第6話 突撃王都の騎士団寮

 これは夢だ。

 漠然と、そういう実感があった。

 二つの目が映し出す景色は、いつもよりも目線が低い。伸ばした手はまだ小さく、話す声も高い。夢の中で、アローは子供の頃に戻っていた。

 夢だとわかっているのに、体は勝手に走り出す。アローはただ傍観者となって、小さな自分の行動を見守るだけだ。

 場所は住み慣れた森の中ではない。都の大通りのようだった。

 まだミステルと出会う前には、アローは何度か都に足を運んでいた。正確にはアローを拾って育ててくれた魔術の師匠が、用事を足すついでに連れてきてくれたのだ。厳しい師匠だったが、都に来た時は気前よく菓子を買ってくれるので、喜んでついていった。

 ある日を境に、アローは都についていくのをやめた。一人で留守番をするのが問題ない歳になったというのもあるが、原因はもっと別のことだ。

 子供の駆け足にあわせてゆっくりと動いていた景色が、不意に暗転する。小さな女の子の泣き声。土に汚れ、所々破けたドレスに身を包んだ、育ちの良さそうな少女。七、八歳だろうか。

 この辺りで、アローもこれが過去に起こったできごとの再現だと気がついた。師匠に連れられて都に来たある日、いつまでも魔術書の店から師匠が出てこなくて、とても退屈していたのだ。

 気まぐれに大通りを歩いて、一人の少女と仲良くなった。名前はよく覚えていない。顔もおぼろげだ。金髪だったような気がする。貴族の子供だったんだな、と思ったのは後になってからだった。

 少女はおてんばな子で、ドレスが汚れるのもいとわずに裏通りを二人で探検した。そして、誘拐犯に襲われたのもその時だった。手足をしばられて、狭くて暗い部屋に閉じこめられて。アローに理解できたのは少女がお金のために連れ去られたのだということと、どうやら自分は巻き込まれたらしいということだ。その時は、とにかく少女を助けなければならないと、一心に考えていた。

 だからかもしれない。いつも自然に聞こえていたその声に、初めて自分の意志で『命令』をした。

「僕と彼女を守れ」

 その後は、この夢の通りだ。彼女は泣きやまない。すでに誘拐犯の姿はなく、アローは自分がやったことの意味もわからないまま、ただ漠然と『間違ってしまった』ということだけは実感していた。

 ずっと、少女の泣き声が響いている。ここはすでに小屋ではなかった。小屋であった残骸が辺りに散らばっている。そこに師匠がやってきて、呆れたような、どこか悲しんでいるような声で言った。

「馬鹿弟子が。しばらく森から出るのを禁止する」



 目を覚ますと、素朴な板の天井が広がっている。少なくともそこに師匠はいないし、少女もいない。夢から覚めた。これは現実だ。

「……また、ずいぶんと懐かしいものを」

 何度か瞬きをしてから起きあがって辺りを見回すと、質素な寝台が大部屋にいくつも並んでいた。

 それで、アローは自分が教会の所有する宿舎に間借りしたことを思い出す。

 建国祭や秋に行われるフライアを賛美する豊穣祭の際には、国中から人が訪れる。ここは遠くから来た巡礼者や、司祭になるために修行をしにきた若い僧侶が寝泊まりに使っている施設らしい。

 宿がないアローに、ハインツが用意してくれたのだ。

 命を育む豊穣の神のたもとで、死霊術師がすやすやと爆睡していたというのもどうかと思うが、特に女神の怒りに触れた様子はない。フライアは生をつかさどるのと同時に、死をもつかさどっている。死霊術師も、フライアにとっては信者の範疇なのかもしれない。

(しかし、ハインツを信用していいのかどうかは、悩むところだな……)

 高位の司祭の割に軽薄な言動は、多少はめをはずしたところで彼の地位が揺らぐことはないという自信の現れでもある。恐らく、彼は見た目よりもずっと「できる」男だ。今のところ、助けても何一つ得がなさそうなアローを、どうして手助けしたのか。

