第8話 動揺

「まず俺のキャラ設定について、だ」


雰囲気を出す為に腕で山を机の上に作り、そこに顔をつけて話す。○ヴァで総司令さんがよくやっているポーズだ。


これやるとイタイやつを見る目でみられているような気がするのは気のせいだろうか?キットキノセイニチガイナイ。




「今の翔人君の設定はどういう状況なの?」


「うん。今からそれを説明するに決まっているじゃないか。焦るなって」


そういうと、当の柑菜瀬さんは軽くイラッときたのか鋭い目つきで睨んでくる。……ありがとうございますっ‼︎


「そ、それで今の俺の設定は、


・平凡な学生

・そこそこひねくれている(?)

・ヲタク【Lv.MAX】

・エセヒット作メーカー

・友達は…聞くなって、照れるだろ///


となっているけど、これについて質問は?」




すると、間髪開けずに勢い良く手を上げ自己主張全開の唐綿さん。


「はいはいはーい‼︎」


「はいは一回おとなしく、ここ、図書館。OK、瑠璃?」


「わかったー!それでね、“平凡な学生”っていう要素は抜いて“微鈍感系”っていうのを加えたらいいんじゃないかな」


ふむ…なぜ?平凡な学生っていうのは、最早俺の唯二のアイデンティティなのに…。あっ、もう一つはヲタクだ。




「それは質問じゃなくって提案だ‼︎ お前…昔っから勉強できるのにそういうとこは馬鹿だよな」


「失礼だにゃ‼︎ たまに天然と言われることはあるけど馬鹿とは違う!…はず」


だんだんと自信がなくなってきたようで、仕舞いにはブツブツと口ずさんでは負のオーラを増大させていた。


「唐綿さん…後半自信なくなっちゃってるじゃない。…なんだか珍しいかも、これだけ落ち込んだ唐綿さんは」


「それで質問はないってことでいいのか?」


「えっ⁉︎ まさかの無視⁉︎」


と瑠璃は驚いているようだが、そこは幼馴染。面倒臭いフォローなんて入れるわけないじゃないか!いつものことだしいちいちツッコミを入れてると時間なくなるし。


「なら今度は俺の設定について煮詰めていくことにしようじゃないか。ちなみに瑠璃の提案は却下で」


「はいっ‼︎」


ナチュラルに提案を却下され、二重でショックを受け落ち込む瑠璃。流石のクオリティー、落ち込む姿も絵になる‼︎




「では…柑菜瀬さん!」


「はい!一から作り直すほうが早いと思います。具体的には地味で、優しくて、真面目で、一途で、鈍感で、ルックスは中の上くらいで……」


「待て待て!俺という存在の全否定するのやめてくれない?特に柑菜瀬さんの不興を買うようなことしてないよね?よくわかんないけど生まれてきてごめんね?」


「あっ…いやっ…そういうつもりで言った訳じゃないけど」


「…ぷっ!それ、柑菜瀬さんの理想像じゃん。欲望だだ漏れだよぉ」


「えマジで?柑菜瀬さんってそんなに“自分だけがあなたの魅力は知ってますからね”シチュに憧れているんだ…そうなんだ。へぇ〜…」


そういうタイプはかなりの確率でヤンデレ道に身を落とすので、あまり付き合う相手としては選びたくないものだ。


「ままままって!ごかっ、誤解だから‼︎だから私にそんな哀れな子を見る視線を向けないでーーー‼︎」


そこそこ顔を赤らめて弁明している。だが、実際はどうなのだろうか。顔が赤いのは“恥ずかしい”から、それとも“普段は向けられない視線を受けて興奮している”から…?いや、これ以上の思考はやめておこう。柑菜瀬さんへのイメージが完全に崩れる気がするし…




「はぁ、まあいいや。あとで柑菜瀬さんの設定をいじる際にまた話し合おうじゃないか」


「話し合わないからっ!変えないからねっっ‼︎」


「あはは…まだ1人目なのにこのカオスは想像以上だなぁ。それで…結局翔人のキャラ設定はどう変えることにするのさ」


「うーん、どうしようかな〜。今のままじゃ遠くないうちにウジ虫が増えそうだし…」


「なぁ、彼女ができるとかは柑菜瀬さんには関係ないんじゃないか?」


「ひゃ⁉︎う、うん。それはそうなんだけど…うぅ」


すごくもどかしそうな顔をしてる。うんいい。これで白メシ三杯はいける!




