友人関係?
「し……シン。今日一緒に寝てくれる?」
「……は?」
申し訳なさそうに眉を下げているリア。翠色の瞳は俺の答えを待っていた。
一緒に寝るとは同じ寝台でということなのだろうか。
クラルスを見やるとほほえましそうにこちらを見ていた。何か言えよ。
「昨日、怖い夢でも見たのか?」
「ううん。違うよ。えっと……その……友だちなら一緒の寝台で寝るって聞いて……」
「……誰から聞いた?」
「スレウドさんだよ」
あいつ朝一でしばきたおす。純粋無垢なリアに変なことを吹きこんで楽しんでいやがるな。
よりにもよって何でリアはスレウドなんかに相談した。
訂正しようとしたが期待する視線が刺さる。
「あー……。あのな、リア……」
「今日くらいいいではないですか、シン?」
クラルスは食い気味に俺の言葉を遮った。こいつもこいつで楽しんでいやがる。
いや、クラルスは単純に仲良くてほほえましいと思っているだけだ。なおさらたちが悪い。
「……わかった。いいぜ。寝室いこう」
「うん!」
俺と仲良くしたいのだろうと気持ちをくんで今夜だけは一緒に寝ることを決意した。
明日スレウドをしばいたあと訂正しよう。
「クラルス。僕たち先に寝るね。おやすみ」
「えぇ、おやすみなさいませ」
リアを連れて壁際にある自分の寝台へ行く。いつもと変わらない寝台なのに緊張する。
「シンは手前と奥どっちがいい?」
「リアが奥行けよ。落ちるぞ」
リアを寝台から落としたらクラルスが怒り狂う。それに俺は寝相が悪いからリアを殴ったりしないか不安だ。
「俺、寝相悪いからな。眠れなくても知らねぇぞ」
「知ってるよ。いつも毛布落ちているからね」
まどろみの中で誰かが毛布をかけ直してくれているのはわかっていたがリアがやってくれていた。
放っておけばいいのにな。
「じゃあ僕は奥で寝るね」
あとにつづいて俺も寝台へ横たわる。二人分の重さで寝台が軋んだ。
リアが細身のおかげでギリギリ二人で眠れる。
「やっぱり二人だと狭いね。でも暖かい」
俺の肩に頬をすり寄せる。思わず変な声が出そうになった。
「さ……最近寒くなってきたからちょうどいいんじゃねぇの」
「そうだね。寒かったら僕のこと抱きしめてもいいよ?」
「はぁ!? なんで!?」
何でそんなことを言うんだ。これもスレウドに仕込まれたことなのか。
リアは心底不思議そうな顔をしている。
「前僕のこと抱きしめて寝ていたから……」
「いつだ!?」
野営のときは近くで寝ているけど、ぴったりくっついて寝たことはない。
「えっと……採石場に行ったときかな?」
「覚えてねぇ……」
おそらく寝ぼけてやってしまったこと。よくクラルスにぶん殴られなかったな。
それとも、あのときすでに俺のことを信頼していたのか。
考えているとリアの細い腕が腰に絡んでくる。
「寒いから今度は僕から。……ちょっと恥ずかしいけど」
照れ笑いするリアに言い表せない感情になる。はじめてできた友人の付き合い方を必死に模索しているんだろうな。
半分以上間違っているけど。
年の近い王族はいなかったのだろうか。いたとしても友人とまではいかないのかもしれない。
憶測を巡らせていると隣からすぅすぅと心地よい寝息が聞こえてきた。
「……寝たのか」
安心しきって寝ていることは寝顔が物語っていた。
至近距離で見る顔は何度見てもきれいに整っている。
「まつ毛長っ……」
リアの母親を見たことはないが美人なのだろう。女王陛下の生き写しとよく聞いていた。
そっとリアの背中に手を回す。相変わらず細いな。飯食ってるのにな。
この身体にどれだけの重圧がかかっているのだろう。壊れてしまわないか。押しつぶされないか心配になる。
そばにいて少しでも支えてあげられているだろうか。
以前の自分は他人にほとんど無関心だった。目的もなくただ生きていた。
一兵士としてあっけなく死ぬ運命だと思っていた。
今はリアと出会って、星影団のみんなとともに過ごして生きたいと心から思っている。
戦争に身をおいている自分が生きたいと願うのはおこがましいことかもしれない。
自分の変わりように思わず苦笑した。
「……守るためには生きないとな」
クラルスから身を挺して守るのは最終手段と教えられた。大切な人を守るためには自分も生きないといけない。
自分の命は安易に手放していいものではない。大切な人まで失うかもしれないから。
そのとき、リアがちいさく身じろく。俺の腰に回されていた手は服を強く掴んでいた。
動けないと思いつつ、リアの体温が心地よい。
たまに一緒に眠るのも悪くないかもな。心が安らぐような気がした。
安心感に抱かれながら意識を沈めていった。
翌朝、うっすらと目を開けるとリアがこちらを見ていた。
「……おはよう」
「……はよ」
そういえば一緒に寝たんだなと昨晩のことを思いだしていた。
「よく眠れた?」
「あぁ……眠れた……あ……!?」
一瞬にして意識が覚醒する。スレウドを朝一にしばきたおす目的がふつふつとよみがえってきた。
俺は毛布を剥いで一目散に公会堂へ走っていく。途中でリュエさんが俺に声をかけた。
「シンどうしたの寝間着で?」
「リュエさん! スレウドどこにいるか知らない?」
「スレウドなら昨晩に諜報活動するから出て行ったわよ」
「なにぃ!?」
俺が目的を果たせたのは一週間後のことだった。
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