第4話 頼れる幼馴染
4月11日。今日は土曜日で学校は休み。
さすがに休日にインターホンを鳴らしてログボを受け取りにくる女子はいない。
家族、特に姉ちゃんの壁が厚い。
それと同時に姉ちゃんが問題となるのも事実。
同じ家に住んでいるので学校が休みだろうが関係なしにログボを受け取れる。
「れーんちゃーん! あれ? 開かない!?」
「姉ちゃん無駄だよ。俺の部屋に鍵を付けた」
「いつの間に!?」
父さんと母さんには正直に事情を説明した。
このままだと
「まあ、姉弟で仲が良いのは結構じゃないか」
「そうよねえ。気心も知れてるし」
「お前ら二人の倫理観も俺が持ってっちゃったのか!?」
こんなやりとりがあったものの、これまでの俺の真面目な生活態度が評価され鍵を取り付けてもらえた。
「そうやって引きこもるつもり? お姉ちゃん、悲しい」
「俺は姉ちゃんと近親相姦になる方が悲しいよ」
「パパとママも認めてくれてるのに?」
「認めてるのかよ!?」
あれか? 俺と姉ちゃんが結婚すれば相手方のご両親に気を遣わなくて済むとか考えてるじゃないだろうな。
まずい。この家に居たら姉ちゃんと禁断の愛を成就させられる。
逃げなくては。でもどこに? 男子高校生が一日中逃げ隠れられる場所なんて……。
「
真っ先に思い浮かんだのはじゅうごではなく琉未の顔だった。
いつだって俺を助けてくれた幼馴染。
2年生になってからなぜかギクシャクしてるけど、この機会を利用すれば強引にでも話すきっかけを作れるかもしれない。
「ふふん。お腹が空くのは我慢できてもトイレは我慢できないしょ? お姉ちゃん、トイレの前で待ち構えてるから」
そう言い残し、姉ちゃんの足音が少しずつ離れていくのが聞こえた。
どうやら本当にトイレの前で待つらしい。
あの両親のことだからトイレで待機する姉ちゃんに差し入れもしそうだ。
「まずは
既読スルーされたら終わりだし、これからお願いすることは簡単に許しを得られるものじゃない。
電話で直接頼むのが筋ってものだ。
今まで散々一緒に居たのに、ここ2週間くらいまともに話していないだけで妙に緊張する。
覚悟を決めたはずなのに『
プルルルル
スマホから電子音が流れる。
1コール、2コール。そんなすぐには出ないと頭でわかっているはずなのに心は焦る。
助けてもらえなくてもいい、せめて電話には出てくれる程度の関係であることを確かめたかった。
「……はい」
俺はどれくらいコールし続けたのだろうか。ただひたすら待ち続けた結果、普段よりトーンの低い琉未の声が聞こえた。
「よかった。出てくれた」
「何の用?」
「ああ、悪い。休みなのに」
今まで琉未に電話を掛けたことなんてなかったけど、明らかに俺の知ってる琉未じゃない。
休みだからとかじゃない。俺を遠ざけようとしているのを感じた。
「あのさ、琉未も知ってるだろ。ログボのこと」
「…………」
琉未の返事はない。だけど知ってるはずだ。俺と、
「ログボ目当ての女子は休みだから平気なんだけど、姉ちゃんがさ、このアプリを利用して俺とキスしようとしてるんだよ」
「……ぇ」
小さいけど何か反応してくれた気がする。でも、明確な返事ではなかった。
このまま事情を説明し続ける。
「琉未も知ってるかもだけど、1回でも途切れればまた1日目からやり直しなんだ。姉ちゃんが4月1日から毎日ログインしてて今日は11日目。そろそろリセットしないとマズい」
「それで、あたしにどうしてほしいの?」
「一日だけ俺を琉未の家に泊めてほしい」
無茶なお願いだとわかっている。
いくら隣に住む幼馴染とは言え、年頃の娘と同じ屋根の下に泊まらせるなんて琉未の両親が許さない。
それでも
「
「ああ」
じゅうごの家庭は少し複雑なので泊めてくれなんて頼めない。
それに泊まるのは今回限りではない。14日目のログボが近付く度にリセットのために逃げる必要がある。
定期的に
「待ってて。聞いてくる。またあとで電話するから」
「うん。ありが」
言いかけたところで一方的に切られてしまった。
怒っているように感じたけど、困っている俺を助けてくれるのは俺が知ってる参子琉未だ。
ログボが貰えれば好きでもないのに平気で手を繋ぐ女子。
実の弟でも好きなら一直線の姉。
急に冷たくなった幼馴染。
「あああああ!!! 女心わかんねー!!!」
ばふっとベッドにダイブするとスマホが着信を知らせる。
「もしもし!」
電話なんて滅多に掛かってこない。琉未からだと確信して勢いよくスマホを取った。
「女心ならお姉ちゃんが教えてあげる。ハグしながらね」
プツっと無言で電話を切った。俺の叫びが廊下にまで響いてしまったらしい。
『11日目 ハグする 1万6000円』
姉ちゃんに抱き付かれるなんて日常茶飯事だし、姉ちゃんは報酬に興味はない。
よくよく考えるとキス以外の課題をログボに関係なくクリアしている姉弟の関係に
膝枕。匂いを嗅がせる。胸を触らせる。
ふつう姉弟でこんなことしないよな……。
プルルルル
姉弟の関係について悩んでいると再びスマホが着信を知らせた。
今度はしっかり画面を確認する。
頼れる幼馴染の名前が表示されていた。
「もしもし」
緊張して声が裏返ってしまった。
「なに緊張してんの?
「マジ?」
「うちに泊まるのが嫌ならきゅー
「ありがたく避難させていただきます」
「じゃ、待ってるから」
「ありが」
またお礼を言う前に一方的に切られてしまった。
でも、なんとなく。なんとなくだけど『待ってるから』の声が少しだけ嬉しそうだった気がする。
これがきっかけで琉未との関係を修復できれば
そんな風に琉未を利用しようとしている自分が、本当にみんなが言う『良い人』なのか疑問に感じた。
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