彼女は、吸血鬼に懐かれた 2
結局、泣き
男は名を、オズレノ・
彼が言うには、吸血鬼にとって血とは生きるため欲するのでなく、常人の域を出た特殊能力を発揮するために必要となるものらしい。その特殊能力も日常生活に必須ではないので、血の味を知らない吸血鬼も多い。
並みの吸血鬼であれば血を摂らずとも一生を終えてよいが、オズレノの家は吸血鬼界の貴族だった。権威のため特殊能力を発現させねばならず、一八歳になると人の血を吸うため家を出る慣例があった。
そうしてオズレノも旅立ったのだが。
「綺麗な女性を見かけても食欲が湧かないし、なんか勇気が出なくって。でも血を吸わないと帰れないし。こうなったら誰かに協力してもらって吸血トレーニングをするしかないって決意したところ、あなたが」
「私が?」
「コンビニの前で、恐い人たちに絡まれてた学生さんを助けていました。それで、この人だと思いまして」
頼りない吸血鬼は意気込んで迫った。その勢いを手で制しながら、亨子は納得して頷く。
オズレノに嘘の気配はなかった。嘘だとしても、吸血鬼だなんて疑惑しかないものを言うヤツがあるだろうか。半信半疑ではあるが、行く当てがないのは真実かもしれない。
亨子の胸の内が、うずとする。突き放すのは可哀想だ。協力はともかく、今晩だけでも泊めてやろう。
古い木造アパートへ着き、踏みしめると軽い音を奏でる鉄製の階段で二階へ上がる。通路の中ほどまで進み、亨子は作業着のポケットから鍵を取り出した。慣れた手つきで回す。
「まあ、散らかってるけど気にすんな。遠慮なく上がっていいぞ」
亨子は扉を開け放ち、玄関で作業用ブーツを脱ぎ捨てた。部屋の灯りをつけると、大して広くもない六帖のダイニングキッチンが出迎える。上半身だけ作業着を脱いで半袖シャツを出せば、心地良い解放感が
「な……な……」
肩を回す亨子の耳に、なんとも苦しげな呻きが入ってくる。振り返って、わなわなと震えるオズレノを発見する。
「な、なんで、こんな汚い部屋で平気なんですかっ!」
オズレノは絶叫した。温厚だと思っていた彼の豹変ぶりに、亨子は面食らった顔で見つめるしかできなかった。
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