第7話 緊急原作会議(始)

今日は土曜日。学校に行っているとなんだか恐ろしいくらいに時間が経つのは遅く感じるが、一方で休みの日は時間が経つのははやい。


くそっ!世の中理不尽だっ‼︎ 人間自分に都合のいいように考えたくなるとはいうけど、休日がもっとあればいいと思うのは学生共通の思想ではないだろうか。


兎にも角にも今日はその貴重な休みだ。日頃のストレスをしっかりと発散しようじゃないか!




−−−−−




というわけで、やってきました○善!やはりヲ・タ・クにとって本屋とアニメ○トは近所の喫茶店のような感覚だ。


勿論古本屋の方がお財布的には優しいが、不思議なもので新刊というものは少なくとも一冊は手元に置きたくなる今日この頃(決して臭いフェチではないクンカクンカ)




店内に入って早々、直進した先には当たり前だがラノベコーナーがある。今日は数年ぶりに出た○ガイルの新刊を買いに来た。


もうやべーよ。まだ一冊も本を買ってないのに家に帰って読みたい欲が溢れてくるぜ。今日という日をどれほど待ちわびたことか…ヲタクの諸君はきっとわかってくれることだろう‼︎


ちゃっちゃと購入してウキウキ気分で店を出る。だが、こういう時に限って神様は俺の邪魔をする。よほど俺の日頃の行いを気に入らないらしい。なにもしてないのに…。いや…いくつか心当たりはあるけれどもさすがに狭量すぎる。




「あれ、そこにいるのは翔人ではないですか〜!久しぶりだねー。なにか目新しいラノベでもあったの?」


そこにいたのは幼稚園からの腐れ縁で今は違う高校に通う幼なじみの唐綿 瑠璃とうわた るりだった。




俺はいち早く家に帰りたいのに、きっと帰らせてくれないんだろうな〜(経験則)






=====






案の定帰らせてくれなかった瑠璃に連れられて、○善の近くにあるス○バにきた。


しかしそこは散々迷惑をお互いに掛け合ってきた関係。瑠璃に構うことなく○ガイルを読み始める。いやそもそも向こうから話しかけてきて、向こうが連れ回したんだからこれくらいは許されて当然だ!文句は言わせない‼︎ それを無言の圧力で伝えておく。伝わったことないけど…


「それでさぁ〜、最近中学の同級生と会う機会はどんどん減ってきて会うと劇的ビフォーアフターしてる子もいるのに、翔人は全然変わらなくって安心したわー」


「いや流石に変わったでしょ?」


流石に本を読んでいても変化してないと言われては無視できず、聞き捨ててしまうと取り返しがつかなくなる気がする。


「えぇ〜、どこも変わってないじゃん。むしろどこが変わったと思ってるん?」


おーっと、これはあれだ。合コンでいう自己アピールタイムだ。ならば機を逃すべきではない!俺のようなモブマシーンなら尚更っ‼︎ 合コン行ったことないからわかんないけどねっ☆


