ヴァンパイア・ステイ!

KT

第一章 彼女は、吸血鬼に懐かれた

彼女は、吸血鬼に懐かれた 1

 土倉はくら亨子あきこは、頬を引きつらせていた。明らかな不審人物が、こちらを見つめているからだ。


 晩夏の夜である。


 身体からだをすっぽり包む黒いマントを羽織り。高貴そうな薔薇模様の刺繍ししゅうが入った白い長袖ブラウスに黒のスラックスで、革靴も黒。街灯に照らされる美しい銀髪は、ふんわり、ゆるめのパーマで。端麗な輪郭は異国の色合いが強く。


 くりりとした茶色の瞳を潤ませて、その男は半身を隠しながら電柱のそばにいた。


「お願いします、助けてください」


 男は外国人ふうの姿とは裏腹に、流暢りゅうちょうな日本語で懇願する。


「ボクに血を吸わせてください」


 亨子は怒りで、眉間にシワを刻み込んだ。


 作業着の汚れを払い整え、気合いを入れる。無造作に束ね首筋にかかる黒髪を揺らし、一六〇センチメートルに満たない小柄ながら、自分より十センチメートル以上も上背のある男の首根っこを、むんずと掴んだ。


「そうか。警察なら、こっちだ」


「痛い痛い待って! 違いますって!」


 亨子の豪腕に、男は全力で抵抗する。


「なにが違うってんだ。変態だろ」


「いやいや趣味趣向の話でなく! ボク、吸血鬼なんですって!」


「そうか、行き先は病院か」


「だからぁ!」


 男は亨子の手から逃れ、そのまま去るでもなく作業着へ縋りつく。


「あなたに協力してもらわないと、ボク、家に帰れないんですぅぅぅ!」


 男の両目から涙が溢れた。どうやら切羽詰まった状況らしい。


 よく分からないものに懐かれてしまった。


 亨子は苦い表情を浮かべ、後頭部を掻いた。

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