I世界へ転生したM法使いが斗う!!

赤キトーカ

第1話 ホウとマコト

「それでは判決を言い渡します。被告人は前へ」

 通常の傍聴人とは比べ物にならない数の報道陣、人々が法廷に詰めていた。

 被告人は、有名俳優で、典型的な薬物事犯である。

 裁判長、斗眞マコトは、向かい合う被告人を見て、いつもと同じ感想を抱いて、心の中で、叫んだ。「クソ下らねえ」。思わず声に出ていないか、心配になったほどだ。

 薬物事案の初犯は懲役1年6ヶ月執行猶予3年と決まっているので、そのとおり言ってやった。「あなたを懲役1年6月に科します。ただしその執行を3年の間猶予します。」

 俳優は深々と頭をこちらに下げた。傍聴人席にも深く一礼した。俺の知ったことじゃあ、ない。

 コンビニの品出しの方がよほど難しい。薬物事案は懲役ヤクザか再犯でなければ懲役1年6ヶ月執行猶予3年。懲役1年6か月執行猶予3年。懲役1年6か月執行猶予3年。楽な仕事だ。懲役1年6か月執行猶予3年ですと言ってればいいのだ。30台前半、若くして判事になれたのに、こんな事件しか回ってこない。所詮、裁判所の中など、こんなものだ。早くして出世すれば、妬まれもする。出る杭が打たれただけのこと。


 裁判官の官舎に戻る途中、転がっていた石を思い切り蹴り飛ばした。「クソ下らねえ」声に出した。もうこんな生活を、4年も送っていた。マコトいつも帰り道、思う。俺の……私の思い描いていた法曹の生活は、こんなものだったのか。そんなはずじゃなかった。プロローグが、違う。いつも、ドリームハンターが私の未来を奪っていく。この先、未来に希望があるだろうか。一生、地裁のうだつのあがらない裁判官で終わるのか。…終わるだろう。


 あれだけ憲法も、民法も勉強してきたのに。判例も。でも、…ただ、過去の事件と照らし合わせて、一致した事件を見つけてるだけじゃないか。何が執行猶予だ。クソ下らねえ。


 辞めて、弁護士にでもなるか。


 そう考えることも面倒だから、私は、マコトは降りている遮断機をくぐった。

 それが異なる世界への旅立ちとは知らなかった。

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