第18話(後)

「レーヴェストだと?」

 トールが怪訝な声を上げる。


「どうしたの、僕のことを知っているの?」

「あぁ、だが我々の知っているレーヴェストは女だったがな。

 仮面で顔を隠し、身体に巻きつけるように紋様を仕込んで魔術の補助をしていたな」


「それってどういうこと?」

 自らが知らぬ事態に巨人がはじめて動揺の色をあらわす。


「オデ様たちの方が聞きてーって。

 まぁ、察するにおまえの替え玉ってところだろうな。たしか双子の妹がいるんだろ」


「まさかユングフィラが……いやありえるか?

 彼女なら僕よりも剣術も魔術も達者だ。

 そうか、時々外部へと抜かれる魔力は彼女の元へ供給されていたのか。

 彼女なら双子だけに僕からの魔力とも相性もいいだろうし、なによりも父上に従順だ」


「なさけない兄貴だな」

「面目ない、だからこそ、実験の練習台にされてしまったんだろうね。

 しかしユングフィラが僕の替え玉とは……」


 困惑を隠しきれないレーヴェストに、トールが見解を述べる。


「王子様が城から姿を消せば、士気に関わるからな。

 当然っちゃ当然の方法じゃねーか?」


「いや、父上ははじめから僕を排除して、ユングフィラを替え玉として使うつもりだったのかもしれない。

 生憎と僕は不肖の息子だったからね」


「まぁ、おまえんとこの込み入ったお家事情はどうでもいいや。

 オデ様たちは、とっととここから出ていきたいんだ」


 自分たちには関係ないとトールが言う。


「その前に、妹、ユングフィラのことを頼めないかな。

 彼女はたみ想いの良い子なんだ。

 気弱で優柔不断な面もあるけれど、優しい子なんだ」

「ん~、オデ様のハーレム要員としてなら考えておいてやるぜ」

「いいの? 彼女の胸は僕とあんまり変わらないよ?」


「サイズ的に変わらなくても、女の胸であることが重要なんだ」

「なるほど、それでいいや。

 じゃ、頼んだよ」

 トールの提案を巨人は気楽な口調で了承した。


「では、出口について教えてもらおうか」

「ないよ。そんなもの用意されてはいない」

 スミの問いかけに、巨人があっけらかんと応える。


「騙したのか」

 スミがレーヴェストを睨み付けるが、それをトールが止める。


「ちげーよ。こいつは『出口』でじゃなくて、『抜けだし方』を教えるっつったんだ。

 それは同じようで違う、間違えんな。

 だいたい、ここはこいつを閉じ込めておく場所なのに、わかるような出口を作るわけねーって。

 もっともここの出方ってのは聞くまでもねーんだけどな」


 トールは黄金の腕輪を大槌に変形させ言った。


「この空間を作るのには、こいつの魔力が使われてる。

 つまりその魔力を絶てばいいって話なんだろ?」


「ご明察の通り」

 巨人はトールの解答を受け入れ笑った。

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