「いいだろう!ならば教えてやる!まず雰囲気が大人びた」


「中学の時から一匹狼感は出してたけど、大人って感じはしなかったよ。どっちかというと背伸びをしているお年頃な男の子って感じ」


「うぐっ…。な、なら勉強ができるようになった」


「それ、小学生がいいそうな成果だねw 進学校に所属している以上は当たり前だしね」


「うぅ…。ならば、うーんっと、えーっと、あっそうだ。自分で稼ぐようになった」


「進学校以外の高校生は基本バイトするからな〜」


「あ、あとはー…。思いつかないです…」


「あれ?もう終わりなの?やっぱり変わってないじゃんか」


おいおい、久しぶりに再開した幼馴染からこの仕打ちとは…。泣いてもいいかな、いいよね⁉︎


「よかった…。彼女出来たとか言われたら私、発狂してたかもしれないし…」


「ん?なんか言ったか?」


「ううん。なにも言ってないよぉー」


「いや俺の耳はそこまで衰えてない。絶対なにか言っただろ」


「いやぁ、ほんとになんでもないことだから気にしないでほしいにゃ!」


「うんウソだな。お前が語尾を“にゃ”にするときは感情の揺れが大きい証拠だ。昔っから変わらないな」


「うぅ…余計なことだけ覚えてるし…。それより、そこにいる美少女さんは誰なのかな?」


「んっ?」


指された方を見ると、そこには柑菜瀬さんが柱の陰からジッと此方を覗いていた。普段とは全く異なる嫉妬を含んだ視線を向けてはいたが−−−






=====






「で、なんでいるのさ」


「もちろんラノベを買いに来たのよ。というか休日に私がどこにいようと自由でしょう」


「でもそれだけなら、なんで柱の陰からこっちを見てたのさ?」


「そんなの決まってるじゃない。翔人君が見知らぬJKと戯れてるのを見かけちゃったからだよぉ。それで…そっちの子は誰なのかな?」


「あ、わたし?わたしは唐綿 瑠璃。天爛高校で陸上部主将してま〜す。翔人とは幼馴染です!よろしく〜!」

 

「あなたが唐綿さん⁉︎」


「柑菜瀬さん、“あの”ってどういうこと?」


「へぇ〜、翔人君知らないんだ。唐綿さん、この前の帝蒼ていそう大学オープン模試で、1年生ながら満点を取った天才だよ」


「あはは…、やっぱそのことは知られてるんだね。ところであなたは?見た感じ翔人と付き合っている恋人ってわけじゃないみたいだけど」


「へぇあ⁉︎う、うん…付き合ってはいないよ。それと私は柑菜瀬 優奈。1。こちらこそよろしくね、幼馴染さん♪」


「ほぅ、、、面白いこと言うね」


「あの〜お二人さん。なぜ初対面早々火花を散らしているんですか?」


「うーん。翔人が理由を知るには少し、いや、かなりはやいかなぁ」


「と・に・か・くここであったが最後!今日は私の買い物に付き合ってもらうからね‼︎」


「この流れでどうやったらその答えが出てくるんだよっ‼︎」


「それなら翔人!わたしと今からデートしにゃい?」


「お前もなに対抗心燃やして口走っちゃってんの⁉︎」


「むむむ…。やっぱ鈍感なのは変わってないよね。というか変わるはずないよねぇ」


「失敬な。俺は他の人に白い目で見られるほど鈍くない!」


「へぇ〜。じゃあ今私たちが言い争っている原因はなにかわかっているの?」


「そりゃあ、あれだろ。女の誇りと欲をめぐる聖戦だろ?」


「「当たらずとも遠からずな指摘なだけに反論できない…」」


ふんっ!伊達にラノベを読み続けてきた人生ではない‼︎ ヲタクなめんなよ‼︎


「でも、わたしたちの気持ちが分かっていてのらりくらり躱そうとしているとは…。けしからんことですにゃ〜!」


「ということで翔人君!」


「「エスコート、よろしくね!」」


「何でだぁーーーーーー‼︎」


俺はこの日ほど、神様を恨んだことはない−−−






=====






まず最初に来たのは“でーと(?)”の定番、映画館だ。


正直、あまり気乗りはしなかった。冬季に上映を開始するアニメ映画は少数だからだ。しかし今日は引き摺り回される身。俺の意見など路傍の草の如く無視をされ、むしろ心の中で泣いていたまである。


「やっぱり映画といえば恋愛ものでしょ!せ、せっかく翔人君もいるんだし…」


顔を赤らめて上目になりながらこちらを見つめてくるが、俺は騙されない!貴重なラノベ聖書の精読時間を奪った1人はお前だ、柑菜瀬っ‼︎


「いやいや、映画館に来たなら選ぶのは戦隊物。これに限るよ!」


もう瑠璃に至っては、単純に自分が見たいものを主張しているだけだ。少しは連れ回される俺のことも気にかけろよ‼︎


「やはり私たちは反りは合わないようね」


「だったら取る方法は一つ…」


すっごく嫌な予感がする。気のせいでありますように−−−


「「翔人(君)はどっちがいいの‼︎」」


「何も観ずに家に帰って本が読みたい」


その瞬間、2人の少女の笑顔が凍りついたことは誰の目にも明らかだったらしい。どうして“らしい”なのかというと、俺がそのことに気付いたきっかけが、周りの人のシラけた視線を感じたからだ。


