秘め事
月のきれいな夜。私の髪を梳かしているルシオラへ言葉をなげかけた。
「ルシオラ。今夜は一緒に寝ましょう」
月に一度、ルシオラに添い寝をしてもらいたく、せがんでいる。特に深い意味はないのだけれど、ルシオラが一緒に寝てくれる日はとても安心して眠れていた。
彼女は困ったような表情をしてはにかんだ。
「セラ様は人肌が恋しいのですか?」
「そうかもしれないわ」
「……主君のお願いは断れないですね。少々お待たせしてしまいますがよろしいですか?」
「えぇ。待っているわ」
彼女は鏡台の上に櫛を置くと、一礼をして立ち去っていく。まだ騎士の衣服を身にまとっていたので、就寝の準備へと向かったようだ。
しばらくすると、ゆったりとした服装のルシオラが入室した。
いつも正装をして凛々しいのだが、髪を解いて見慣れない服装の彼女はとても女性らしい。
鏡の前で髪を梳かしているルシオラの隣へ寄り添った。
「いつものルシオラと違うからなんだかどきどきしてしまうわ」
「私はいつも通りですが何か違いがありますか?」
「今のルシオラの格好はあまり見慣れていないの」
彼女は目を細めると私の髪を優しくなでた。
ふと、彼女の胸に視線を移す。いつもは凹凸がわからない服装なので、きれいな女性らしい体つきでうっとりしてしまう。
「私もいつか大きくなるかしら?」
「まだまだ成長期なのでもう少し身長は伸びると思いますよ」
「違うわ胸よ胸!」
「そ……そちらですか」
自分の申し訳なさそうについている胸と彼女の胸をつい見比べてしまう。
「ルシオラの胸は立派でうらやましいわ」
「女王陛下のご息女ですからご心配には及びませんよ」
母様は豊満な身体をしていた。今の成長度合いを見ると不安になってしまう。
「急に成長するわけではございませんよ。さぁ、身体が冷えてしまう前に寝台へ行きましょう」
彼女にうながされて寝台へ横になった。薄暗い部屋のなか、ルシオラの手を握る。
私のほうを向くと柔らかくほほ笑んだ。
「今夜は特に甘えたがりですね」
ルシオラの手の平はとても堅かった。騎士として鍛錬を積んでいる証拠だ。
騎士として人生を送っているルシオラ。私の元にいて彼女の人生を縛っているのではないのかと不安になるときがある。
「ねぇ、ルシオラ。いま何歳?」
「二十一歳ですね。それがどうかしましたか?」
「ルシオラって貴族出身でしょ? お見合いの話とかないの?」
ノックス家の一人娘のルシオラは家を継ぐために見合いの話が来てもおかしくない年齢だ。
彼女の色恋沙汰は聞かないのでどうなっているのか不安だった。
「……両親は無理やり見合いをさせようとは思っておりませんね。私も望んでおりませんので……」
「そうなのね」
彼女は私の頬をゆっくりとなでる。
「強いて言えば私の一番大切な方はセラ様ですよ」
「うん。ありがとうルシオラ」
「何かご不安だったのですか?」
私の心を見透かすようにルビーのような瞳が揺らいだ。彼女に隠し事はできそうにない。
「いつかルシオラと離れてしまうと思って……少し寂しくなったの」
ルシオラは目を見開いたあとくすくすと笑いだした。
「えっ……何で笑うのルシオラ!?」
「いえ、私は果報者だと思いまして」
おもむろに彼女は私を抱き寄せる。温かい体温を感じて心地いい。
「大丈夫ですよ。私はずっとあなたのおそばにいます」
「でも……それじゃ……ルシオラの人生は……?」
「それが私の人生です。家を継いで子を産むことが幸せとは限りません。私の生き方は誰にも否定させません」
「ルシオラ……私……あなたの人生を縛っていない?」
心にあった疑問を吐き出すと、彼女は頭を何度も優しくなでた。まるで幼いころ母様にあやしてもらっているかのような感覚。
彼女の手のぬくもりが母様と重なった。
「私のことで悩ませてしまい、申し訳ありません。縛ってなどいませんよ。私はセラ様のおそばにいられて幸せです」
言葉にしてもらい心が軽くなった気がする。彼女の背中に手をまわして胸に顔をうずめた。
「今日はこうして眠ってもいいかしら?」
「えぇ。おやすみなさいセラ様」
そういったあとルシオラは私の髪に唇を落とした。彼女の体温を感じながら眠りの海に意識を沈めていく。
いつまでもルシオラとともにいたいと願いながら。
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