「ところで…今ふと思ったんだけど何で俺たちはこんなことしてるんだ?すっごく不毛じゃないか?」


「「…………ッ‼︎」」


一瞬驚いたかと思えば、一転して世にも恐ろしい形相に早替わり。変顔コンテストでは優勝レベル!誰も嬉しくないだろなぁ〜


「え、え?なんで般若みたいな顔してるんだよ⁉︎怖いから戻せって!」


「「こんなわけがわからないことを始めたのは翔人でしょ‼︎」」


ごもっともです。だが俺にも言い分はある!いくら相手がこの2人でも力尽きるまで戦い続ける所存だ‼︎


「確かに2人は振り回された側だけどさ、いくらなんでも堪忍袋の緒が短すぎないか」




「はぁ…もういいよ、いつものことだし。それで今回はなんでこんなことになったのぉ?」


瑠璃は諦めたかのようにため息をついて殺気を収めた。そしてその姿を見て、渋々柑菜瀬さんも元の視線になった。


「なんでって言われてもな〜。2人の俺に対する認識を改めさせようと思っただけなんだけど…。あ!これこそ原作者の意図気まぐれなんじゃないか?」


「「それはない」」


「そこだけ息ぴったりで反論してくるのやめてくんないか!しかもなんで言い切れるんだよっ‼︎お前らは作者じゃないだろ‼︎」


「なんでも」

「なにも…」


え〜やだ〜前も似たようなことがあった気がするんですけどー。この先聴きたくないんですけどー!


「「あんたよりは作者の方がマシな頭の作りをしているに決まってるじゃん」」


ごふっ−−−。さすがSっ気のある2人。切れ味も刃物級!もう思い残すことは……あるわ、めちゃ残ってますわ。


「俺の心はボロボロだわっ‼︎ もういいよぉ、これ以上俺のチキンハートを傷つける者は誰であろうと許すまじ!」


「「できるものなら、やってみな。どうなるかは…わかるよね?」」


ここまで息のあったセリフが飛び出してきたのは初めてではないだろうか。新記録、いや作品記録更新だ!流石に本気度が窺える。


だが負けない!まだ男としてのプライドは捨ててはいないっ‼︎


「はっ!そんな脅しに屈しる俺ではない‼︎」


「翔人…言葉と行動が相反してるよ」


「あ…体が勝手に反応してる、だと⁉︎」


「どこでなにをしていたら土下座が条件反射でできるようになるの⁉︎」


「ははは…俺にもいろいろと事情があるということさ」


これ以上は俺の黒歴史。人にあまり言いたくない過去に入る。それを察してくれたようで瑠璃が話題を変える。




「それより、さっきからスマホのバイブがひっきりなしに鳴ってるけど何の連絡?」


「ん?あぁ、俺のスマホだったのか。……えっ、マジで⁉︎」


「え、何々?どうしたの」


動揺しすぎてほとんど聞き取れなかったけど、なんとなくなにが起きてるのか知りたがっているように思えたので一応教える。教えても状況は変わらないけど…


「愛読してる○ガイルと○等分の×嫁が次巻で完結だと…⁉︎あぁ…人生短かったなぁ〜」


「いやいや、たかが1、2作品が完結するだけでどんだけ精神追い詰められてるのよ!」


「こういうところも変わってないとは思ったけど、まさかここまでラノベを愛していたなんて…前よりひどくなってるにゃ〜」


「あぁ…ぁぁぁあああ‼︎ I want to escape this present! Was ist meine Bedeutung? Je suppose que je vais rester avec toi...」


「ちょぉ!気が動転しすぎて日本語とドイツ語とフランス語が出ちゃってるよ‼︎」


「翔人君ってそんな超ハイスペック高校生キャラじゃなかったよね⁉︎ さっきの緊急原作者会議で聞かされた設定とは大違いなんですけど⁉︎」


「……は!すまん、ついポロリしてしまった」


「しょ〜う〜と〜、それはポロリとは言わないよ。おはだけだよ」


「どっちも言わないからね⁉︎」


いや待て、ポロリは別に衣服に制限しなくても使えるはずだ。おはだけに関しては…食○の×ーマさんと協議をしようじゃないか。


「人間五十年、下天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり。ひとたび生を得て滅せぬもののあるべきか」


