第17話 変貌した魔族
ぺガススケルトンを倒し、全員がシータラーと対峙していた。
シータラーは身体から紫色の瘴気を忌々しく放つ。
ジりりと、間合いを詰めていく。
シータラーが不敵な笑みを浮かべた。
「ほう、人間にしてはやるな、褒めてやるぞ。だが、魔族の敵ではない」
「ふん、貴様の称賛などいらん。我らは、信念は同じ、姫様を助けに来たのだ」
キュラは眉間に皺を寄せ、剣の切っ先をシータラーに向け言い放った。
だが、動じる相手ではなかった。薄ら笑いを漏らした。
「ははは、イーミ姫のことか。出てこれるかのう。あのベルフェゴール様を倒せない限り無理であろうな、永久的に」
「手下は全滅したぜ。後はお前だけだ、シータラー、地獄に落としてやるぜ」
ファイが首を斬るジェスチャーを同時にして、紡いだ。
「笑止、人間風情が何をいう。このままの姿でもお前らなど蹴散らすことは容易い」
「(このままの姿?)どういうことだ?」
妙な緊迫感が城内に漂った。キュラの懸念、憶測は妙にさえていた。
「キュラよ、お前になど教える必要はない。お前はシータラー様にここで殺されるからだ、フハハハハ」
「やってみるか? 私はそんなにヤワじゃない」
キュラは剣を裏返し、構え、先陣を切った。同時に仲間も動く。
素早く駆け、けたたましく、近づいたところで宙にキュラは飛んだ。
「いくぞ、シータラー!」
「炎固撃(ファイアブリッド)! 連弾!」
炎魔法レベル2の魔法を何発も発動させ、シータラーに撃ち込んだ。
シータラーにそれは見事にぶちあたった。だが、一筋縄でいく相手ではなかった。
魔法連弾、通常の魔法を連発して撃ち込むため、魔法力も倍以上は要した。
それに、通常の炎固撃より、キュラの魔力でアレンジが施されていたため、攻撃力は普通の魔法使いが唱える魔法よりも攻撃力が格段に上だった。
シータラーはまともにその攻撃を受けようと、杖を振り構えた。
「笑止、そんな魔法など、魔導壁!」
なんと、いとも簡単に、シータラーはその炎魔法の攻撃を紫色の瘴気で発動させた防御壁、で耐え凌いだ。キュラはそれを見計らって、瞬時に消えた。
シータラーが炎魔法の衝撃で起きた熱風と煙を払ったときだった。
「ここだ、シータラー!」
「な、なに、上だと? いつの間に!」
「し、しまったぁ」
ZUSA!
なんとシータラーの頭上から、キュラは一刀両断した。シータラーの身体は真っ二つに切れて、地面に半身ごと落ちた。
シータラーの死体がその場に転げた。
テアフレナたちに笑顔が見られたが、それも束の間だった。
キュラは剣を構え直し、一呼吸おいた。
「やったか」
動じたそのときだった。
妙な瘴気を上空から感じる。
「くはは、その死体は我の身体だと思っているのか。よく見てみろ、邪念体じゃ」
「消えた?」
なんと、地面に転げ落ちていたシータラーの死体が、紫色の光りを出しながら、燃えて消えた。
キュラが、悔しそうに舌打ちした。
さすが、魔族、そう簡単にいく相手ではなかった。
キュラはジりりと間合いを詰める。仲間も剣を構え突撃する頃合いを見計らっていた。
「くそ、偽物か、しかし、何故だ、手応えはあったはず」
「キュラ様、今の炎の魔法を防いだのは、恐らく奴の防御壁です。魔族特有のバリアだと考えられます。あの邪念体というのも恐らく奴の魔力で作り上げた思念体です」
キュラの問いに近くにいたテアフレナが即座にいった。
テアフレナはほとんどの知識に精通していた。
シータラーは不気味な笑いを漏らした。
「ほう、なかなか、鋭い考察よのぅ。さすが神官だけのことはある。ただし、お前たちに止めることはできまい」
「魔力か。それが尽きれば、邪念体も作り上げることができないということだな」
キュラがそういったときだった。
シータラーが攻勢に出た。
「減らず口がすぎるぞ、くらぇ、我が魔爪術!」
「な、なに、爪が伸びただと」
「ぐはあぁッ」「ぐは」
なんとシータラーの爪が伸び、それは瞬足に凄まじいスピードでアザレとレイティスの身体を何か所も貫通した。アザレとレイティスが血を吐き、その場に倒れ伏した。
「アザレ、レイティス、くそ、よくも仲間を」
身体から大量の血を流している。息はあるのか。
だが、このままでは死ぬのは目に見えていた。
キュラは唇を悔しそうに噛んだ。
「ニミュエ、早く助けてやってくれ、今ならまだ間に合う」
「うん、わかった」
ニミュエは聞き分けると即座にアザレとレイティスの方へ飛んで行った。
そのときだった。仲間がやられ頭にきていたオネイロスが怒り、大剣を振りかざした。
「このやろう!」
「ふん、猪口才な」
その力強い一撃を、シータラーは瞬間移動で難なく消えて躱してしまう。
そして、オネイロスの懐に現れ、爪を胸元に走らせた。
オネイロスの顔色が変わった。この至近距離では、さすがのオネイロスも躱しきれない。
一体どうする?
