第16話 羽の生えた骸骨『正面突破』
一行は渓谷村ポンファンに入ったが、すぐさまポンファンを出て、古城ゴルティメートへ続く山道をずっと登っていた。ボンも行動を共にしていた。
しばらくの間、歩くと、目の前に古びた城が目に入った。
橋があり、橋は辛うじて渡れるが、古城の前まで来たところで、大きな扉が行く手を阻んだ。ファイが声音を上げた。
「やっとついたぞ、古城ゴルティメートだ」
「あの城の中にベルフェゴールが、姫様、待っててください。わたしが助けます」
テアフレナが駆け出して、大きな重い扉を押したり引いたりした。
それくらい、イーミ姫様を助ける気持ちがテアフレナは強かったのだ。
世話役であり、友であり、幼い時から同じ時を経て育った身だったからだ。
その気持はキュラも同じだった。キュラもテアフレナと一緒に扉に身体を押し付けた。
「とりあえず、中に入るぞ、だが、強固な扉だな。厳重に鍵をかけているな」
キュラが押しているところに、ファイとレイティス、オネイロス、アザレも加わった。全員の体当たりの強さでもびくともしない強固な扉だった。
「ダメだ、押しても引いてもびくともしねぇ」
「なんて、重い扉だ」
ファイとレイティスがどうにもならないと弱音を吐いた時だった。
「キュラ様、ここは私にお任せください。扉をカチ割るくらいの膂力なら、いくらでもあります」
「オネイロス」
キュラの言葉を聞くと、オネイロスは背中の大剣クレイモアを引き抜いた。
オネイロスは、力一杯、クレイモアを握って振り上げた。
「うぉおりゃあぁ」
GAKKIN!
なんと、あれだけの大きくて重い扉をオネイロスは一撃であっさりと、二つに割った。
一同が、あまりの怪力にほほ笑んだ。
「へ、相変わらず団長の怪力はすげーな。扉ほんとに割っちまったぜ」
「しかもきれいに、真っ二つに割ってるよ。おそれいるね」
レイティスがいったとき、オネイロスはファイたちの方を向いて、クレイモアを地面に突き刺し、重い口を開いた。
「おまえたち、騎士たるもの、開かないからといってあきらめてはいかん。正面突破だ」
「よし、私に続け、みなのもの、乗り込むぞ」
キュラが先陣をきって、城内に入り込んだ。続いて、ファイたち全員も入っていく。
その一部始終を宙で見遣っていた魔族がいた。
「ほほう、あの重い扉をよくもまぁ、壊せれたものだ。評価するぞ」
「おまえは、シータラー!」
キュラが動きを止め、剣を引き抜いた。
「早速、お出迎えか」
シータラーは少し間合いを取ろうとしたのか、少し瞬間的にきえて、後方に姿を現した。
そして、第二声を発した。獰悪で狡猾な舌を啜った。
「ベルフェゴール様のところへいきたければ、このシータラー様を倒してからいけ」
「よくいうぜ、またどうせ、危なくなったら、消えるんだろう?」
ファイが魔剣を構えていった。
だが、シータラーは動じなかった。
「誰が逃げるといった? 倒してからいけといったのだ。それに、配下は我だけではない」
「何?」
面子に動揺が走った。
「出でよ、天馬骨人!(ぺガススケルトン)」
シータラーの杖が紫色に光った。
次の瞬間、宙に浮いたシータラーの下から異様な形をした人骨が揺れながら、地面が紫色に光り、そこから現れ始めた。
それは人の形を形成していた。しまいには、人型の骨人間ができあがっていた。
その骨人間の頭の耳の上辺りには中位の翼が両側に生えている。
骨人間が具現化しだしたときだった。
「キャー」
骨だけの手が地中から出てきて、エリューの足首をつかんだ!
