第16話 消えたラノベ主人公
「
どこかで僕を呼ぶ声が聞こえる。
しばらく左右に寝返りを打ってから、ゆっくりと目を開ける。
薄暗い部屋に人影が見えた。
間違えるハズもない。
僕が最初に
僕に『好き』って言わせるために……。
いくらライトノベルの主人公だと言ったって、高校生の男の子が深夜にいきなり女の子――僕は生まれた時から女の子だって設定だからね――の部屋に忍び込むなんて無理がある。
事情を知らない僕が、忍び込んてきた理由を聞いた時、悠太は確かこう言った……『返事がこないから心配してたんだよ』って。
あれ?
そういえば昨夜、悠太からメッセージきてた?
見た記憶がないよ。
それに、悠太が忍び込んできたのは、女性化した次の日の夜だったハズ。
なにか変。
不思議に思ってると、いつものテレビの音が聞こえてくる。
そこで、はっと目を覚ました。
夢?
悠太が忍び込んでくる夢を見るなんて、どれだけ好きになったんだか……。
もちろん目が覚めたらホントに悠太がいた……なーんてこと、あるハズもない。
「あっ!」
そうだ。
悠太からのメッセージ!
ガバッと跳ね起きると枕元のスマホを掴む。
メッセージアプリを起動してみたけど、悠太からのメッセージはきてなかった。
「ウソ……」
前に
どうなってるの?
居てもたってもいられなくて、悠太にメッセージを送ってみる。
でも、しばらく待っても返事はこなかった。
電話を掛けても『電源が入っていないか電波の届きにくい……』っていう自動音声が流れるだけ。
今日は学校を休むつもりだったけど、こうなったら様子を見に行くしかない!
朝ごはんも適当に、身支度を整えてカバンを持つと、彼との待ち合わせ場所である駅の改札に向かった。
◇◇◇
「いない」
駅の改札に悠太の姿はなかった。
一度も遅刻したことがない悠太なのに、いつもの待ち合わせ時間が過ぎても現れない。
やっぱりおかしい。
はやる気持ちを抑えて学校に着くと、クラスに向かう。
「おはよう」
教室に入ってクラスメイトと挨拶を交わすけど、悠太の姿は見当たらない。
ちなみに僕と悠太の机は隣同士だ。
カバンもないから、まだ登校してないんだ。
「今朝は一緒じゃなかったのね」
そう言われて振り向くと、クラスメイトの
彼女の席は悠太の後ろ。
「須藤さん! 悠太、知らない?」
彼女は悠太と仲が悪いことになってるけど、ホントは彼が嫌いなわけじゃない。
特定のフラグを立てれば、須藤さんは悠太にベタ惚れになるツンデレヒロインだ。
「あたしが知ってるワケないでしょ! だいいち、昨日も一緒に帰ったじゃないの」
「え? 僕は早退したけど、悠太は違うよ」
「なに言ってるの。二人とも午後からいなかったじゃない」
なんだって?
まさかと思ってまわりの席の子たちにも聞いてみたけど、みんな昼休みから悠太を見てないらしい。
つまり、
僕は教室を飛び出すと長谷川さんのクラスに向かった。
「長谷川さんいる? 長谷川
教室の入口で、近くにいた生徒たちに聞いてみる。
「長谷川さんなら今日はお休みよ。風邪をひいたみたいで熱があるんだって……」
顔見知りの生徒がそう教えてくれた。
熱だって?
告白を断られたら、学校になんか行きたくなくなるかも知れないけど、振った悠太も来てないっていうのが気になる。
「
廊下で担任教師に見つかって声を掛けられる。
でも、今はそんなことしてる場合じゃない!
「先生。僕も熱が出たんで帰ります!」
「ちょっと待て、城崎! 僕も……ってお前、どういう意味だ?」
担任教師の呼ぶ声を無視して、カバンも持たずに階段を駆け下りる。
玄関で外履きのローファーに履き替えると、駅に向かって走った。
◇◇◇
「あら! 真純くんじゃない。こんな時間にどうしたの?」
駅前に建つマンションのロビー入口で悠太のお母さんに声を掛けられた。
彼の家はこのマンションの三階だけど、さっきから部屋の番号を呼び出しても誰も出ない。
悠太はいるハズなのに、寝てるのかな?
そう思って途方に暮れてたとこだった。
「えっと、僕も体調が悪くて早退したんです。悠太の具合はどうですか?」
僕がそう聞いてみると、悠太のお母さんは怪訝そうな顔をする。
「どうって、テスト対策の勉強会するから長谷川さんのお家にお世話になるってメールがきて……真純くんも一緒だと思ってんだけど、違うの?」
なんだって!
という事は、悠太は昨日、長谷川さんの家に泊まって、今も二人で一緒にいるってこと?!
そんなバカな!
だって悠太は昨日、長谷川さんを振ったハズだよ。
だから僕が女性化したんだ。
それなのに、なんで今一緒にいるの?
「ごめんなさい。直接本人に聞いてみます!」
「ちょっと! 本人にって、どうなってるの?」
僕はまた走り出す。
嫌な予感がする……。
今度は長谷川さんの家だ。
彼女の住む家は、僕たちが使ってる駅から坂を登った丘の上にある。
昔からこの地域に住んでいる、いわゆる地元の名士の家柄というヤツ。
彼女は悠太の幼なじみで、幼稚園の頃から一緒にいる。
高校入学を機に引っ越してきた僕が悠太の親友になるまで、二人はずっと一緒に登校してたんだ。
急坂を駆け足で登り切り、荒い息を吐きながら僕は鉄製の大きな門扉を見上げる。
左右をどこまでも繋がる高い塀に覆われていた。
そのあまりの圧迫感に、インターフォンに伸ばした手が止まる。
でも、今はそんなものに怖気付いてる場合じゃない。
勇気をだしてボタンを押すと、しばらくしてスピーカーから女性の声がする。
「はい。ご用件は?」
中年の女の人の落ち着いた声。
お母さんかな?
「えっと……長谷川さん……
僕はめちゃくちゃ緊張してインターフォンに答えた。
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