7.快楽と接触
『笑いなさい、楽しいでしょう!?』そう姉貴が言うので俺は笑った。男の部分を握られて、腹の中をかき回されて、電流は俺を貫く。それは快楽であるのだろう。俺は笑った。過呼吸を起こして、涙が出て、声が嗚咽に変わるまで笑った。姉貴は喜んでいた。おそらくそうであったのだ。
◆
俺は体の芯からせり上がってくるような振動を覚えた。俺は震えている。体には何も変化がなくて、心臓も早鐘を打つということは無い。それでも、俺は確かに震えている。異変に最初に気がついたのはカレンだった。当然といえばそうだ。いつだって主導権はカレンが握っている。相対する状況下において俺の体は姉貴のものだ。体の変調に気が付くのは至極当然で、そこに疑いの一つだって無い。
「なに? おまえもして欲しいの? 薬を使ったら良いわ、相手をしてあげる」
声に、びく、と体が痙攣したような心地がした。無反応だった体が、ここに来て反応を示した事に俺は驚く。期待しているのか、と反射的に思う。だから、おれは姉貴のいうとおり薬を入れる。そうしなければ俺の体は使い物にならない。俺は特製のそれを粘膜に馴染ませる。ぞくぞくと背を駆け上るのは何だろうか。薬はゆっくり効いてくる。なにも……問題は無い。俺は体に火が灯るのを感じた。どくどくと鼓動を打つ音がにわかに早まる。俺は息を吐いた。準備は出来ている。あとは……そう、委ねるだけだ。
「ほら、きなさい」
俺に抱えられていた男が横に転がされた。俺は反射的に身を硬くする。カレンは俺のズボンを足から抜き、ベッドの端へと投げ捨てた。白い手が足先を揉み、俺は震える。ふっくらした体の柔らかさを、薬理作用の元にいる俺はつぶさに感じ取る。張り詰めた空気と快楽の予感。俺は口を押さえて、ゆっくりと息を吐く。
「なるだけ……ゆっくり、進めてくれ」
口から出たのは懇願だった。俺は何を恐れている? 恐れて? 脳の中を粘着質に回転した疑問は、薬物影響下の不透明な快楽がぐちゃりと塗りつぶした。肉体が欲を拾う。まるで普通の人間みたいだ。骨も肌も関節でさえ、まるで神経が通ったみたいに湿っぽい情動を生む。軋む腱さえ陶酔じみた刺激をもたらす。鼠径をなぞる手のひらは口を開かせた。陰部をなぞる手つきは俺に唇を噛ませる。薬を入れねば見ることも適わなくなったそれを指先で嬲られるのは、涙が出るほどの誉れであった。俺は体を震わせる。この薬はこんなに強かっただろうか。それともカレンの手管によるものなのか。俺は頭をふって、もつれた舌を殊更に絡ませて、俺は、俺は姉貴にそれをやめさせた。そうだ、俺は拒絶した。
「なあに? だめになりそうなの?」
嬉しそうな声音に、俺ははっとする。運良く叱責を逃れた。俺はそれを自覚する。本来なら俺はやめさせるべきではなかったのだ、姉貴は俺を……許したのだろう。機嫌が良かったから。だめになりそうなの、と質問が頭の中に響く。だめ、だめになりそう。そうだ。俺は何か、気付いてはいけないことに気が付こうとしている。胸がどきどきして、ああでも、しかし、混乱した頭では何も考えられない。煩悶している間に姉貴は俺の元を去る。隣で転がされていた男のところに行ったようだった。俺は助かった、と思った。助かった? 何故?
「……なに、もう疲れたの? だらしないのね、少し休んだらちゃんと起きなさいよ」
少し離れたところから声が掛かる。俺は息を落ち着けようとする。まず最初に、こめかみのあたりが苦しい、と思った。入れる量を間違えたかな、と思ったときには、俺の意識は踏み外し、宙に吸い込まれかけていた。身震いする。寒くなんかないはずなのに。馬鹿げた疑問に答えが出る前に、俺は気を失った。
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