第19話 お姉ちゃん襲来
「姉ちゃん、どうやってここに?」
俺と同じように窓から
それはすなわち、鍵の掛かった俺の部屋にも入ったことを意味する。
部屋の鍵は外から開けられないはず。
「お姉ちゃんの部屋の天井に穴をあけて、屋根裏から
てへっと可愛く笑っているけどやっていることがワイルド過ぎるし恐い。
「ちょっと待て。父さんも母さんも何も言わなかったのか?」
「騒音対策はバッチリだし、お姉ちゃんと
だもんって、家に穴が開いたと知ったら父さん倒れるんじゃないか。
「ただ穴を開けたんじゃなくて、ちゃんと蓋ができるようにしてきたから安心して」
「安心できねーよ! いつでも俺の部屋に来れるってことだろ!?」
「えへへ。震えるほど喜ばなくてもいいのに」
「喜んでねーよ! 恐怖で震えてるんだよ」
こうして
「はぁ、きゅー
「せっかく連続ログインしてたんだから途切れさせるのはもったいなって思ったの」
「一週間はもうぶっ飛んだことはしないみたいな雰囲気だったのに」
「え~?
「そ、それは」
琉未は体を縮こまらせて所在なさげにモジモジする。
たしかに今日の
「正々堂々と戦う上で
「ちょっと待って! マジでどの辺から見てたの!?」
「んー? 二人が宿題中にキスしそうになったあたりから」
俺と
もしかしてそれをネタに俺達を脅す気なんじゃ……。
「お姉ちゃんはね、
「きゅー
「だって
なんかすごく良いことを言ってる風だけど、勝手に俺の部屋に侵入して全く
「だけど、
「肉欲なんてないから! むしろ姉ちゃんの行動の方が恐いから!」
「ほんとにー? お姉ちゃんが入ってこなかったら我慢できなくなってたんじゃない?」
「そんなこと……あるわけねーだろ」
最後の方は
俺は
「きゅー
「うん?」
「あたしは
「なっ! お前何を」
急にキスやらエッチやら言われて俺の方が焦ってしまう。
「それはお姉ちゃんも一緒。
「だったら何でこんなことを……」
こっちはキスの課題をクリアされるのが恐くて
「正々堂々と戦うって言ったでしょ? お姉ちゃんは同じ家で暮らしてる。
「平等って……」
姉ちゃんに関しては家を改造して俺の部屋に侵入してるんだけど。
「これでお姉ちゃんと
「あの……きゅー
「うん?」
「
「!?!?!?」
まるで強烈な電気が流れたかのように姉ちゃんの目がくわっと見開かれる。
そんな状態でもまだ美人なんだから、本当に俺ばかりに構ってないで彼氏でも作ってほしい。
「どこの誰!? その子とも正式にライバルにならないと。そしてお姉ちゃんこそが
姉ちゃんは俺の肩を掴みゆさゆさと頭も揺らす。
好きな人の名前を言うなんて恥ずかしい。それ以上に、
そんな
「まさか、ログボ目当ての女に一目惚れしたんじゃないでしょうね?」
「ち~が~う~」
頭を揺らされているのでうまく発生できない。
思考力も低下しているので、この発言がヒントになってしまうことにも気付けなかった。
「ふふ~ん? つまり、ログボになる前から好きだったわけね?」
「へー。
さっきまでライバル同士バチバチばった二人が手を組み始めている。
マズい。こんなの絶対太刀打ちできねーよ。
「お姉ちゃん達だけ好きな人の名前を言ってるのって不公平だと思わない?」
「そうだそうだー。
「ゆ~ら~す~の~や~め~て~」
姉ちゃんがパッと手を離すと、俺は床に倒れ込む。
「おとなしく白状する気になったのね。さすが
「どこがよ。拷問に屈しただけじゃない」
ジリジリと近付いてくる二人の足。
ふと見上げると、琉未の黒いパンツが見えた。
「バッ! なに見てんの!」
「わるい!
ズゴッ!!
「がっ!」
後頭部に衝撃が走った。
経験したことはないけど、レンガで殴られたらこんな感じなんだろな。
「ふぅ。
「なにやってんの!?
「
かすかに二人の声が頭に入って来る。意識は失っていないようだ。
「俺なら……平気だ」
「
床に突っ伏したまま生存報告をする。
「さすが
「……きゅー
「好き好き超大好き」
透き通るような綺麗な声で好きを連呼される。
これが実の姉じゃなかったら完璧リア充なんだけどな。
「あのさ、きゅー
「それを言ったら
「う……っ! あたしは血の繋がりがない幼馴染だからいいの! きゅー
「お姉ちゃんが弟に恋したら……ダメ?」
姉ちゃんの言葉は
なんでダメかと問われたらそういう法律だからとしか言えない。
きっと姉ちゃんだって知っている。法律以上の理由を見出せず、部屋に沈黙が訪れる。
「覚えてる? お姉ちゃんが公園で転んだ時、まだ小さかった
姉ちゃんが俺の手を握る。日付はまだ4月18日。これで本日のログインは完了。連続ログイン7日目だ。
「そんなことあったっけ?」
「まだ小さいから覚えてないか。でもね、お姉ちゃんにはその時の連ちゃんが周りのどの男の子よりもカッコ良く見えたの」
「まさか……それだけで?」
たったそれだけのことで実の弟に恋するなんて。
「お姉ちゃんだって初めは戸惑った。初恋が弟なんておかしいって。でもね、他の男の子には全然ときめかなかった。ああ、お姉ちゃんは
俺は姉ちゃんに引っ張られるように立ち上がる。
その時の俺は姉ちゃんを助けたかもしれないけど、姉ちゃんに助けられることの方が多い。
成績だって学年一位だし生徒会長だってやってる。
俺なんかよりもずっと上の存在だし、もっと良い男が寄ってくるはずだ。
「恋って、そういうものだと思わない?」
姉ちゃんの長い黒髪が風で揺れる。
どこか切なげな笑顔に思わず心が奪われそうになった。
それはまるで、俺が恋した弐田さんの笑顔のようだったから。
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