※内容にちょっと触れてます、ネタバレ注意です。
もはやあらゆる意味で悲劇しか待ち受けていない。
頼るべき男たちがいなくなり、生き延びるために抵抗ではなく恭順を選んだ女たち。やってきた敵国の軍隊におもねった彼女たちは、どんな理由があれど、占領地を解放した無慈悲な祖国によって戦後ラーゲリに送られるしかなかった。
そこで待っているのは、飢えと寒さ、一切れのパンと水、そして酷薄な最期のみだ。
だから、母は自らの命をもって娘・ゾーヤに贖罪をさせ、「罪」に報い、ゾーヤに未来を残すしかなかった。
母の選択はただ一つしかなく、軍人としてではなく人間として悪を止めようとした主人公・タチアナの行為は一個の人として善であったとしても、なしてしまえばそこに少女の未来なぞ存在しなかった。
母は正しかった。
たとえそれが、感情の交錯と依存の果てに破綻が待っている未来だとしても。
これは戦後の話だ。
だがタチアナとゾーヤの戦争は、終わりでなく始まったのだ。
果てのない千の夜を深めていくふたりの、殺伐百合譚。その序章。