第20話

「父上ー!」

 レーヴェストが慌ててドロスのもとへと駆け寄る。

 ドロスが死んだことで感情抑制の魔術が解け平静を失う。


 さらに国の柱である王の死は彼女を狼狽させた。


 落ちた首を拾い上げると、もとの位置に戻そうとする。

 だが、当然その首が戻ることはない。


「死んではなりません、死んではなりません。

 あなたがいなければこの国はどうなるんです。どうなるんですかー!?」


 錯乱したレーヴェストは死体に語りかけながら、何度も同じ動作を繰り返す。


 そんなレーヴェストを意に介さず、ピキはトールに質問をする。


「結局、おじちゃんとお祖父ちゃんのどっちが強欲王だったの?

 お祖父ちゃんは自分が強欲王だって主張してたけど、世間に強欲王のしたこととして伝わってるのって、おじちゃんがやったことだよね?」


「俺が民を味方にドロスから王座を奪ったあとも、ドロスは『我こそが真の王だ』とかほざきながら国内で横暴をくりかえしてたんだよ。

 実質的な権力はどうあれ、元々あいつに仕えてた連中も自分の地位を守るためそれを支持したし、内乱にこそならなかったが国のなかに二人も王がいたわけだ。

 それが元になって国外へ流れた情報が混同したんだろうな。

 にしても、強欲王なんて蔑称を欲しがるなんて、あいつはどんだけオデ様の名声に嫉妬してたんだ」


「ふ~ん、そうなんだ。

 実質的にはやっぱりおじちゃんの方が強欲王なんだね」


 トールはそれを認めなかったが、ピキはそう結論づける。


「それより、どうしておまえがここにいるんだ?」

「どうしてって、このお祖父ちゃんに雇われてたからだよ。

 自分の助けになれば魔力をわけてくれるって。

 ピキがもうすぐ魔女でなくなっちゃうことを教えてくれたのもおじいちゃんだし。

 でも、いつまでたっても魔力はくれないし、つまんない命令ばっかりだったから裏切っちゃった♪」


 返り血でピンクの衣装を汚したピキが笑いながら答える。


「不思議に思わなかった?

 極一部の人しか知らないハズの抜け道を知ってたりとか。

 ピキは知識を聞くのは得意でも、秘密を知るのは得意じゃないんだよ?」


「それじゃ、あの罠はおまえが?」

 異空間へ誘い込まれたときのことを思い出す。


「お姉さんからの魔力回線を切っても、あっちの回線から魔力を補給されたら面倒そうだから、あらかじめおじちゃんたちに切っておいてもらったの」

 悪びれもせずに答える。


「ようは、オデ様たちもこいつもおまえに踊らされていたんだな」

「そういう言い方はひどいなー。

 おじさんたちにはちょこっと手伝ってもらっただけだよー。

 そのかわり兵隊さんたちは、ピキが眠らせたんだし持ちつ持たれつってヤツでしょ。

 それにピキにはおじさんたちと対立する理由はないから、お姉さんも返してあげるよ」


 ピキがステッキを振るうと、アヴェニールが地面へと落ちる。

 それをあわててトールが助けにいく。


 ドロスが死んでも、塔は消えていなかった。

「さぁ魔力よ、こいこい」

 ピキがステッキを振るい念じると、魔力がピキに注ぎこまれる。


「やめるんだ!」

 スミが叫び、止めようとする。


「お兄さんたちは、邪魔しちゃだめだよ」


 ピキがステッキを振るうと、ふたりの身体に強力な重力発生し、床に這いつくばらせられる。


「大丈夫大丈夫、魔力の扱いなら魔女のピキだってちょっとしたもんなんだから。

 あんなおじいちゃんよりずっと上手にできるよ。

 だからお兄さんたちはちょっと待っててね」

 軽くいってのけるピキであるが異変が生じる。


「う~ん、すっごい力。

 これならもっともっとすっごい魔法が使えちゃうかも」

「どうして、そこまで魔力を求める」

 身体にかかる超重力に抗いながら、スミがといかける。


「もちろん魔女だからだよ。

 ついでにピキ、実は人間が嫌いなのです。

 魔物や魔女を差別するから。

 でもお兄さんたちは別だよピキにギャラクティカ・おっぱい・プリンをダブルでご馳走してくれたもん」

 それは無邪気な子どもの笑顔だった。


 そうこうしているうちにピキの身体に魔力が集まっていく。

 それはトールやスミが圧倒されるほどの力だった。


「もうおなかいっぱーい。

 なので、回線カット」


 そこでピキが供給を止めようとするが、それは制御ができなかった。


「あれ、もういらないのに、どんどん入って来る。

 どうして、どうしていうこと聞いてくれないの。

 ピキは魔力の扱いが上手いのに」


 その身体が風船の様に膨れあがる。


「いくら、おまえが魔女で魔力の扱いが上手いからって、扱ってるもんをちゃんと理解しないからそんなことになるんだよ」


 ピキの暴走により、超重力から解き放たれたトールが身体を起こす。


「いや、やめて、これ以上入ってこないで」

 涙ながらに訴えるピキであるが、それは止まらない。


「この術で集めてるのはな、実は魔力なんかじゃねーんだ」


 トールはピキを助けようとはしない。

 否、彼をもってしても助ける術はないのだ。


「それは神様の力ってやつだ。

 おまえもよー、神具が出てきた時点で気付よ。

 世の中を構成する力は魔力だけじゃねぇーって。

 人間にゃ魔力以上になじみがないが神の力だってあるんだ。

 ドロスは呼び名にはこだわっちゃいなかったから、おまえは混同しちまったんだろうな。

 一〇〇年前の俺もその力を見誤っちまったから人のことはいえねーけどな。

 実際、力の変換率が圧倒的に高いだけで、どっちも同じように使えるから似たようなもんではあるが……」


 それ以上、ピキにトールの声は届かなかった。

 そして返事も残せぬまま、入り込む力に耐えきなくなった身体は四散した。


「だいたいよぉ、魔力は月の影響をうけるのに、真っ昼間っからの儀式に疑問はなかったのかよ」

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