「うーん、でも、教会のお膝元だしな」

 ハインツは、少なくともアローを犯人だと思っている風ではない。事実、彼がミステルの証言を元に乗り合い馬車の御者に確認をとり、アローが昨日の朝に到着したばかりであることは実証された。

 衣装が特徴的だから覚えられていた、というのは若干納得いかなかったが。死霊術師の正装は、なぜここまで評判が悪いのだろう。もしかすると、死霊術が誤解を受けているのは格好のせいだったのだろうか。

 アローはこわばった肩をほぐすようにぐるぐると回す。毛布、堅い枕と藁にシーツを掛けただけ寝台はお世辞にも寝心地がよいとはいえない。とはいえ、今まで暮らしていた森の山小屋も、設備で言えばたいして変わりはなかったので、不満は特になかった。

 幸いというべきか、今はアロー以外に誰もいない。ミステルを呼んでも問題なさそうだ。

 世間知らずなアローもさすがに、人目があるところで姿の見えないミステルに話しかけるのは、相当まずい行為だったことは察している。昨日の一件ですっかりこりた。

「ミステル」

「お呼びですか、お兄様」

 隣に、ふわりと妹が姿を現す。

「今日これからのことを話す。あと、そういえば、ミステルが正装をしているのを見たことがないな、と思って……少し気になった」

「あんなダサ……崇高な衣装は私にはもったいないですから。お兄様にこそふさわしいのです」

 妹が前半に少々不穏に口ごもったことを、アローはさほど意に介さなかった。優しい彼女は、自分を気遣って言葉を濁してくれたのだろう。普通にそう考えただけだ。それくらい、アローはミステルを信頼している。

 改めて半透明のミステルをじっと見つめる。その服装は生前、都に行く時によく着ていた深い藍色のワンピースに魔術文字を金糸で縫いつけた黒いケープというものだ。

 その姿をじっと見つめた後、アローはそこはかとなく納得した。

「ミステル、お前はその服装が一番似合っているからそれでいい」

「今はお兄様の使い魔なのですから、他にお好みの姿があれば着替えますよ」

「……うーん、僕はミステルがその服でいいなら別にいいけど」

「なら、このままで。ちなみに、今日のことですか、これから街に出てナンパを致しますか? 昨日よりは勝率が上がると良いのですが」

 いそいそと部屋を見回して出口を探す義妹を、アローは制した。

「それは一旦やめる。騎士団へ向かおう。ヒルダに会うぞ」

 ミステルはあからさまに嫌そうな顔になる。どうにも彼女はヒルダのことがカタリナ以上に嫌いなようだ。初対面があれでは仕方がないのかもしれない。

「この際だから、僕は呪殺事件の解決に協力することにした」

「犯人の疑いは晴れたのではないですか?」

「なし崩しにな」

「ご自分でお調べになって、完全なる潔白を証明なさるのですか?」

 アローは首を横に振った。犯人扱いではなくなったのだから、身の潔白はこの際どうでもいい。むしろ死霊術師の偏見が根深いという教訓を得られただけ、誤認逮捕にもある意味価値があった。これからは軽率に身分を明かすの前に、相手の受け取り方を考えなければ。

「いくつか気になることがある。お前の死因にも関わることだ」

 呪殺事件がカタリナの言う『美人薄命病』とやらだとすると、ミステルの死因が単なる病死ではない可能性があること。さらに、ミステルが呪殺されたのだとすると、魔術に造詣が深い彼女を騙せるほどの高度の呪術を使えるということ。そうなると、騎士団がどうこうできる問題とは思えないこと。

 ハインツが関わっていることを考えれば、騎士団にも魔術関連の事件では教会と協力体制を敷くか、または逆に教会側から騎士団に協力を乞う制度があるのだろう。だからきっと、死霊術師であるアローが入り込む余地がある。何せこの手のことに関しては、教会よりもよほど詳しい。