「翔人君…」

「翔人ぉ〜」


「お、おい。や、やめ…!それ以上言うんじゃない…‼︎」


「「全然空気読めないね(にゃ)」」


「うわあああぁぁぁーーー‼︎ 聞いてない、俺は何も聞いてないぞぉぉぉーーー‼︎」


俺も、ラノベ主人公のことをバカにできなかった…むしろそっち寄りだったようだ。






=====






結局ジャンケンで争った結果、柑菜瀬さん推しの恋愛映画に行くことになった。もちろん、映画館に行くことになった以上は、ヲタク魂が騒ぐというもの!というわけでポップコーンとジュース、それからフランクフルトを買っていざ出陣‼︎


……と考えていた時期もありました、はい。だけどそれを許さないのがあの2人。


「翔人君。食べ物なんて買っちゃったら映画に集中できないでしょ!だから買わないべきだよ‼︎」


「ひじょ〜に残念だけど、ざ・ん・ね・んだけど!今回ばかりは柑菜瀬さんの意見に賛成かな」


「おいおいおいおい!こればっかしはたとえお前らが相手でも譲れないヲタクとしてのプライド…そうヲタイドだぁ‼︎」


「「そんなちっぽけなプライドなんて捨ててしまえ!」」


「ち、ちっぽけいうな‼︎」


どこまで行っても恋に盲目になった乙女たちには、理解し難いプライドだった。


「ねぇ翔人。民主主義の原理って何かわかる?」


「突拍子ないこと言い出すな、瑠璃。多数決だろ?そんなこときいてどうすn…ってまさか⁉︎」


「うん!」


「票数2対1で食べ物は買わないことに決定‼︎ 現代の社会システムも認めてる方法なんだから、翔人君も文句は言えないでしょ?」


「理不尽だーーー‼︎」


これでは、上映中にトイレ行きたくなったフリをして帰宅する作戦が水の泡に…(泣)


「あっ、やっぱり食べたい以外に何か企んでて、今さっき潰されたって顔してるにゃ〜!ふぃー、ここだけ共闘してよかったよ」


「唐綿さんってもっと堅苦しい子なのかなって思ってたけど、真逆なんだね。意外だけど、私としては関わりやすくてありがたいかも」



「あれ?でも瑠璃って中学校の定期テストって万年2位だったよな?」


「万年1位だった翔人には言われたくないな〜」


「えっ⁉︎ 翔人君、唐綿さんにずっと勝ってたの⁉︎」


「いんや。俺は大体オール平均点くらいだったけど」


「じゃあ今のって…‼︎」


「そう!わたしの嘘でした〜‼︎ あ、でもわたしにとっては翔人が本当に1番にしか思えなかったよ。だって何もしないでそれくらいなんだから、やる気さえ出せばすぐ抜かされちゃうし。あのときはいつ抜かれるかドキドキだったにゃ〜。結局抜かされなかったけど」


「じゃあなんで本気を出さないの?」


「それは…」


「そんなの、自称モブキャラ設定を徹底してるから以外理由なんてないと思うなー。どうなの、翔人?当たり??」


「……マサカマサカソンナワケナイジャナイデスカヤダー」


「正解なんだね…」


「ちっ、こういうとき幼馴染っていう関係は足枷にしかならない…!」


「そういえば能力を隠すってどの程度隠しているの?高校からの姿しか知らないから全然わかんないんだけど…」


「そうだねー。今の翔人は“能ある鷹は爪を隠す”をかっこよく思って実現している感じっぽいから、能力を示すことがかっこいいと思わせればちょろいからすぐ感化されると思うよ。ただ、どれくらい隠しているのかはわたしもよく走らないんだけどね」


