第18話 ラッキーアイテム
「!!!!!」
こんな時って意外と悲鳴が出ないみたい。
僕は涙目になりながら、慌てて自分の胸を隠す。
恐る恐る顔を上げてみると、
◇◇◇
「……で? どうして悠太が長谷川さんの家にお泊まりしたの? どうして今日は二人で仲良く学校休んでるのさ? いや、その前にさぁ、悠太は長谷川さんの告白を断ったんだよね? どうして今こんなことになってるの? 浮気なの? 不倫なの? 人妻NTR温泉旅行なの?!」
僕は怒りに任せて叫ぶ。
ここは長谷川さんの部屋。
応接間で騒ぐとお手伝いさんにも聞かれちゃうので、場所を移動したんだ。
広い部屋の角に設えられたピンクの革張りソファーに僕が座り、悠太と長谷川さんは並んでベッドに腰掛けてる。
なにこの構図?
まるで僕が、恋人たちを邪魔しにきた悪役みたいじゃないか?
「一体どうしたんだ、
激昂してる僕に対して、落ち着き払って答える悠太。
それが余計に僕をイライラさせる。
振った相手の部屋に一晩泊まったくせに……。
「そんなこと、『ラヴ・パーミッション』に書いてあるじゃないか! そうじゃなくって、学校休んでまでどうして長谷川さんと一緒にいるのか聞いてるんだよ!」
しかし、悠太の返事は信じられないものだった。
「ああ、黙って休んで悪かった。心配させたよな? ……えぇと、俺と瑛は付き合うことにしたんだ。お前にも報告しようと思ってたんだけど、瑛が明日まで皆に内緒にしたいって言うから……」
付き合う……だって?
さっき長谷川さんが言ったことはホントなの?
僕は目の前が真っ暗になった。
◇◇◇
「真純、夕ご飯できてるから降りてきなさい」
ドアの向こうからお母さんの声がする。
食欲なんか全然ない。
大好きな相手に振られたって言うのに、のほほんとご飯なんて食べる気になれない。
でも、心配されてドアを開けられたらこの姿を見られちゃう。
女子の制服を着たままベッドに突っ伏して……きっと、今酷い顔してる。
「ちょっとお腹の具合がイマイチだから、後で食べるよ」
「後でちゃんと食べるのよ」
お母さんはそれ以上追及せずに階段を降りていった。
お母さん、ゴメンね。
長谷川さんの家からどこをどうやって帰ってきたのか、気がついたら僕は自分の部屋のベッドでうつ伏せになっていた。
悠太が、長谷川さんと付き合うだって?
そんなバカな!
僕のこと、好きだって言ったくせに、どうして長谷川さんなんかと……。
裏切られた絶望と悲しみ、そして疑問が僕の心を支配する。
どうしてこうなった?
悠太が急に心変わりしたなんてどうしても思えない。
今日の悠太の様子を見てたら、僕のことが嫌いになったワケじゃなさそう。
……ということは、長谷川さんが悠太になにかしたってこと?
例えば、悠太を騙してるとか……。
あるいは催眠術かなにかで悠太を操ってるとか?
でも、ゲーム版『ラヴ・パーミッション』の主人公を攻略対象のヒロインが騙したり操ったりできるのかな?
いくら考えても答えはでない。
◇◇◇
長い時間ぐるぐると考え込んでたみたい。
いつの間にか光っていたスマホの画面にショートメッセージが流れていた。
『真純。今日はゴメンな。明日は学校に行くから心配するなよ』
『昔みたいに瑛と登校するから、しばらく待ち合わせはナシだ』
二言の短いメッセージの後に、土下座するネコのスタンプ。
なんで謝ってるの?
謝るくらいなら、ここにこいよ……バカ!
はっと思って目覚まし時計を見る。
時刻は23時を少し過ぎたあたり。
ずいぶん時間が経っちゃったけど、まだギリギリ日付は変わってない。
今日中に悠太に『好き』って言えば、僕たちは幸せになれるハズ。
急いで悠太にショートメッセージを返信した。
『悠太。好き』
『好き』
『大好き』
それからしばらくの間、ずっとスマホを眺めてたけれど、既読にはならない。
時刻は23時59分。
もう時間がない!
僕は焦って悠太に電話を掛けた。
でも、最初のコールが鳴る前に電話を切ってしまった。
どうしてだか自分でもよくわからないけど、いま彼に『好き』って伝えても、全然上手くいく気がしなかったから。
僕はさっき返信したメッセージを全部消して、かわりに『OK』って言ってるネコのスタンプだけを返した。
◇◇◇
「昨日までの暖かさは影を潜めて、今日は関東地方を中心に寒気にすっぽりと包まれた冬型の気圧配置です。降水確率は60パーセント。北部を中心に午後には雪になるかもしれません。通勤通学の際は足元に注意してください。それでは今日の星占いです
……」
朝ごはんを食べながら、いつもの番組の天気予報を眺める。
結局昨日はあれからよく眠れなくて、途中で何度も目が覚めた。
その度に悠太から返信がきてないかスマホを見てみたけどなにもなかった。
今日の星占いも悠太の天秤座が相変わらず恋愛運最高だ。
僕――乙女座の恋愛運は最低だった。
ちな、ラッキーアイテムは『ライトノベル』だって……。
なんだよ、それ?
待てよ。
この番組は悠太の――ゲーム版『ラヴ・パーミッション』の主人公のための情報番組だ。
ゲームプレイに無関係な要素は少ないハズ。
僕たちにとって重要なライトノベルと言ったら『ラヴ・パーミッション』だけど、アレは今、長谷川さんに貸したままになってるんだ。
あっ!
僕は突然閃いた。
最初に僕が
長谷川さんが僕の過去を悠太に話してしまう時、間違えないようにって彼女に『ラヴ・パーミッション』を読ませたんだ。
あの時、面白いから貸してと言われて長谷川さんに貸したままになってる。
もしかして、それが原因?
よし、長谷川さんに本を返してもらおう。
そうすれば、なにか解決する方法が見つかるかも知れない。
僕は制服に着替えてカバンを持つ。
もちろん、女子の制服だ。
何故かって?
これから僕は女の闘いをするんだから……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます