第21話 悠太になにが起こったか
「夜中に部屋に忍び込んできて、僕を押し倒して胸触ったじゃないか! おまけにボタン外そうとしたよね? あのとき、ちょっと怖かったんだからね! それにそれに、二人で幸せになるためにやり直すんだって言ってたじゃないか。僕のことが好きだから必ず迎えに来るって言ってキスしただろう! あれはぜーんぶウソだって言うのかよ!」
自分を抑えきれなくなって、胸の底に溜まってたモノを全部吐き出してやった……放課後の生活指導室……ヒロイン候補の一人――
「だから、やってないって言ってるだろ!
悠太が僕に掴みかかってくる。
無意識に上半身を逸らして避けたら、襟元を掴もうとした彼の手が空振りする。
そして僕の胸に……。
痛っ!
あまりの痛みに胸を押さえてその場にうずくまってしまった。
「はい、そこまで!」
山野先生の一喝。
涙目で顔を上げると、同じ目線にしゃがんだ先生の心配そうな顔があった。
「大丈夫? 先生に診せてみて」
そう言って僕の胸に優しく手を当てる。
そして目を見開く先生。
「ちょっと、真純くん! ブラ着けてないの?」
あぁ、そう言えばノーブラだった……なんてどうでもいいことを思いだしながら、痛みがまだ引かない胸の辺りを押さえる。
「あ、ええと、ごめんよ真純。その……大丈夫か?」
さっきとはまるで違う優しい声で悠太が僕を心配する。
基本的に彼は凄く優しいヤツなんだ。
「でも、俺がお前に触ったって……いったいいつのことなんだ? まったく思い出せないんだけど……」
「バレンタインデーから三日目の夜のことだよ。もう忘れたの?」
僕はちゃんと覚えてる。
深夜に部屋にきた悠太に起こされて、『ラヴ・パーミッション』の世界の秘密を聞かされたこと。
あとちょっと……というところで、二人が幸せになる条件をクリアできなかったこと。
でも、ゲームをリセットすればやり直せるって悠太は微笑みながら言ったんだ。
そして、リセットで他のヒロインたちが記憶を失くしてしまっても、なぜだか僕は忘れなかった。
それなのに、悠太は忘れちゃったの?
「パレンタインの三日目の夜って昨夜だろう? 昨夜はお前にメッセージを送って、それから
悠太が真面目な顔で答える。
『悠太って、ウソをつくと右頬がピクピク動くのよ』
ずっと前、長谷川さんが僕にそう教えてくれた。
僕の瞳をじっと見つめる彼の頬は、ぜんぜん動かない。
つまり、嘘はついてない。
やっぱり、祐太はあの夜のことを忘れてしまったんだ。
そう思うと急に足元が崩れて、僕は保健室の床に座り込んでしまった。
「真純さん、大丈夫?」
「真純?」
二人が心配するけれど、僕はショックで返事もできなかった。
◇◇◇
暖かいお風呂に浸かってまぶたを閉じる。
女の子になってまだ二日。
でも、何度もやり直してる時間を入れたら、もうこの体に違和感はない。
細く艶やかな髪の洗い方も、薄く滑らかな肌の手入れも、ずっと前からやってたように手慣れたものだ。
男の子の頃は、どんな風にやってたのか思い出せないくらい。
悠太への、この想いだってそうだ。
自分は最初から女の子で、ずっと以前から彼に淡い恋心を抱いてたようにも思えてくる。
実際、恋愛を手助けしながらも、彼を一番近くで見てたのは僕なんだ。
それなのに……。
◇◇◇
結局、悠太はあのまま行ってしまって、残された僕は俯いたまま山野先生に付き添われて家に帰ってきた。
彼はホントに僕とのことを忘れちゃったんだ。
そう考えると、胸が締め付けられるように苦しくて、目頭が熱くなってくる。
リビングにいる両親に聞かれないように、勝手に喉から溢れてくる嗚咽を我慢した。
でも――待てよ。
悠太はどうして記憶をなくしてしまったんだろう。
彼はゲーム版『ラヴ・パーミッション』の主人公で、ヒロインたちを攻略するために今まで何度もゲームをリセットしてプレイしてきたんだ。
悠太はあの夜、僕にそう話してくれた。
それなのに僕との記憶がなくなったということは、もしかしたら悠太はもうゲーム版『ラヴ・パーミッション』の主人公じゃないってこと?
ライトノベル版の主人公が僕から長谷川さんに替わってしまったみたいに、ゲーム版の主人公も替わってしまったの?
そんなことって、あるの?
でも、もしホントに主人公が交代してしまったのなら話の辻褄が合う。
主人公が悠太以外の誰かに替わったなら、その人に頼んでゲームをリセットしてもらえばいいんだ!
でも、一体誰が主人公?
悠太の周囲の人のような気がする。
でももし、ぜんぜん無関係な人だったら探しようがない。
とりあえず、『ラヴ・パーミッション』のヒロインたちに聞いてみるしかないかな。
解決の糸口を見つけた僕は、急いでお風呂から上がった。
◇◇◇
「ねぇねぇ、『ラヴ・パーミッション』って知ってるー?」
翌朝、投稿した教室で周囲のクラスメイトに聞いてみる。
「なにそれ、知らなーい」
「聞いたことないよー」
「春からやる新しいドラマ?」
誰に聞いてもだいたいこんな反応だった。
これ、周りの生徒全員に聞いてたら、いくら時間があっても足りないよ。
「なにしてるの?」
教室で頭を抱えてた僕に声をかけたのは
ヒロインの一人で、ツンデレ担当の女の子だ。
「須藤さん! 『ラヴ・パーミッション』って知ってる?」
「『ラヴ・パーミッション』? うーん。なんだか聞いたことあるような気もするけど、わからないわ」
須藤さんが腕を組んで思い出そうとしてくれたけど、どうやら記憶にないみたい。
とりま聞いてみたけれど、考えてみたらヒロインが主人公になるハズはない……よね?
いや、まてよ。
ライトノベルの物語に名前も出てこないようなモブのクラスメイトよりも、ヒロインたちの方が、可能性はあるのかも。
それにヒロインに絞って聞けば、それほど時間はかからない。
そうと決まれば急がなきゃ。
僕は教室を飛び出した。
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