護衛の日

 午後の暖かい日差し。晴れ渡っている青空。

 こんな日には散歩をしたくなるが、私の主君であるセラ様は違う。毎日、次期女王として勉学に励んでおり、あまり外へのんびり散歩するわけにもいかない。

 たまに外を見て、憂いの表情を見せているセラ様を無理やり外へお連れしたくなる。

 同じ十四歳の少女たちはお洒落に目覚め、お友達と買い物にでかけるとこが一般的だ。

 セラ様にそれは許されない。将来のルナーエ国を背負っている御身。譲位されるまでにはたくさんの知識を身につけなければならなかった。


「今日は外、気持ちよさそうね」

「えぇ。今度お休みの日は、お弁当を持ってリア様とお出かけしてはいかがですか?」

「うん! そうしようかな! 料理長さんにおいしいお弁当作ってもらうわ!」


 私の提案に顔をほころばせている彼女は年相応だ。

 不意に廊下の奥へ目を向けると、侍女たち数名が集まり窓の外を見ていた。甲高い声をあげながら、騒がしい。


「王子様とクラルス様の手合わせ、いつ見てもいいわね!」

「ふだんお優しい顔の王子様がきりっとしているのがいいのよ!」

「クラルス様の剣術も素敵だわ!」


 城の裏手にある練習場でリア様のとクラルスが手合わせをしていた。集中しているので彼女たちの甲高い声は聞こえていないのだろう。

 セラ様を見ると、頬を膨らませて侍女たちを見ていた。

 自分の兄に向けられる視線が嫌なのだろう。


「私もリアの手合わせゆっくりみたいわよ……」


 セラ様は小声で愚痴をこぼした。

 クラルスへ視線を送ると、私たちのほうに気がついた。彼へ目配せをしてみる。クラルスは意図をくみ取ってくれたようだ。

 手合わせを止めて、リア様と少し会話をすると、私たちのほうを向いてくれた。

 リア様は優しい笑顔で私たちに軽く手を振っている。セラ様は満面の笑みをうかべて手を振りかえした。

 一瞬で憂いの顔を笑顔に変えてくれたリア様。まるで笑顔の魔法を使っているみたいだ。


 侍女たちは、リア様の見た方角に私たちがいたので、慌てて頭を下げて散り散りに去って行く。

 概ね、リア様たちが手合わせをする時間を知っており、仕事を抜け出したのだろう。


「ねぇルシオラ! さっきリアが私に気がついてくれないかなって思っていたら、本当に気がついてくれたの!」

「よかったですね。セラ様」

「夕方までの授業頑張れそうよ!」


 セラ様がご家族で過ごせるのは朝食と夕食のみ。陛下と騎士団長様はお忙しい身なので、あまり家族団らんというわけにもいかない。

 それでもお二人はなるべくリア様とセラ様に接しようとしていた。

 何年も近くで見ていると、王族は一般から切り離された生活なのだと感じる。


「リア様ともっと一緒にいられたらいいですのに……」

「きっと私たちの家族は同じこと思っているわ。でもね……」


 セラ様は、私の手を優しく握った。


「私にはルシオラがいるわ! だから寂しくないわよ!」

「セラ様……」


 胸の奥が温かくなる。僭越せんえつながら、セラ様のことは妹のように感じるときがあった。五年の月日が自然とそうさせたのだろう。

 私はセラ様の専属護衛であり、姉だ。この命尽きるまでセラ様のおそばにいたいと願う。

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