第17話 女の子の証明
「えっと……
大きなお屋敷のインターフォンに向かって、僕は緊張しながら答えた。
ここは長谷川さんの家。
昨日、彼女は
なのに今朝になっても悠太から連絡がないし、二人とも学校を休んでた。
心配になって悠太の家に行ってみたら、長谷川さんの家に勉強するって言って泊まったらしい。
僕の身体が
でも、どうして長谷川さんの家にいるの?
「お嬢様は確かに学校をお休みしておりますが、男性の方のお見舞いはお断りしております。申し訳ございません。お見舞いにいらっしゃった事はお伝えいたします」
そう言うと、ブツっとインターフォンが切れた。
お母さんじゃなくてお手伝いさん?
いや、それにしても……門前払いってどう言うこと?!
熱が出て休んでる女の子の家に男子生徒がお見舞いなんて非常識だったかも知れないけど、僕はもともと声があまり低くなくて、女性化してさらに高くなってる。
どうして男子だと思ったのかな?
不思議に思って辺りを見回すと、門柱の上に防犯カメラが付いていた。
どうやらあのカメラで僕を見たらしい。
だとしたら『女の子の格好だったら家に入れてくれる』ってことかなぁ。
でもどうする?
僕は女の子の服なんて持ってないよ。
いや、待てよ。
設定の上では僕は生まれた時から女の子なんだ。
中学生の頃は女子の制服を着て通学してただろう。
女の子の服だってきっとどこかにあるハズ。
思い出せ。思い出せ。思い出せ。
◇◇◇
僕は今、長谷川さんの家の大きな部屋――たぶん応接間かな――に通されて、紅茶とクッキーを頂いてる。
クリーム色のブレザーとブラウンのベスト。チェック柄のスカートの組み合わせ。長谷川さんと同じ我が校の女子の制服だ。
性同一性障害を理由に男子生徒として高校に入学することが決まった時、田舎のお爺ちゃんに泣いて頼まれて、仕方なく女子の制服を着て写真を撮ったことがあった。
もちろん僕はそんな経験をしてないハズだけど、僕の記憶の中にそのシーンは残ってる。
女子の制服なんてすごくイヤだったけど、僕の成人式まで生きてるかどうかわからないから……なんて言われたら断れないよ。
でも、お爺ちゃんは今でも元気で、たぶん成人式には振り袖を着せられるだろう。
この制服は一度しか着てないけど、家の洋服箪笥にきちんと仕舞ってあった。
お爺ちゃんのワガママのお陰で助かったよ。
そして僕は家で急いで女子の制服に着替えて、長谷川さんの家に戻ったんだ。
普通のブラは持ってないからノーブラだけど、ベストを着てるから大丈夫。
スカートの下はもちろんボクサーパンツだけどね。
タイツなんて持ってないから生脚でめちゃくちゃ寒い!
そして、恐る恐るインターフォンを鳴らすと、お手伝いさんがあっさりと門を開けてくれた。
そして応接間に通されたってワケ。
「お嬢様が参りますのでしばらくお待ちください」
そう言われて待ってると、数分でドアが開いた。
長谷川さんが応接間に入ってきて僕の顔を見てびっくりしてた。
「お見舞いって……え? あなた、
彼女は凄く混乱してるみたいだけど、ワケわからないのは僕の方だよ。
「え? でも……なんで、女子の制服を着てるの?」
「男子の制服じゃ家に入れてくれなかったからね……って、そんなことより悠太はドコにいるの?」
「真純くんには関係ないでしょ!」
「関係あるよ! 今日は僕と悠太にとって大事な日なんだ。ここにいるんでしょ? 悠太を返して」
そう……今日は悠太に『好き』って言う最終期限なんだ。
「真純くん、なにか勘違いしてない? 悠太はあなたのものじゃないわ。彼はあたしとお付き合いしてるのよ」
え?
長谷川さん、なに言ってるの?
だって悠太は長谷川さんを振って僕を女の子にして……それはぜんぶ僕と付き合うためだって言ってたのに。
その悠太が長谷川さんと付き合うハズがない!
「まさか、長谷川さん。悠太を無理やり閉じ込めてるんじゃないの?」
僕の声に長谷川さんが腕組みして仁王立ちになってる。
顔はまるで般若みたい。
メインヒロインとしてその顔はどうかと思う……て言うか、それじゃあヒロインじゃなくてラスボスだよ!
「そんなことするワケないでしょ! あなたこそ、わざわざ女装なんかして人の家に一体なにしにきたのよ!」
長谷川さんはさらにワケのわかないことを言う。
物語の上では性同一性障害で身体の性別は女性ってことになってるのに、そんな僕が女装だなんて……。
「ちょっと待って! 長谷川さんは僕が男の子だったの知ってるの?」
「当たり前じゃない! 真純くんは男の子でしょ。本当は女性だったって言うのは『ラヴ・パーミッション』のお話だわ。現実の真純くんが女の子になるワケないじゃない!」
どうなってるのコレ?
どういうわけか長谷川さんは僕が男の子だったのを知ってる。
でも、そんなことどうでもいい!
女装して何しにきただなんて、まるで僕がメンヘラのオカマみたいじゃないか!
僕は制服のベストを捲ってシャツのボタンを外す。
恥ずかしさも忘れて長谷川さんに女の子の証を見せつけてやった。
ドヤぁ!
その時、応接間のドアが急に開いた。
「瑛。騒がしいけど、どうし……」
ドアを開けたまま唖然と立ち尽くしてるのは、我が愛しの親友――悠太だった。
その視線は僕の顔じゃなくて、もうちょっと下の方に釘付けになっていた。
女性の視点で見ると相手が自分のどこを見てるのか、すごくよくわかる。
視線を落として自分の胸元を見てみると、肌色の二つの膨らみと先端が……。
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