「いやいや、俺は隠す能力なんて何も持ってないから」


「ならさ、映画はやめて今から模試の過去問を解いて勝負しない?」


「わたしは別にいいよー」


「全力で拒否させてもらいます。折角映画館まで来て戻るとか時間の無駄にも程がある」


「じゃあ今から模試勝負で決定!それで…どこでしよっか?」


また無視された…。この話の主人公、俺なのに…



「近くに市営図書館があるから、そこに行かない?一旦模試の過去問を取りに行かないといけないけど、それから集まっても充分間に合うでしょ。…あと家に帰ったままこっちに来なかった場合、その人の家に会場変更ってことで」


「まじかよ…。逃げ場ないじゃん…」


「さすが幼馴染。抜け目がない…!」


「はぁ…じゃあもうそれでいいよ」


「というわけで一旦解散!」


も〜う〜い〜や〜だ〜〜〜‼︎






=====






「緊急原作会議を始めます」


「「何でそんなことになるの……」」




−−−時は数分前。


成り行きですることになった模試の得点対決、それをするために図書館に来ていた。


「それじゃあテストの科目は数学。範囲はIA+IIB+Ⅲ。300点満点で試験時間は100分。ということで始めるね。ヨーイ…スタート‼︎」


この掛け声を合図に勝負が始まった。



−−−20分経過−−−

カリカリカリカリカリ…


−−−40分経過−−−

カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ……


−−−60分経過−−−

カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ………


−−−80分経過−−−

シュババババッッッ……!


−−−100分経過−−−

ピピピピピッ!ピピピピピッ!



「そこまで!それじゃあ答案を左隣に回して各自採点をしましょ」


−−−ガーーッ、シュッ、シュッ、ガーーッ、ガーーッ、……


「2人とも採点は終わった?それじゃあ本人に採点済みの解答を返しましょうか」


「それじゃあ同時に点数を出そう!せーの!」



/•結果•/



唐綿 瑠璃  300点


柑菜瀬 優奈 296点


「ぐぬぬ…やっぱり手強い……。でも負けない‼︎」

「ふふ〜ん♪期待せずに待ってるね〜」


そして今回の勝負の原因となった俺の点数は−−−


平生 翔人  210点



「翔人くん、いくらなんでも私たちを馬鹿にしすぎだよ?」


「翔人ぉ〜‼︎ 流石にここでも怠け癖を出すのはひどいよぉ…」


「一度も手を抜いた覚えはないんだが…。だがこれでわかっただろ俺の実力が…!お前らが買いかぶりすぎただけさ」


むふふ、と胸を張ってドヤ顔で言ってやると、


「「翔人(君)……」」


「おい待て…‼︎」


この流れ、知ってるぞ‼︎ またされるとMSPメンタル耐久値が今度こそ全損する自信がある‼︎


「「……はぁ……」」


グハァッ…‼︎ 哀れみを含んだ視線を向けられながら吐かれる本気の溜息ほど心に刺さるトゲはない。


こうなったら……ッ!


「き、緊急原作会議を始めます‼︎」


「「えっ⁉︎ なにそれ⁉︎ どういう流れ⁉︎」」






=====






「それで、この会議って何を話し合うの?」


「んーっ、登場人物の設定と今後のヒロイン候補の調整、あとは展開…」


「それ、私たちが決められることなの?あと、今更登場人物の設定を変えるのって遅くない?」


「大丈夫なはずだ!まだ駆け出しだし多分…。それに既にこの数話で設定…もといアイデンティティがブレ始めているし」


「2人とも、作中キャラとしてありえないくらいメタイこと言ってるねー。ここ図書館で、しかも原作者じゃないし、さっきまでの試験(内容)と全く関係ないし…結構はちゃめちゃだにゃ〜」


「はいはい、異論反論抗議その他諸々は後でじっくり話し合うとしてまずは話を聞けって」


こうして前代未聞のキャラによるストーリー設定計画が始動する……‼︎

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