「人の一生は、重荷を負うて遠き道をゆくがごとし。急ぐべからず」


「2人ともいよいよおかしくなっちゃってるよ‼︎ 言動、言動をまず治そうよ、ね?というか唐綿さん、便乗してたらこのカオスが収集つかなくなっちゃうよ‼︎」


「えへへ〜、中学校の頃を思いだすと懐かしくてつい乗っちゃった☆」


ツッコミの量が急増したためか、柑菜瀬さんは少し疲れたようだ。時間も時間だしいい頃合いだろう。




「柑菜瀬さん、瑠璃、もう解散ね。今日はもうなにもしたくないし…」


「これもう、骨の髄までラノベに汚染されているね〜。そろそろわたしがブレーキかけてあげないと手遅れになっちゃうかも…」


お前はただの幼馴染で、俺のオカンじゃないだろ‼︎

と突っ込みたいが、そんな気力はもう残ってない。黙って立ち上がり、そーっとフェードアウトする。


「いや既に手遅れだから安心してもいいと思いますよ?まだ更生の余地があるなら織田信長とか徳川家康とかが咄嗟に出てこないと思いますから」


「そこを突かれると痛いにゃ〜。ただ…そのことは今は置いておいて、追いかけなくていいの?翔人、もう行っちゃったよ?」


「え…あぁっ!ここでもボチヲタスキルを発揮するとかタチが悪い‼︎」


※フェードアウト;ぼっち系の得意技。周りの人に気づかれることなく場を抜け出す妙技のこと。


「じゃあ、追いかけよっか。と言っても家の住所知ってるからそこまで急ぐ必要ないとは思うんだけどなぁ」


配送はいそうしましょう今すぐに」


「……今のセリフの変換間違えてなかった?気のせい?気のせいじゃないよね??」


「……///」


「なんだかんだで柑菜瀬ちゃんも混乱してるんじゃないかにゃ〜」


「そそそ、それじゃあ行きましょう!急がないと、家で首吊っちゃうかもしれないですし‼︎」


「さすがにそこまでバカじゃない……とは言い切れない……かも。うん、急ごう‼︎」


そして2人は、傷心の翔人を(更に)追いつめにむかった−−−






=====






至急翔人の家に駆けつけた柑菜瀬さんと瑠璃は、控えめに言ってゴミを見る目を向けてきた。


「「私たちの心配を返してくれないかな?」」


「えっ、急に家に押しかけられて驚き、思考が庭駆け回っている相手にかける言葉がそれ?まずは俺の心配をしてくれないの?こういうのに免疫がないことくらい、鋭い観察眼を持つ2人ならわかることだろ」


「「そういうことは寝そべってラノベを読んでいるダメ男には言われたくない。例えそれが正論だとしても!」」


「いや素直に謝れば済む話だろ‼︎」


「じゃあ謝るからここにある本全て燃料にしてもいいかな?いいよね??というか決定事項だにゃ」


「と、唐綿さん⁉︎ 言っていることがヤンデレヒロインのそれですよ!せめてエロ本までに抑えないと全国のヲタクさんが恋愛恐怖症になっちゃいます‼︎」


「2人が混乱している理由はよくわからないけど、とりあえずここにある本を燃やす前提で話進めるのはやめようね?自分の部屋なのに心が全然休まらないから」


火種がエロ本とかマジで洒落にならない。全国ニュースでどう報道されるのかはちょっと気になるかもだけど…


「なら選ばせてあげるね。“潔く翔人の持っている全ての18禁を今ここで処分される”か“翔人の部屋にある全てのラノベを着火剤にする”、どっちがいい?」


「今日買ったラノベを読もうと帰ってきたのにお前らがいたら静かに読めねーんだけど…。今すぐお帰りいただいてもよろしいでしょうか?」


「そそそそうだよねっ…‼︎ やっぱり、迷惑だったよね……」


急にしおらしくなって…かわいいなぁもう!


「え、あ…、な、なんで急に元気がなくなってるのさ?俺が悪いみたいで居心地が悪いんだけど」


「いやー事実これは翔人が悪い。学校で聞いたら男子が血走って処刑しようとすると思うよ」


「そこまでっ⁉︎」


なんだかいつにも増して瑠璃が辛口になってるのはなぜ?まさか……


「ほ〜ら、早く慰めてあげなよ」


「ちくしょう…俺はなんの音沙汰もなく自分の好きなことをしたいだけなのに、なんでこんなことになるんだよ……。やっぱり人との関わりって表面だけの薄い関係の方がいいんだな」


「バカなこと言ってないでさっさといけ!」


ここで痺れを切らした瑠璃からの強烈なタイキック!彼女の健脚が俺の緩い太腿にクリティカルヒット‼︎


「いっっってーーーーー‼︎‼︎ …蹴ったな!まだキックボクサーにも蹴られたことないのに…‼︎」


「平凡な高校生は普通キックボクサーに蹴られることなんてないから!とにかく逝け‼︎」


いま変換違くなかった⁉︎絶対違ったよね⁉︎


ただこれ以上この場に止まると、またまた激痛を味わうことになるので黙って離れる。




「あの〜ぅ、柑菜瀬さん。おそらく私があなた様のお気に障るようなことを致してしまったと思われるので謝罪させていただきます。……申し訳ございませんでした!つきましてはお詫びの進呈も考えさせていただきますので、どうかご容赦願います」


どうだ、俺の渾身のSHAZAIは!美しすぎて感動するだろ‼︎


「翔人…救いようがないバカだね」


「お前が謝ってこいって言ったんだろうが‼︎」


見惚れるどころか呆れられていた。なぜだ…‼︎


「“慰めろ”と言った覚えはあるけど、“誠心誠意謝ってこい”と言った覚えはないからね!」


「まさか…この状況で嵌めたのか⁉︎」


「嵌めてなんかにゃい‼︎ 翔人が勝手に墓穴掘っただけにゃ‼︎」


えぇー、空気を読むのが得意な俺が読み間違えた…だと⁉︎




「スン……翔人君」


「お、おう。なんだ、柑菜瀬?」


「定型句を並べた完璧な謝罪はひどいよぉ」


「それは、その……すまん」


「えぇ⁉︎怒るとこそこじゃないにゃあ‼︎」


ここで“なにが?”と聞くのは無粋なことくらいは流石にわかったので、別の疑問をぶつける。


「……で、結局なにしにきたのさ?」

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