ヴァンパイア・ステイ!
KT
第一章 彼女は、吸血鬼に懐かれた
彼女は、吸血鬼に懐かれた 1
晩夏の夜である。
くりりとした茶色の瞳を潤ませて、その男は半身を隠しながら電柱の
「お願いします、助けてください」
男は外国人ふうの姿とは裏腹に、
「ボクに血を吸わせてください」
亨子は怒りで、眉間にシワを刻み込んだ。
作業着の汚れを払い整え、気合いを入れる。無造作に束ね首筋にかかる黒髪を揺らし、一六〇センチメートルに満たない小柄ながら、自分より十センチメートル以上も上背のある男の首根っこを、むんずと掴んだ。
「そうか。警察なら、こっちだ」
「痛い痛い待って! 違いますって!」
亨子の豪腕に、男は全力で抵抗する。
「なにが違うってんだ。変態だろ」
「いやいや趣味趣向の話でなく! ボク、吸血鬼なんですって!」
「そうか、行き先は病院か」
「だからぁ!」
男は亨子の手から逃れ、そのまま去るでもなく作業着へ縋りつく。
「あなたに協力してもらわないと、ボク、家に帰れないんですぅぅぅ!」
男の両目から涙が溢れた。どうやら切羽詰まった状況らしい。
よく分からないものに懐かれてしまった。
亨子は苦い表情を浮かべ、後頭部を掻いた。
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