エリューは悲鳴をあげて身体を引っ張られて、バランスを崩して地面にこけた。
緊迫感が犇めいた。
「エリュー」
近くにいたファイは急いで腰の鞘から短刀を引き抜き、エリューの足を握っている骨の手を打ち砕く。
すると、エリューがいたところが紫色に光っていたが、そのヒカリが、ファイの対処で、何もなかったように消えた。
そして、紫色の光りから何体もぺガススケルトンが武器を持って現れていく。
「天馬骨人(ぺガススケルトン)だと? 確かこいつらは、頭が本体から離れるはず!」
ファイは屈んだ体勢を立て直し、声をだしていった。
レイティスを見遣るとレイティスもこくんと首を縦に振った。ファイがいったことは当たっていた。キュラもテアフレナもそれは承知していたようだ。
ジりりと間合いをつめる。踏み込めば、やるかやられるかだ。
エリューは少し離れて、魔法の詠唱に入っている。テアフレナも同時に魔法をいつでも出せるような態勢を取っていた。
ファイが一歩、踏み込んだ。
瞬足に飛ばし、近くにいたぺガススケルトンの身体を剣で横薙ぎして地に沈めた。
打ち砕くと翼が生えた頭がファイ目掛けて、真正面から牙を剥き向かってきた。
やはり、胴体がやられても、頭は無事で、本体と分裂するようだ。
洞察力は正しかった。すぐに斬った瞬間、ファイは懸念し、後ろにひょいと飛びのいた。
テアフレナ、レイティス、キュラがファイの近くに駆け寄って剣を構え敵を威嚇した。
「(こいつらは確か口から、熱系のエネルギー波を……)」
ファイは瞬時に思いだした。
ぺガススケルトの頭は宙を旋回し、エリューたちの方へ向かっていく。
急いでそれをみると、ファイはエリューに向かっていった。ボンがすぐ近くにいた。
間合いはどんどん縮まっていく。もうそんなに距離がない。
「エリュー、ボン、骨頭の口に気をつけろ。こいつらは、そこから熱源体のエネルギー波を撃つんだ」
「はい、わかりました」
「了解どんにゃー」
少しためらい、相手を見て、エリューは魔法を唱える寸前で止めながら、すかさず答えた。ボンも大きな
ハンマーを同時に背中から引き抜いた。
天馬骨人(ぺガススケルトン)は頭の翼をはためかせ、宙を飛び凄まじい勢いで空を切り、旋回してきた。
そして、ガタガタいう口から、熱源体のエネルギーを集束させて、ファイ目掛けて、エネルギー波を撃ってきた。
DWOOOON!
「うわっ」
慌てて、ファイは真正面から来たエネルギー波を上手く躱し、エネルギー波はファイの後方で城内の壁に
あたり爆発した。壁の岩石が至る所に飛び散った。
壁に大きな穴が開いた。
「これでも喰らえ! 炎固撃(ファイアブリッド)」
テアフレナは待っていたとばかりに、見計らって、炎系(アータル系)レベル2の魔法を発動させて向
かってきたぺガススケルトンに応戦した。
それは見事にぺガススケルトンの頭に当たって、爆発し、ぺガススケルトンの頭を溶かして、粉砕させた。
そのときだった。
エリューに頭を本体とは切り離し、旋回してくる翼が生えた頭だけのぺガススケルトンが三体、ファイの前の方には複数のぺガススケルトンがシータラーとともにいる。
剣がぎらついていた。生臭い匂いがする。シータラーはこうして、配下を魔力で呼び寄せ、幾人をも邪魔なものを殺して手を血で染め、排除してきたのか。
剣を持ったぺガススケルトンはエリューに襲いかからんとばかりに熱源体のエネルギー波を口に集束させ、右側にいる骨人もファイとエリューに向けてエネルギー波を撃ってきた。
それをエリューは、魔法を詠唱しながら上手く躱し、それは後方の壁や地面にあたり爆発した。
ファイも瞬足に動き、上手く躱した。キュラたちも躱しながらぺガススケルトンに斬りこもうとした。同時にオネイロス、アザレ、レイティスも動いた。
エリューが上手く躱したところで、左側にいたぺガススケルトンが、今にも剣を振り翳(かざ)そうとして
エリューに突貫してきた。
その突進を見たファイはすぐさま、エリューの前に立ち入り、エリューに斬りこんだ骨人の剣を上手く魔剣で剣捌きを受け止めた。
なんとか、斬りこみを防ぐのに成功した。
古城内に剣戟(けんげき)が響き渡った。
そして、ファイはぺガススケルトンの胴体を蹴って、遠くに蹴り飛ばし、そこにオネイロスが斬りこんだ!
「おらあぁ」
オネイロスの怪力の一撃で、ぺガススケルトンは粉々に粉砕された。
だが、オネイロスは、攻撃をして、一時だけ止まったところをぺガススケルトンの攻撃の的とされた。要するに骨人からすると、やられた骨人は囮だったのだ。
なんと複数のぺガススケルトンが一斉に熱源体のエネルギー波をオネイロスに集中砲火させた。
オネイロスは横にさっと飛びのいた。だが、完全に全てはかわしきれなかった。
斜め後ろの死角からぺガススケルトンの一撃が発せられた。
これを近くでキャッチできたのはファイだけだった。キュラとテアフレナは距離があった。間合いはもうない。
このままでは直撃する。一体どうする?
「クッ!」
ぺガススケルトンの一閃を、力を振り絞って、剣を受け止め、弾き飛ばし、オネイロスの前に瞬速移動し、割って入った。
DWOOOOOOOON!