「司祭は何かしら気づいているとは思う。だけど、ヒルダはどうだろうな」

「私の死因は純粋に、ただの病死だと思われますよ?」

「万が一ということもある。それに、やっぱり自分が巻き込まれた事件をただ眺めているだけというのは寝覚めが悪い。騎士団と仲良くしていれば、不審者扱いもされなさそうだしな」

「ああ、お兄様がそんな打算的なことをおっしゃるなんて」

「気にするところはそこなのか」

 今度はアローが、呆れ半分のまなざしで妹の嘆きを受け流す。

「お前の姿は誰にでも見えるようにしよう。その方が安全だ。相手が呪術師ならば、気づかれやすくなるが……まぁ、おびき出すつもりでいくぞ」

「私としては、お兄様にはあまり危ないことはなさらずにナンパをお楽しみいただきたいのですが」

「昨日の今日でナンパの成功率があがるとは思えない。特に楽しいことにはならないさ。それに、僕はそこまでひ弱じゃない」

 森で暮らしている間は、弓や短剣で獣を狩って生活していたし、師匠はアローに魔術だけではなく基本的な戦闘術を教えてくれている。相手が裏通りのごろつきや少しばかり攻撃的な魔物程度なら、問題ない。

「せっかく都まで出てきたんだ。できることはやってみるさ」

「そうですか」

 ミステルは少し悲しそうに目を伏せる。

「ところでお兄様、ひとつ残念なお知らせが」

「何だ?」

「先ほど、お兄様が私に語りかけているのを目撃した、同室にいたご老人が必死に神へのお祈りをしつつ去っていきました」

「……それは申し訳ないことをしたが、たぶん、フライアのご加護でミステルは消えないと思うな。ここも一応神殿の施設内なのに、普通に話ができてるし」

「気にするのはそこですか」

 呆れと感心がない混ぜになった声音で、ミステルは本日すでに三回目のその言葉を口にした。



 他人にも姿が見えるように、ミステルには魔力を分け与えて、ようやく二人は宿舎を出た。出際に例のご老人から祈りの言葉を唱えられたし、宿舎の管理人はいつの間にか増えた同行者の少女に首を傾げた。この先顔を合わせる機会があるかも疑わしい相手だし、気にしないことにする。

 裏手の教会に寄って、一応ハインツに礼を述べておこうと思ったのだが、彼は不在だった。

 アローの服は相変わらず各方面から大不評のローブである。牢屋を出た時にごく一般的な服を一式借りたのだが、結局落ち着かなくてこの服装に戻ってしまった。顔を見せないと不審がられることはわかったので、渋々とフードはとっている。

「何か視線を感じる……」

「気のせいですよ、お兄様」

 隣で澄ました顔をしながら、ミステルはアローと腕を組んでいた。姿を見えるようにしていても、ミステルには実体がない。アローには触れられるが、その体には重みがなく、腕を組まれても綿が触れている程度の感触だ。

 教会から借りた街の見取り図を元に、騎士団本部へと向かう。グリューネは小高い丘に作られた都だ。頂上に王宮があり、王宮のすぐ隣に騎士団本部が置かれている。その周りを囲むように美しい町並みが並び、下町へ行くに従ってその風景はだんだん庶民的になっていく。教会は丘のちょうど中腹辺りに位置していて、アローは緩やかな坂道をひたすら上っていくことになった。

「あれか……」

 美しい白い石造りの王宮を背に、敷地をぐるりと囲む城壁の四隅には高い物見の塔がある。大通りに近い塔の横にあるのが剛健な灰褐色の建物、騎士団本部だ。花冠に剣をあしらったグリューネ王国の国旗と、盾を背景に剣と槍を交差させた騎士団旗が掲げられている。正門には守衛の騎士が甲冑と槍を手に立っていた。

「来たのはいいですが、我々は昨日拘束されて釈放されたというだけの縁です。門前払いになるのでは?」

 ミステルがもっともなことを言う。正直、何も考えずにここに来てしまったアローは、ヒルダを誘いだす上手い口実も思いつかず、最早やってきた手詰まりの気配に顔をしかめた。

