第17話 距離感
急接近した
ファーストキスは未遂に終わった。
「ご、ごめん!」
謝ったのは
「俺の方こそ……曖昧な態度で」
「ううん。あたしが焦って……」
へなへなと力が抜けたように机に突っ伏す。
だらしなさが増してより太ももや胸元が無防備になっているけど、さっきまで感じていた色気を感じない。
「ああああ、なにやってんだろ」
「ホントだよ。
「ね。あたしの方がヘタレだった」
ハハハと乾いた笑いが部屋の中に
「あの、手で防いだのは
「わかってる」
この数週間で俺達の関係は大きく動きだしたけど、これまで積み上げてきたものは変わらない。
やっぱり
「
「んだよそれ!」
「そうやってムキになるところが怪しい」
「琉未だってあんなシチュで良かったのかよ」
「ふふん。あたしの方からキスしたことでこの先ずっとマウントを取れる。最高のシチュエーションじゃない」
少しずつ元気を取り戻したように見えるけど、どこか無理しているような。
物理的に近くなりすぎて逆に遠くなってしまった二人の距離感を、
「あれだ。とにかく今は宿題を終わらせないか?」
「そうね。二人して忘れてきたら絶対に
「だろ? なんで女子ってすぐに恋愛に結び付けるかね」
「男子だってすぐいやらしい目で見るじゃん」
「……返す言葉もありません」
実際ログボ目当てで近付いてくる女子の匂いや手の感触はあれこれ妄想を膨らませる。
例え胸が小さくてもガードが緩ければ視線は胸元にいく。
隙あらばエロを見出すのが男子高校という生き物なんだと思う。
「ふーん。へー。他に好きな子がいるのにあたしをいやらしい目で見てたんだぁ?」
新しいおもちゃを買ってもらって喜ぶ子供のように無邪気な、それでいて瞳の奥には邪悪さを宿した笑顔を俺に向ける。
「まだまだ女の子に対する免疫ができてないね?」
「そんなすぐできるか」
「ふふん。特訓は継続だから」
匂いと熱が脳を刺激して
「ほら、手が止まってる」
「これから集中するんだよ」
口ではそう言ったものの頭が全く回らない。
この状況になれるとしたら、それは男としての機能を失った時じゃないだろうか。
「ふふん。
「うるせー。俺が苦戦してるのは数学じゃなくて……」
「数学じゃなくて?」
琉未はニヤニヤしながら言葉の続きを待っている。
あえて急かさず、不敵な笑みを浮かべて楽しそうだ。
「……いや、数学だ。俺だって調子が悪い日がある。
「じゃあ、これからうちで勉強するようにしたら連の方が学年トップ10の実力を発揮してくれるんだ?」
「当然だ。わっはっは」
このままでは
無理に大声で笑って自分を
「それじゃ、今日から毎日うちで寝なさい」
「なんでだよ!」
「あ、ご飯はさすがに自分の家で食べて。きゅー
「そういう問題じゃなくて」
俺はあくまで姉ちゃんの連続ログインをリセットするために
そうじゃない日まで
「
「
真面目な
「もちろん
「無料家庭教師って俺のことか?」
「ふふん。女子高生二人の家庭教師になんてログボどころの騒ぎじゃないわ。むしろ感謝してほしいくらい」
自分のブランド力を知ってか知らずか、
いや、別にそんなこと感じてなくていいし、むしろ
「だからって毎日
「なら宿題はうちでやって、終わったら自分の部屋で寝て。いいわね?」
「……もしかしてハメられた?」
「ふふん。有名な交渉術よ」
初めに無茶な要求をして、そこから譲歩すると比較的簡単に受け入れてもられるというやつだ。
前に漫画で読んだことがあるけど、それを実際に自分が経験するとは思ってもみなかった。
「フンターフンターのやつだろ?」
「そう。
「へいへい。それは立派なことで」
雑に褒めたけど、内心では貸した漫画をちゃんと読んでくれていたのが嬉しかったりする。
おもしろいからと勧めたけど特に感想は聞いてなかったし。
「その……これだけは約束してほしいんだけど」
「うん?」
「もしこの先、何があっても。一緒にゲームしたり、漫画を貸し借りしたりしてくれる?」
「…………当たり前だろ」
ほんの一秒くらいだけど、妙な間を置いて俺は答えた。
物理的な距離はすごく近い、もはや時々触れ合うくらいなのに、心の距離はまだ少し遠い。
反比例のグラフをノートに描くと、なんだか自分達のように思えて仕方無かった。
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