真面に熱源体のエネルギー波がファイを呑み込んだ。熱気が飛び、爆発を起こした。
ファイに直撃した。生きているのか。
「へ、大したエネルギー波だぜ、よく咄嗟に防御壁を張ったもんだ。生身の人間の身体なら貫通されて爆発でやられてたぜ」
ファイは自身の防御壁を張り、耐え忍んでいた。後ろでオネイロスが、すまなさそうな顔をする。
「すまないな、ファイ」
「かまわねーよ、団長にはいくども助けられてるし、今度は俺が助ける番だしな」
ぺガススケルトンと交戦中のエリューをファイは一瞥しいった。
「エリュー、頭を仕留めろ。こいつらの弱点は頭だ」
そういうなり、ファイは第二撃に入った。
また斬られてきた骨人の剣を押し返し、鋭い剣捌きがぺガススケルトンに飛ぶ。
「わかりました」
エリューも詠唱しながら、ファイに答えた。
すると、次の瞬間、エリューと交戦していた複数のぺガススケルトンが口をガクガクいわせながら、エネルギーを口に集束させていく。何体かの骨人の口はオネイロスとファイにも向いていた。
「やばい!」
ファイは思わずいい、剣捌きを止め、横に身体を飛ばした。
そこをぺガススケルトンが放ったエネルギー波が光の筋を立てて流れていく。
躱したところから少しずれて、後方で地盤にあたり爆発した。
もう少し遅ければ直撃だっただろう。
その時、少し離れていたエリューは、砂塵が舞うところから攻撃に転じた。
「熱には熱を、『熱の雨(バーニングレイン)!』」
熱(バーニング)系のレベル1に当たる熱魔法だ。
熱源体がエリューの手から集束し、熱の雨のように無数に光の筋を伴い、虚空を切り、放射状に横に流れて行く。
そして、それは見事に空を切り、ぺガススケルトンに真面に直撃した。
一匹は、あたる途中に翼が生えた頭だけ身体から分離し、空を翔(と)んで回避した!
無数の線状の熱源体が次々に複数のぺガススケルトンの骨を切り刻んでいく。
下から上まで直撃して骨を溶かしながら、ぺガススケルトンの頭にも直撃した。
「やった!」
エリューは上手くいき、歓喜して声をあげた。五体のぺガススケルトンは頭を粉々にされて、身体も骨ごと崩壊していく。
プスプス音を立てながら、何もなかったように粉微塵なって、跡形もなく消えていった。
「呑気(のんき)にいってる場合じゃないぞ! 後二体いる!」
そういい、空中旋回してくる敵を睨みつけ、剣を翳(かざ)し、近くにいたぺガススケルトンに立ち向かった。
そのときだった。
「魔空飛翔翼(スカイウイング)!」
飛翔魔法だ。テアフレナが瞬間的に上空に飛んだ。
そして、エリューを襲おうとした骨人二体に間髪を入れず魔法を叩き込んだ!
「氷固撃(フリーズブリッド)」
テアフレナの一撃で骨人が二体カチカチに頭ごと凍った。
炎系や熱系の魔法なら、溶かすことができるが、そうなるとさっきみたいに頭だけ分離して逃げられ、エリューへの至近距離からの攻撃をされないか、テアフレナは考察していた。
確かにその洞察力はあたっていた。
「ファイ、今だ、二体を砕け」
「おう」
ファイは二体に向かう。だが、少し離れたところにいたぺガススケルトンが口にエネルギーを集束し、何発も空中からファイ目掛けて撃ってきた。
それをファイは、走りながら上手く躱し、カチカチに凍った骨人の標本を剣で斬れる間合いに入った。
次の瞬間!
「でやぁぁぁぁぁぁぁッ!」
ジャンプして翼が生えた頭の中心線から見事に地面まで薙いで真っ二つにした!
骨人を一刀両断し、その瞬間、ぺガススケルトンは地面に平伏し砕け散った。
これが功を奏し、ほとんどのぺガススケルトンを倒すのに成功した。
残りはあと一体だ。
「あと一体!」
ファイはそういうと、倒したぺガススケルトンの死骸を踏みにじって、もう一体が翔(と)んでいるほうに
突進した。
上空からもう一匹のぺガススケルトンは頭を切り離し、何発もエネルギー波を雪崩をうち撃ってくる。
それに足を使いファイは身体を左右に走りながら、俊敏に動かして、何発も上手いこと、躱しながら突貫した。スピードはキュラとほぼ同等か、それ以上だ。
足元が爆発しながら、間合いに入った。
次の瞬間!
「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
掛け声とともに、至近距離に入ったファイはぺガススケルトンを瞬時に斬った。
ぺガススケルトンは頭に何本もの線が縦横縦列に入り剣筋が浮き彫りとなって現れた! ぺガススケルトンの頭は何重にも切られ、見事に砕け散った。
それを確認した、ファイは剣を振り被った。
エリューが駆け寄ってきた。
「ファイさん、速~い!」
「いや、戦いにくい敵だったが、スピードがあれば対処できる」
自信に満ちた表情でファイは剣を鞘に収め、エリューにいった。
そのころ、キュラとアザレ、レイティスがシータラーと対峙していた。
☆☆
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます