第6話

しばらくして振り返ると、もう船に女の姿は見えなかった。


――助かった。


そのままクルーザーを港まで走らせた。


港に着くまで俺は考えた。


このとこを警察とかに通報しようかどうかと。


いや、こんな異様な話、誰も信じてくれるはずがないのだ。


坂下の死体のことも考えたが、坂下の死体を取りにあの船に再び乗り込むなんてありえない。


いろんな思いが頭の中を掛け巡り、一つの結論に達した。


なにもしないという結論に。


港に着きクルーザーを停泊させると、俺は車に乗り込んだ。


家までの帰途の間、俺が考えていたことはただ一つだった。


あの女は今でも船の中にいて、誰かに熱い抱擁をしようと待っているのだろう、と。



       終

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幽霊船の女 ツヨシ @kunkunkonkon

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