第2話

この部屋に連れてこられて、5日目。


早くも少女は気がおかしくなり始めようとしていた。

今日が何日かわからない、何時かわからない。

運ばれてくる食事でどうにか時間を計っている、といったところだ。


食事は朝6時、正午、夕方6時の3回だ。

兵士がやってきて、水とコップを変えていく。

空の皿とコップを取り出し、パンと水の入った新しい皿とコップに入れ替える。

この部屋を訪れるのは、その兵士だけ。


窓を見て空の移り変わりを眺める。

昨日は雨が降っていたから、1日中ジメジメしていて暗かった。


昼寝をすると、夜ずっと眠れない。

真っ暗な部屋で目を開けているのか閉じているのか分からなくなる。

最初はその闇がひどく恐ろしいものに感じたが、5日目にはもう慣れていた。


昼寝をしている間に食事が運ばれてきた場合、皿もコップも2つずつになる。

そして次の食事の時に、兵士が2回分の食器を片づける。


少女は兵士によく話しかけたが、兵士は相槌を打つか質問に答えるだけだったので、会話は続かなかった。



この日の夜、昼寝をしてしまった少女は眠ることができずにいた。

真っ暗な闇に、物音1つしない静寂。

慣れてきたとはいえ、少女はずっと手を無意識に握りしめていた。


せめて窓から月の光が入ってきてくれればいいのに。

しかし残念なことに、よく晴れた夜でも月の光が差し込むことはなかった。



そのまま眠ることなく、夜明けを迎えた。

空がだんだん明るくなっていく様子を、少女はぼんやりと眺めていた。

その時、窓の前を1羽のスズメが横切っていった。


少女の頭に、何かが閃いた。


自分の背中にも、あのスズメと同じような翼が生えていたらよかったのに。

どこまでも続く青い空を飛べるのに。


少女はなんとしても空を飛びたくなった。

立ち上がって窓枠を見上げる。


精一杯手を伸ばしてみても、窓枠にはあと30センチほど届かない。


コトリ、という音。

兵士が食事を運んできた。

空になった皿とコップを持って行こうとする。


「だめ!」


兵士は驚いて、手に持っていた皿を割ってしまった。


「今度から皿とコップは片づけなくていいから」


「はい…」


割れた皿を掻き集めて、兵士は去って行った。

少女はすぐにパンを頬張る。


そして窓枠の下に、皿とコップ二個を重ねて置いた。

その上につま先をのせて、体重をかける。


「あ…!」


コップがぐらつき、少女は床に尻もちをついた。

コップが一個割れた。

その破片も窓枠の下に寄せた。

この日から、何度もこれを繰り返した。

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