Serasfina viewpoint
同じ星空の下
誰もいない回廊から私は夜空をながめていた。
星々が競い合うかのようにまたたいている。
夜空をながめる行為。ふだんなら何気ないことだが、今は心安らぐ時間だった。
そして、今日はリアが同じ星空を見ている気がする。
おさないころ、就寝時間ぎりぎりまで一緒に夜空を見ていたなと思い出を振り返る。
離れてしまってもう何ヶ月たつのだろうか。会いたいという渇望は日々募っていくばかり。
私が、なり振り構わずリアに会いたいと思っていたのなら、すべてを犠牲にして城を脱出していただろう。
それができないのは次期女王としての責務があるから。そう思っている。
この選択が正しいのかは、わからない。不安で仕方なかった。
「リア……。私、これでいいんだよね」
私の言葉に応えるかのように、ひとつの青白い星がちかりと光った。
そのとき足音が回廊にひびく。暗闇から現れたのはガルツだ。
「おや、王女様。こんなところでひとりとは不用心ですね」
安らぎの時間を台無しにされた。気分が急降下する。
「あなたも不用心ね。私が短剣を隠しもっていたら、真っ先に刺していたわよ」
「今日はいつもに増して過激ですね。用心しましょう」
ガルツは私とすこし距離を置いて夜空を見上げた。彼の瞳はいつもの鋭い眼光ではなく、憂いの光を帯びて揺らいでいる。
私はこの場から立ち去ろうとはせず、一緒に星をながめた。
「さしずめ……。兄君が星空を見ていると思い、ここにきたのですか?」
「えっ……。どうして……」
私の口から紡がれた言葉に、彼はくすくすと笑っている。
「あなたたちはやはり双子ですね。わかりやすく顔に書いてありますよ」
「私をからかいにきたの!?」
「いえ。たまたま通りすがっただけですよ」
この男に私たちの何がわかる。リアと一緒にいるところを穢されたみたいで気分が悪くなった。
いつも神経を逆なでするような言葉を吐き不快だ。
針と糸を使って口を縫いつけてやりたい。
「あなたにも兄がいたでしょう。離れてしまっている寂しさは理解できないの?」
ガルツの兄は五年前に亡くなっている。家族を失う悲しさは理解しているはずだ。
それなのにどうして非情なことができるのか。
「あなたたちとは違い、俺は兄と親しくなかったですからね。よけいに意地悪したくなりますよ」
「本当あなたは性根が腐っているわ」
ガルツとの舌戦に疲れ、夜空を見上げる。荒んだ気持ちを落ち着かせた。
私とリアは離れてしまっている。それでもこの夜空と一緒でどこかで心が繋がっていると信じていた。
私たちは兄妹で双子だから。
ガルツを真っ直ぐ見据えて言葉を紡ぐ。
「私は……。私たちは、あなたになんか負けないから……」
「……それでこそ次期女王ですよ」
不敵に笑うガルツを後目に、私は自室へと足を動かした。
――――。
「……リア様。夜気でお身体が冷えますよ。そろそろ室内にもどられてはいかがですか?」
「……もう少しだけいいかな?」
今日は特別に夜空が見たくなった。クラルスが声をかけるということはだいぶ長い時間、星空を見ていたようだ。
彼は隣に並び、一緒に星空を見上げた。
「クラルス。あの赤い星見える? さっきから、きらきらまたたいているんだ」
力強く光っている赤い星。なんとなくセラの気分を現しているように見える。彼女と一緒にいるような感覚が不思議とわいていた。
「本当ですね。ずいぶんまたたいております」
「何となくセラの気分みたいだなって思って……」
「セラ様ですか? それで今の気分はどのような感じでしょう」
「うーん。すごく怒っている」
クラルスはくすりと笑った。彼につられて口元がゆるむ。
「リア様がそう思っているのでしたら、セラ様もきっとそうでしょう」
「なんとなくだけどね」
―同じ星空の下―
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