初めての喧嘩

あなたのことを知りたい

わたしは、今まで一度も喧嘩なんてしたことがなかった。

友達や家族は、そんなわたしのことを優しいと言ってくれるけれど、わたしは本当に『優しい』のかな。

意見がぶつかったら相手に譲って。

欲しいものが被ったら譲って。

イジワルされても平謝りされたら笑って許して。

わたしが間違ってると思ったことも、あいての顔色を窺って遠慮して。

そんな風にできるだけ争わないように我慢して。本心を隠して。

それが『優しさ』なのかな。だったら、なんで優しいわたしを、わたしは好きになれないのかな。

...ううん、本当はわかってたよね。

わたしは優しいんじゃない。わたしはただ逃げてるだけだった。

否定されたくない。嫌われたくない。我慢したんだって言い訳したい。結果に対して自分は悪くないと思いたい。

そんな、弱い気持ちがわたしは嫌いだった。

それを気づかせてくれたのはあなた。

いつだってわたしを気遣って、我慢して、ようやくわたしのことを『憎い』と言ってくれたあなた。

そんなあなたのことを、わたしはなにも知らない。

どうしていつも傍にいてくれたのか。どうしてわたしをそこまで憎んでいるのか。なにも知らない。

傷つかないように逃げてきたから。

嫌われても。否定されても。言い訳ができなくても。わたしが悪いとしても。

踏み込もうとしなかったわたしに、あなたのことを知れるはずもなかった。

でも、まだ間に合うよね。

わたしはあなたのことを知りたい。

あなたをそうさせてしまった責任、なんて言葉でごまかさない。

あなたのことを知って、本当の友達になりたい。

だから。

わたしは初めて喧嘩をする。

誰にも邪魔なんてさせない。そう思うでしょ、あなたも！