強欲の王
第18話(前)
トールとスミはアヴェニール奪還のため、レーヴェストを追いハズーの城下町に潜入した。
だが、街は首都とは思えないほど人が少なく、誰もが疲弊していた。
緑の潤いが少ない乾いた土地だ。
強い日差しの下、レーヴェストとおなじ肌の老人や子どもたちが行き来している様子を、人間の姿に扮したトールとスミが確認する。
戦争で若い男が奪われ、労力が不足しているのだ。
民衆に不満がたまっていたが、それを封じ込めるための兵が配置され、王への不満を口にしたものは処罰されることとなる。
「力尽くで押さえ込んだって、すぐに爆発するぜ」
「だろうな」
ハズーの統治状況が最悪であると評価するトールにスミが同意する。
「だいたい国民の大半を戦争に全部つぎ込むなんて馬鹿の所行だよ。
そこまでしちまったら、もうジリ貧であとがねーじゃねーか。
もう少しで力尽きるとわかってりゃ相手だってあきらめーだろ」
トールの視線には侮蔑以外のものも混ざっていたが、それを言葉にすることははかった。
「にしても、便利な魔法だな。
チビっこ」
「ふふふん♪」
ハズーの情報はピキの魔法から得たものだ。
繰り返し置いて行かれ、邪険にされたピキではあったが、まだ彼らから情報を引き出すことをあきらめてはいない。
なんど置いて行かれたとしても、最終的な目的地がハズーであることを知っているのだから、追いつくのは難しいことではなかった。
「さて、そんじゃ、アヴェニールを取り戻しにいくか」
「正面からいくの?」
街の中央に陣取る城は大きく、その周辺は強固な城壁で囲まれている。
常駐する兵たちもいることを考えれば、正面から無策に飛び込むのは困難だろう。
だが、トールには目的のアヴェニールをすぐ近くにして、遠回りする気はなかった。
「無駄な犠牲は抑えたいところではあるが、抜け穴でも都合良く見つかればよいのだがな」
「こんだけの城なら何本かは用意されてるだろうな」
スミの意見に同意するトールではあるが、それをあっさり見つけられるとまでは楽観してはいなかった。
街の下に張り巡らされた下水のどこかから侵入できるだろうことは推測できたが、街の規模を考えればそれを見つけ出すのは至難の業だ。
それならば、正面から門をこじ開けた方が彼らには早い。
だが、それを早計だとピキがとめる。
「秘密の入り口なら、ピキが知ってるよ♪」
◆
「まったく、上も下も辛気くさい場所だぜ」
暗い地下道をたいまつで照らし見渡すトールがぼやく。
街の下に配備された迷宮のごとき、地下道。その壁に隠された秘密の出入り口を彼らは進んでいる。
「まさか、城へと通じる秘密の抜け道まで知ることができようとはな」
「ふふ~ん」
スミに褒められたピキが曖昧に笑う。
「おや、アレはなんだ?」
たいまつで照らされた先に、まるで光を遮る影のような球体がふわふわと漂っていた。
ゆっくりと近づいてくるこぶし大の球体だ。
「なんだこりゃ?」
無警戒にトールがそれに手を伸ばす。
並の罠では、彼を傷つけることはできない。
そのことで油断したのだ。
漆黒の球体は、触れた瞬間に影は大きく膨れ上がると、その内側にトールを吸い込もうとする。
「トール!」
あわててトールのズボンを掴むスミだが、逆に一緒にその中へと引きずり込まれてしまう。
球体は二人を呑み込むと、役目をはたしたとばかりにその姿を消した。
◆
「あいたた、何があったんだ」
「どうやら罠にかかったようだな。
先程と場所がちがうようだ。天井が高い」
スミが手にしたたいまつを掲げ、あたりを照らし確認する。
一方には大きな壁、もう一方には終わりがわからないほどの空間が広がっている。
「おい、チビっこ。ここはどこだ?」
たずねるトールに返事はなかった。
「どうやらピキは罠を回避できたようだな」
ピキがいないことを確認すると、スミがそう言う。
「ちっ、役に立たねー」
「通常の空間ではないようだが……調べてみるか」
トールにたいまつを渡すと、スミは
トールもどうせ見る者はいないのだと、陰気なおっさんの姿から
スミは壁のない方向へ魔力を波動として打ち出す。
魔力がぶつかったさいの反響で広さを測ろうとしたのだ。
しかし、反響はいつまでたっても返ってこなかった。
「魔力で作られた空間のようだが、かなりの広さだな」
「魔術か? それとも魔法か?」
あたりを見渡しながら、トールがたずねる。
「おそらく魔術だろうが確信は持てん。
ただの魔術にしては強力な魔力が使われているが、魔法にしては呼ぶには力の使い方が繊細だ」
「なるほど」
スミの鑑定にトールが納得する。
すると、その背後ろから重い声が響く。
「こんなところに客人とは珍しいね」
そこにはトールですら見上げるような巨人が、壁に張りつけにされていた。
褐色の身体に、魔術文字の刻まれた杭を無数に打たれ、両目は目隠しで封じられている。
「おお、
「残念だけれど、僕はこうみえて人間だよ。
感心するトールの言葉を
低く恐ろしげな声とは裏腹に、その口調は軽いものだった。
「まさか?」
魔物に変わった人間。
その例をトールもスミもよく知っている。
「集めた魔力を注入する実験をされてね。
ある程度の魔力を集めることには成功したんだけどね。
身体に蓄えた魔力の影響でこんな姿に変わってしまったんだよ」
「そんでもって魔力の供給源として確保されつつ、この空間に封じられていると。
目は魔力の浪費を抑えるために塞がれてんだろ」
トールが
「ご明察の通り。
よくわかったね、きみは魔術師かい?」
「
先程の巨人の言葉にあわせるように応える。
「それにしても随分と友好的な
我々はこれでも侵入者なのだがな」
「そんな命令を素直に聞くようなら、僕は壁に封じられちゃいないんじゃないかな」
スミの言葉に巨人が答える。
「てっきり、守護者が待ち伏せでもしてるかと思ったんだが、とんだ肩すかしだ」
「初めての客人だし、持てなしたいところだけれど、この有様だから勘弁してね」
「気にすんな、オデ様たちも長居する気はねぇ」
そう話しつつ、あたりの様子を再び確認し出口を探す。
「できれば帰る前にちょっと話を聞いていってくれないかな?」
そっけないトールを巨人は雑談にでも誘うように話しかける。
「断る。オデ様は一刻も早く奪われしおっぱいを取り戻し、ひたすらもみまくるという責務が待っているんだ」
「それはたしかに重大なことだ。
でも、ここからは普通の方法じゃ出られないと思うよ?」
「ならば、話を聞けばここからの抜けだし方をおまえが教えるというのか?」
ふざけるトールを下げつつ、スミが前にでる。
「ついでに頼み事の一つでも聞いてくれればね」
「おまえの封印を解く手助けをしろとでも言うのか?」
「ちがうちがう、そりゃ僕だっていつまでもこんなところにいたくはないけどね。
でも、こんな姿で出てたところで、兵士に魔物として討たれてそれでおしまいだろうさ」
早とちりするスミの言葉を巨人が否定する。
その言葉にさして悲観した様子もない。
「では、いったいなにを」
「そうだな~、詳しい説明に入る前に、まずは自己紹介から入ろうか。
僕はハズーの第一王子、レーヴェストだ」
暗闇に捕らわれた巨人はそう名乗った。
そこでふたりは巨人の肌がアヴェニールをさらった怨敵と、同じ色であることに気がついた。
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