時間の猶予は全くといっていいほどなかった。どよめいた瞬間にシータラーは爪をオネイロスの身体に
撃ち込んでいた。爪が複数個所に貫通し、血が吹き飛んだ。
地面に滴り落ちる。
爪が刺さった状態でシータラーはオネイロスを宙に持ち上げた。
「ぐ、ぐぐぐ、ぐはぁ」
「お前だな、あの重い扉を破った怪力の男は。だが、我が魔力の前では足元にも及ばんな」
「ぐ、くそ、離せ! 離せ」
オネイロスは剣を地面に落とした。必死に堪え、言い返したが、爪を刺され、反撃する膂力が残っていなかった。ファイが見兼ね、動いた。
「団長! 今助けます」
ファイが突貫した時、シータラーは薄気味悪い顔で瞬間移動でまた消えた。
「おおっと、我の動きについてこれるかな」
「消えた? 瞬間移動か」
消えては現れ、現れては消えてをシータラーは何回も繰り返した。
その合間にも、オネイロスの意識は出血多量で薄れていく。
「早くついてこれないと、こいつは死んでしまうぞ。ほら、息が苦しくなってきてるようだ。泡を吹いてるぞ、フハハ」
ファイは怒りを抑えられなかった。
「団長を離せ、シータラー」
「消えた」
「どこに行った? 一体奴はどこに消えた?」
シータラーは姿を暗ました。ファイは咄嗟に目を閉じた。
何かを察知しようとしている。
「(よく、瘴気を探るんだ、できるはずだ、俺にも魔の力が流れている、掴め、掴め、掴むんだ)」
その瞬間、目を見開いて、紋章を光らせた。
「そこだぁ、炎殺拳!(フレアフィスト)」
「魔導壁!」
シータラーにフレアフィストは直撃した。だが、魔導壁という防御壁でそれをいとも簡単に相殺されてしまった。この障壁を破る手はないのか。
オネイロスは首を落としぐったりとしていた。
シータラーはオネイロスを地面に放った。
オネイロスは微動だにも動かなかった。
そして、シータラーは更に追撃を仕掛けた。
「だ、団長!」
「くそ、オネイロス!」
「そうれ、血が流れるお土産をやるよ」
「ぐはあ」
魔爪術を使い、爪で腕や足、腹部に更に風穴を開けた。血が吹き飛ぶ。
ニヤリとシータラーは笑った。
「だめだな、致命傷だな。ほうら、もう、三人死んでしまったぞ、残りは小娘たちしかいないではないか」
「ニミュエ、たのむ」
「わかってる。だけど、傷が深くて、なかなか塞がらないの」
さすがのニミュエでも傷が多く、深く、回復魔法を唱えてはいるものの時間を要した。
「フハハ、傷を沢山つけたのは、我の算段よ。回復魔法を使えたとて、回復に時間がかかる。そうすれば、血を流し、死ぬというわけだ、くはは」
「くそ、ゆるさん!」
キュラの怒りは頂点まで達していた。ファイもそれは同じだった。
エリューが不安な顔で、倒れていたオネイロスの方をみやった。
「(私も回復魔法をかけないと、間に合わない。オネイロスさんたちが死んでしまう)」
エリューはオネイロスの方に走っていき、回復魔法をかけだした。
シータラーが目をひそめた。
「ほう、あの小娘は、魔法使いか。テアフレナよ、放っておいていいのか。死んでしまうぞ、くはは」
「卑怯な(くそ、戦力を削ぐ気だ。戦う相手をキュラ様とファイだけにしようっていう魂胆だ)」
テアフレナは怒声を珍しく発し、ギュッと拳を握りしめた。
キュラが歩み寄った。
「テアフレナ、お前も回復に回れ。死なせるわけにはいかん」
「は、はい」
テアフレナは即座に聞き分け、アザレの方へ走っていく。
剣を再び構え直した。
「ファイよ、二人でかかるぞ、手を抜くな、思いっきりやれ」
「俺はいつでも手加減なんてしてないぜ。余裕とは別だけどよ」
ファイとキュラは次の瞬間、同時に動いた。
二人で一斉に攻撃を仕掛けた。
だが、少しの距離はあった。
「やってやらぁ」
「笑止、魔法騎士と魔剣士が二人こようと、我の敵ではないわ」
シータラーは二人の突貫を上手く後ろ手に飛んで躱し、両手を広げた。
