術が必要なのだ。

「僕はわからない。君が何で若い女性ばかり狙って呪いをばらまくことになったのか。わかることは一つだけだ。君はミステルを巻き込んだ。ミステルに自分が受けるはずだった呪いの反動を肩代わりさせ、ミステルを死に追いやった。それだけだ」

「うーん、惜しいわね、アロー君。確かに、呪術についてミステルちゃんからやり方を教わったのは私。呪術を使ったのも私。それは否定しないわ。今更だし? でもひとつだけ勘違いしてる。呪いの反動を肩代わりするのは、ミステルちゃんが提案してきたことよ?」

「……本当か? ミステル」

 ミステルは少し迷ったように見えた。しばらく顔をそらし考え込んだ後、やがて観念したようにうなずく。

「本当です。ワルプルギス女史の呪いを肩代わりすることは、私が提案いたしました。そのかわり、いくつか彼女に条件をのんでいただきましたが」

「私とミステルちゃんは利害が一致した共犯ってことね。ああ、この家のことなら別に気にしなくてもいいわ。私が主犯。裏に誰かなんかいないわよぉ」

 あはははは、とカタリナはたちの悪い酔っぱらいのように高らかに笑う。

 わからなかった。彼女の目的だけはどうしてもわからなかった。

 カタリナに関してわかったことは、公爵令嬢であったこと。妹がいたこと。妹はすでに亡くなっていることだ。公爵家の家督争いに関しては、少なくとも彼女自身は蚊帳の外だった。

 だけど、その時アローは何かが引っかかったのだ。

 前妻の娘で、金は家から持ちだしながらも、その金で商売にもならないような趣味の店を営んでいる。それだけ見ていれば、彼女は家からも厄介者扱いで遠ざけられていたように思える。

 しかし、本当にそうだろうか。貴族の娘は、二十歳を超える前に大半が嫁ぐなり婚約者を持つなりする。カタリナは貴族の娘としては結婚適齢期をすぎていることになるが、公爵令嬢であることには変わりない。家柄だけで、結婚の相手はいくらでも探し出せるだろう。

 妹の婚姻を手駒と考えていた公爵家の息子たちが、カタリナに目を向けないなんてことがあるだろうか? 

 彼らには、カタリナの婚約を手駒にすることをためらう理由があった。

 ひとつは、呪殺の主犯格であることを知っており、公爵家の醜聞が明るみに出ることを恐れていた可能性。もうひとつは、カタリナ自身が彼らの弱みを握っていた場合。呪殺が始まった時期を考えれば、後者の可能性が高い。

「ふふふ、アロー君。めちゃくちゃ考え込んでるわねぇ。そんなに不思議? 妹想いのアロー君になら、私の気持ちわかると思ったんだけどぉ」

 カタリナの言葉に、アローの脳裏にはグリューネにたどりついたその日、カタリナの店に行った時の出来事が蘇った。

 ミステルの遺体を焼いて灰にしてしまったことに、やけに焦った様子を見せた彼女を。

 そして、ミステルを生前の姿そのままに、まるで生きた人間のような肉体を持った存在で蘇らせる方法があると聞いた時の、輝くような笑顔を。

「……まさか、妹を蘇らせるつもりだったのか?」

 女性ばかりが狙われる呪殺事件。

 家柄も職業もばらばらで、若く美しい女性であること以外に共通点がない。

 なぜなら、若く美しい女性の身体と魂こそが、犯人の欲するものだったからだ。

「カタリナ・ワルプルギス、お前……ミステルの遺体を奪うつもりだったのか?」

「あら、人聞き悪いわぁ。私、ミステルちゃんのことは大好きよ。外見的に申し分ないし、お兄さん想いなところもいいわ。だからミステルちゃんなら、私の妹にするのに最高の素材だと思ったんだけど、残念だったわ。アロー君、燃やしちゃうんだもん」

 カタリナは微笑み。

「でも、もうおしまいねぇ。そろそろおしゃべりしている時間もないわ。だからアロー君、私の妹のために死んでくれないかしら?」

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