「しかし、他にあてもないぞ」

 しばらく二人でぶつぶつと話し合っていると、守衛があからさまに不審そうな目を向けてくる。これでは昨日の二の舞である。

(こんなことなら、昨晩のうちに約束を取り付けておくんだったな)

 ぼんやりと、自分の世間知らずを呪い始めたが、二人の心配はあっさりと解決した。

「アローさん?」

 名前を呼ばれて振り返ると、そこには腰に剣を携えたヒルダが立っていたからだ。

「別に呼び捨てでかまわない」

 少々面食らいながらそう答えると、ヒルダは苦笑を漏らした。

「もっと先に言うべきことがある気もするけれど」

「なぜ君がここに?」

「それはこちらのセリフ。守衛から通達があったのよ。怪しい身なりの少年が、少女と一緒に門前をうろうろしていると。もしかして、と思ったらやっぱり貴方たちだったのね」

「顔とミステルの姿を見せているあたりに、大いなる進化を見てくれ」

「そこは一応、評価するわ」

 はぁ、とため息混じりにヒルダは額を押さえる。

「それで、騎士団に何のご用かしら?」

「呪殺事件の捜査に協力したい」

「必要ないわ。騎士団の管轄に一般人を巻き込むわけにはいかないもの」

「そうか?」

 断られることは、アローも予測していた。そこまで考えなしに乗り込んできたわけではない。守衛に不審者扱いされたのは計算外ではあったが。

「見たところ、君たちには呪術に関する知識はない。カーテ司祭はそれなりに詳しいだろうが、立場上すべての場面において助力を頼むわけにはいかない。そうだろう?」

 ハインツは地位の高い司祭だ。呪殺という特殊な案件とはいえ、事件にばかりかまっているほどの暇はないだろう。たとえ実状は遊び歩いているのだとしても、建前上はそういうことになっているはずだ。教会は教会の都合でしか動かない。それは、師匠から叩き込まれたので知識として知っている。死霊を相手にする者として、教会とはどうあっても関わらずにいるのは難しいからだ。

 アローの指摘は的を射ていたようで、ヒルダは渋面のまま黙り込んだ。

「呪術は死霊魔術の本分ではないが、関わりが深いのは間違いない。少なくとも、地位の低い僧侶をせっつくよりは僕の方が正しい呪術の知識を提示できるし、証拠を見つけられる可能性も高い」

「言い分はごもっともよ。でも、私の一存で決めていいことではないの。それに私は今日、非番だし……」

 言われてみれば、彼女の今日の服装は、昨日とは様子が違っていた。騎士団制服の詰め襟の上着は着ておらず、刺繍の入ったチュニックに、織り模様の入った膝丈のスカート、膝まである皮のブーツという装いだ。ベルトで腰に下げた剣だけが変わりない。

「なるほど私服だな。そういうのも似合うと思う」

「なっ……」

 ヒルダが頬を赤らめる。アローはきょとんとして首をかしげ、そして二人の間に割って入ったミステルが肩をいからせて叫んだ。

「お兄様!? 今はナンパをされている場合ではありませんよ!?」

「な、ナンパ? ミステル、僕はナンパなんてしてないぞ?」

 しかし、ミステルがわざわざ訂正するということは、何気なくヒルダにかけた言葉はナンパとしては適切だったということかもしれない。それならば。

「少し待っていてくれ。ミステル。後学のために、今の状況にるいて覚え書きをとっておいてもいいだろうか」

「いけません、お兄様。それはお兄様には必要のない知識です。とりあえずナンパのことはお忘れください」

「これはミステルのためでもあるんだ。必要だろう」

「断じて! 必要ありません! よろしいですか、お兄様。現在の最重要課題は、この女騎士に恩を売ってコネを作ることです。最終的にナンパ以上の成果をあげることになるでしょう。ですので、ひとまずナンパのことはお忘れください。黒き森に捨て去って来てください!」