「そうれ、いくぞ、魔法烈火破弾!(フレイムボムズ)」
シータラーの身体全体から、炎の玉が何発もあたり一面、三六〇度、凄まじいスピードで至る所に発動させられた。ファイアブリッドよりスピードがすごく、その上、破壊力も凄まじかった。当たったところは、地盤が熱量で溶け抉れ、岩石が飛び散った。
それを上手く、ファイとキュラは躱していく。だが、躱すので精いっぱいだった。
「な、なに熱系のエネルギー弾だと?」
「畜生、数が多い上に速い!」
ファイとキュラは次から次へと撃ち込まれてくるフレイムボムズを上手く躱す。
しかし、ファイたちは人間、このまま躱せれるとしても、スタミナが切れるのは目に見えていた。
シータラーは一向に攻撃の手を緩めない。皮肉な笑い声が響き渡った。
「そうれ、そうれ、我にとっては、この城の一部が壊れようとも、どうでもいいことだ」
「なんて、魔力だ! だが、魔力も底なしではあるまい」
キュラがいったそのときだった。フレイムボムズの一発が天井に当たった。
そこからは、上空が一望できた。
「(空が見えた? なら!)」
その瞬間だった。
「いけぇ、雷の雨!(サンダーレイン)」
「ぐぁああぁ、なんだとぉ」
なんとキュラは雷系(シャイニング系)魔法レベル1に当たる魔法を唱え、シータラーに雷を落とした。
電撃で、シータラーが打ち震え、動きが一瞬止まった。
キュラはそのチャンスを逃さなかった。
手に雷の魔法力を瞬時に溜めていく。
「もう一撃! やあぁ、雷風波(サンダーウェーブ)」
シータラーに雷系のレベル3に当たる魔法を叩き込んだ。
炸裂し、雷と爆炎が舞い散った。
更に、キュラは何撃もサンダーウエーブを打ち込んだ。
「まだまだ、それ、仲間を痛みつけた仇! いけぇ!」
「ぐはぁああぁ」
シータラーに雷魔法のエネルギーがぶち当たり、爆ぜた。
それはスパークを起こし、電撃の勢いは止まることはなかった。
その矢先だった。
「今だ! 炎強撃!(フレアライザー)」
ZUSA!
「くはぁ、不覚!」
ファイがフレアライザーという炎の強撃でシータラーの身体を薙いだ。
異色の血が吹き飛ぶ。
続けざまにチャンスだと見計らって、キュラが動いた。
瞬足に動き、剣を大きく振り上げた。雷の魔法のエネルギーが魔法剣に収束していく。
「とどめだぁ! 魔法剣ライジングスラッシュ!」
DWOOOOON!
雷の魔法剣をキュラはシータラーに叩き込んだ。
エネルギーが伯仲し、シータラーは爆発に巻き込まれた。
だが、連戦続き、疲労も困憊し始めていた。
「はぁ、はぁ、やったか? (まずい、連戦で、このまま戦いが長引けば、魔法力が尽きる)」
そのときだった。
「くはは、おもしろい、実に愉快だ。我をここまで追い詰めたのはお前たちが初めてだ」
「くそ、生きてやがる、だが、勝ったな、致命傷だ」
シータラーは生きていた。容姿がすたれ、爆発で一部が黒焦げになっており、血が流れていた。杖を松葉杖のようにして、地面に足をつけてしのいでいた。
爆炎がまだ収まらず、舞い散っていた。地面にも炎がたちこんでいた。
ファイが手を構えた。これは、もしや?
「今、この手で灰にしてやる」
「フハハ、魔族の身体は死ぬ。だが、魔力は死なん。それがどういうことだかわかるか。魔王アガスラーマ様に永遠の命を捧げるのだよ」
「なに、魔王アガスラーマだと?」
そのときだった。シータラーは最後の力を使い、目の前に赤色の魔法陣が現れた。
テアフレナの表情が引きつった。
「(あれは赤の魔法陣)いけない、不魔契約魔法陣よ、はやく、奴を倒して」
「!」
テアフレナの考察は正しかった。しかし、手遅れだった。
シータラーは両手を広げ、獰悪な声で言い放った。
「アガスラーマ様、我に、真の体を欲せたまえ」
「な、なに?」
その瞬間だった。
GUOOOOON!
