第7話 朝チュン
チュンチュン。
外からスズメの鳴き声が聞こえる。
顔に朝日が当たって目覚めるのは何年振りだろうか。
いつもカーテンを閉めているので日当たりが悪い。
「ああ、そうだ。
見慣れないわけじゃない天井が視界に映る。
緊張して寝れないと思っていたけど気付いたら眠ってしまったようだ。
体を起こすとある違和感に気付く。
「おい。なんで布団の中にいるんだ?」
隣には幼馴染がスヤスヤと寝息を立てている。
まるで小学生のような童顔なので、こうしておとなしく寝てる分には可愛いと思う。
「俺、何もしてないよな?」
自分の心と記憶に問い掛ける。
雰囲気に流されて……なんてことも俺達に限ってないと思う。
「琉未のベッドに俺が潜り込んでるならともかく、この状況は琉未の方から来たんだよな?」
体が自然に浮き上がるはずがない。だとすれば琉未が下に落ちてきた。
その割にはしっかり布団の中に入ってるけど。
「おい。起き」
言いかけて、琉未の体をゆすろうとしたのを止めた。
今この状況で起こしたら誤解を招きかけない。
一旦放置して、寝相が悪いことにしておこう。
「まずは着替えて平静を装おう」
すぐ隣にある自室へ戻ればいくらでも荷物は取り放題だが、姉ちゃんがどんな手段を使って待ち構えているかわからない。
念のため着替えなどはしっかり準備してきた。
窓から差し込む光を浴びながらスウェットを脱ぐと、背中に衝撃を感じた。
「ちょっ! 待って! 心の準備が。それとも
俺が下着姿になったタイミングで
顔を真っ赤にして、寝起きにも関わらず血圧はしっかり上がっていそうだ。
「おはよう。俺はただ着替えてるだけだ。それ以外には何もないし、何もなかった」
0時過ぎに布団に入ってから現在時刻の7時30分までの間に何があったかは記憶にないので『何もなかった』については断言できないけど。
「まだ寝てるうちに先に着替えようと思ったんだ。もちろん琉未が着替える時は出ていくから」
「そういう問題じゃないでしょうが!」
バチン! と勢いよく背中を叩かれた。
つい最近まで毎日くらっていたので忘れていたが、久しぶりだと結構な威力だったことを思い知らされる。
「なんであたしと連が同じ布団に!? あたし、ちゃんとベッドに入ったよね?」
「ああ、入った。その後はすぐに寝た」
「そ、そうよね。あたしって寝相悪かったのかな。あははは」
「修学旅行の時とかどうだったんだ?
「うーん。特に何も言われなかったかな」
「言われてないんかい」
俺にぶつけた枕をギュッと抱きしめて琉未は深刻な表情を浮かべてた。
「まあ、あれだ。昔は同じ布団で寝たこともあるわけだし、高校生の男女がお互いに記憶がないんだから本当に何もなかったんだよ。な?」
「そそそそそそうだよね。あたし達、いい歳なんだから何かあれば覚えてるよね」
「うんうん。初体験の記憶がないとかあまりにも残念すぎる」
「はつt!?」
少しずつ元の顔色に戻っていた琉未が再びポンッと真っ赤になる。
さんざん大人っぽくしたと豪語したくせに相変わらずこの手の話題には弱いらしい。
見た目通りと言えば見た目通りだけど。
「……あたしが寝てる隙にどこか触ってないでしょうね?」
「誰がお前なんか! むしろ被害者はこっちだぞ」
「なによ! ログボ目当ての女の子しか寄ってこないくせに、おまけに手を繋いだら用済みのくせに」
「ログボは今は関係ないだろ!」
「ふふん。その点あたしはログボと関係なく連と一緒に寝てるからね。そこら辺の女子と一緒にされちゃ困るわ」
「お前は一体誰と戦ってるんだ」
妙に
「じゃあ俺はおじさん達に挨拶して帰るから。それまでに着替えを済ませてくれよな」
「え? 帰っちゃうの?」
「姉ちゃんのログボはリセットされたし、あまり長居したら迷惑だろ。また2週間後くらいにお世話になると思うし」
そう言って俺は琉未の部屋をあとにして1階へと降りる。
味噌汁の良い匂いがするからおばさんは起きてる。おじさんはどうだろう。まだ寝てるかもな。
***
二人にお世話になった挨拶をして部屋の前まで戻る。
ここで安易にドアを開けてはいけない。こういう場合、だいたい着替え中だったりするんだ。
「おーい。もう着替えは済んだか?」
しっかり部屋の主に状況を確認する。
せっかく関係を修復できたんだから、ここでうかつにトラブルを起こしてはならない。
「もうちょっと待って」
「おう」
俺の予感は的中した。
何も考えずに部屋に入ったら唯一の帰り道を塞がれてしまうところだった。
琉未の着替えを待つ間、昨夜のことを思い返す。
0時を回って自分の部屋に帰ろうとする俺を引き留めた琉未の表情が頭から離れない。
「なんで急にあんな顔するんだよ」
思わず独り言が漏れてしまった。
幼馴染であり、好きな人の親友。
恋愛対象として見たことはなかったのに、たった一晩でその見方が変わってしまった。
「俺の倫理観と理性よ。どうか俺をしっかり止めてくれ」
自分自身にしっかりと言い聞かせた。
もし一旦リセットされても、もう一度同じ関係を築けるように。
「
「おう。
部屋の主のお許しが出たところでゆっくりとドアノブを回す。
ここで焦るとろくなことがない。
今まで読んできたラブコメ作品はたいていそうだった。そんな人生の教科書とも言えるラブコメで学んだことを活かし慎重に行動する。
「どう……かな」
部屋の中に小さな天使がいた。
そんな錯覚を起こすくらい綺麗に着飾った
今まで一度も見たことのないような白いフリルが付いたワンピース。
桜色のリボンは琉未の小顔をさらに引き立てている。
「どうしたんだよ。
心の中では可愛いと思っていても、それを幼馴染に対して言うのは恥ずかしくてつい弐田さんの名前を出してしまった。
琉未は首を横に振る。
「
琉未の口から発せられた言葉の意味をすぐには理解できず、俺は数秒間、口を開けた間抜け面を幼馴染に晒してしまった。
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