「……ミステルがそこまで言うのなら」

 怒涛のイキオイで反対する義妹の言葉に気おされて、アローはかくかくとうなずいた。一方、目の前で堂々と「恩を売る」という身もふたもない本音を暴露されたヒルダは、白けた様子で二人を見守っている。

「貴方がモテない理由はどうやら格好のせいだけじゃないようね」

「……そうか。やっぱり見た目からして非モテ系なのだろうな」

「そこから離れて? どちらかというと、圧倒的な世間知らずさと、妹さんの言葉に感化されすぎな点が問題よ」

「ヒルダ様、余計なことを吹き込まないでください」

「……撤回するわ。妹さんに兄離れをさせることが先決ね」

 アローは納得がいかず小首を傾げる。

 ミステルは自分のことなど頼らずとも大抵のことは自分でやってくれる。都への使いも一人でこなすし、一緒に暮らしていた時も、男手が必要なことの他は全てこなしていた。兄離れを十分に果たしているように思えた。

 もちろん、ヒルダはそういう意味で言ったわけではなかったが、アローはどこまでも世間知らずだった。最後に都に出たのは七年前。当時はまだ子供だった。それから先日都にくるまでの数年間、ミステル以外の人間と話すことすらなかったのだから、世間ずれするのは仕方のないことだ。なまじミステルとしか会話していなかったから、兄至上主義のミステルの言動が考え方の基準になっているところがある。

「……まったく。怪しい格好で生贄がどうのと言っているから、どんな凶悪な魔術師かと思えば、中身がこんなボケボケだっただなんて」

「ボケボケ……いやいや、さすがにまだボケるには若すぎるぞ。僕は健康だ」

 真顔で返すと、ヒルダは深いため息をついた。ミステルまで少し微妙な顔をしたので、どうやらまたズレたことを言ってしまったらしいと悟る。

「……誤解なきように言っておくけれど、生贄を探していたのは本当だが、人を殺すつもりはなかった。使い魔となったミステルに実体を与えるためには、魂の力が必要なんだ。確かに、一人殺せば簡単に手に入るが、そんなのは生者にも死者にも冒涜だ。だからできるだけ多くの、できればミステルと歳の近い娘から少しずつ分けてもらうつもりでいた」

 今度はヒルダの方がきょとんとしていた。当然かもしれない。よほどこの種類の魔術に精通していなければ、生贄、というとまずは人柱的なものを想像するのだろう。多くの人から少しずつ、などとは考えない。貴族が少しばかりたしなむような一般的な魔術書には、まずやり方すら載っていない。アローの魔術の師匠は、魔術師の中でもかなりの変わり者だったから、応用魔術の知識も一通り叩き込まれていたというだけのことだ。

「……もしかして、そのためにナンパを?」

「ああ。快く魂をわけてもらうには、女の子と親しくなるのが一番だろう」

「お兄様は気遣いができるお方なのですよ、いきなり剣をつきつけてきた貴方とは違って!」

 ミステルが横から悪態をつく。……が、ヒルダの顔に浮かんだのは、笑みだった。

「ふっ……あははははは」

「何かおかしなことを言っただろうか」

「いいえ。確かに私は死霊術を誤解していたわ。同時にとっても不安よ。貴方、そんな右も左もわかってない様子で、ナンパなんて現実的じゃない」

 ひとしきり笑った後、ヒルダは歳相応の女の子らしい微笑みを浮かべて、手を差し出す。

「騎士として協力をとりつけることは、私個人の権限じゃどうにもならないけど……私が非番の日にたまたま貴方に会って、たまたま用事に付き合っていたら事件の手がかりを得た。そういう風にはできるわ。どう?」

「……っ! お願いしよう」

 騎士と死霊術師は固く握手を交わし。

「…………お兄様ぁ」

 触れることができないゆえに、割って入ることもできなかったミステルは、不満そうに頬を膨らませたのだった。

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