なんと、シータラーの身体が変貌し、とんでもない、怪物の姿へと為した。
これが、真の姿か。
みな、恐怖で愕然となり、打つ手を失った。
キュラが剣を強く握りしめて、いった。
「モンスターに変身しただと?」
「ば、化け物!」
テアフレナが声音をあげた。その姿はまるで超越した悪魔のようだった。
「くはは、魔族の身体は死んだが、我の意思と魔力は絶大なり。魔王アガスラーマ様にこの魔獣ドルギアスの肉体をもらったのだよ」
「ドルギアス?」
シータラーの言葉に、キュラは言葉を濁した。だが、やるしかない。そう決意していた。
ファイは躊躇っていたが、竜撃の陣容をすでに発動しきっていた。
ファイは思いっきり両手をシータラーへ向けた!
次の瞬間!
「魔獣だろうとなんだろうと、葬ってやる、いけぇ、炎竜波(フレアドラゴン)!」
DWOOOOON!
見事にフレアドラゴンはシータラーに直撃した。
大爆風が巻き起こった。炎もあたり一面に広がった。
ファイが宙に浮きながら、表情を緩めた。
「へ、直撃だ! やったか?」
しかし、相手は魔獣、そう簡単にはいかなかった。
砂塵が炎と共に収まると、そこからは悪魔が這い出てきた。何もなかったように。
なんと、あれだけの一撃をまともに喰らって、全くと言っていいほど無傷だった。
血の一滴も流していない。
「おおっと、これだから、愚民はいかんな。少し力を持つと過信してしまう」
「く、俺の竜撃が全く効いていねぇ」
「ファイ、このままじゃ、拉致が空かない。ここは私が引き受けた。お前は先にベルフェゴールのところへいけ」
「でもそれじゃ、二人でもなかなか倒せないのによ、キュラ様だけ残すなんて」
「大丈夫だ、テアフレナもエリューもいる。それに傷が回復しかかってる、アザレ、レイティス、オネイロスもいる。さぁ、いけ、まだ、膂力が残っているうちに、ベルフェゴールを退治してくるのだ」
キュラの目は真摯そのものだった。その気持ちを汲み取り、ファイは応えた。
「わかった(キュラ様、体力や魔力を気にしているな。まさか、魔法力がなくなってきてるのか)」
そういうと、ファイは瞬速移動で、高速に消えその場を後にした。
向かうはベルフェゴールのいる、王の間だ。
ファイは、上手く、シータラーの目線の穴をかいくぐったのだ。
魔獣ドルギアスには見えない死角があったからだ、それにキュラも気づいていた。
その考察は正しかった。
この化け物をどう退治するか、キュラたちの正念場だった。
シータラーは雄叫びを上げた。城内にどす黒い声が響き渡る。
「一匹たりとも逃がさんぞ、キュラよ」
シータラーが妙なことに気が付いた。
「ん、いない。さっきの、赤毛の小僧はどこへいった?」
「ふん、お前に教える弁はない」
「まさか、ベルフェゴール様のところに、どこへ行った? どこへ行った?」
「化け物になって、目が悪くなったのじゃないか? 気づくのが遅かったようだな、シータラー、いや、魔獣ドルギアス」
キュラはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
ファイを仕向けたのは全滅を避けるためでもあった。
イーミ姫を奪還するのが目標でもあったからだ。
シータラーは怒り狂い、魔獣ドルギアスの背びれが光った。
「おのれぇ、よくも抜けぬけと」
シータラーはベルフェゴールのところへいこうと、身体を反対方向に向けた。
「待て、敵に背中をみせるのか?」
「なにをぉ?」
「お前の相手は私だ。魔法剣レイジングライアの錆にしてくれようぞ」
キュラはそういうと、魔法剣を持ち直し、鋭く眼光を放ちながら、シータラーに戦いを仕掛けようとした。
アザレ、オネイロス、レイティスもこのとき、回復魔法の効果が出て、息を吹き返し、立ち上がって、剣を構えながらキュラの傍に駆け寄ってきた。
テアフレナ、エリューという、魔法達者なものもいる。
だが、この魔獣相手に、苦戦を強いられるのは必至だった。
☆☆
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