第14話 最強魔法

 


キュラは踵を返して、魔法剣レイジングライアを引き抜いて構えた。



「お前たちの代わりに、魔法騎士である、私が行く」



「ですが、もし、あの大蛇の地獄の火炎がキュラ様に当たれば」



「わかっておる。承知の上だ。部下を見殺しにはできん」



 キュラがアザレに向かっていった時だった。



 後ろの方に浮いていたニミュエが跡形もなく大地ごと砕かれた滝の残りの水をみやった。



 何か所かに水は少しだけたまっていた。



「(水がある。ようし、あたしの出番だわ)ファイ、待ってて今、助ける」



 そういい、ニミュエは残っていた滝の水があるところへ飛んで行った。



 一体、何をしようというのだ。とてもじゃないが、妖精が勝てる相手ではない。



 ファイやキュラでも手を焼くほどの大きな巨体だった。



 キュラが驚いた相貌で声音を吐いた。



「助けるって、お前、なにを?」



 ファイはその間もずっと、フレアドラゴンの竜撃を紋章のエネルギーを最大に出し、展開していた。



 しかし、形勢は不利だった。地獄大蛇の熱量は凄まじかった。



「くそ、ダメだ、地獄の火炎の熱量が高すぎる。このままじゃやられる」



 ファイは最悪の展開も脳裏に過っていただが、そうなるわけにはいかない。



 自分がもしやられると、この怪物を倒せるのは、もしくはキュラだけとなる。



 後ろにいたエリューが意味深な表情をした。



「(わたしが魔法使いという証明を出すのは隠しておきたいけど、このまま、ファイさんを見殺しにはできない。やるしか)」



 ニミュエはずっと飛翔していき、水たまりのある場所についていた。



「みず、水っと。水仙針!」



 何と、ニミュエは水仙針という、自身の武器をいつの間にか引っ張り出して持っていた。



 針というだけあって、小さく、武器といえるものではないが、妖精の護身装備みたいなものだろう。だ

が、とんでもない効果がこの水仙針にはあった。



 ニミュエは水仙針を水に当てようとした。



「水よ、あたしの命により、息吹を吹き替えし、水の巨人となって! えいッ」



 水に当てた瞬間、なんと、水が人型のような形を形成し始めた。



 これにはメンツは一泡ふかされた。



 驚きの色が隠せない。アザレが第一声を発した。



「な、なんだ、あれは?」



「水が形成をとって、ゴーレムみたいになっただと?」



 遠目で見遣っていた、オネイロスもこれには驚いた。



 大蛇のでかさまでとはいかないものの、かなり大きい体格をしていた。



 形成自体は、上から下まで水だが。



 キュラが感心した面持ちで水のゴーレムをみやった。



「ほう、ニミュエあんな術を持っていたのか」



 水のゴーレムは合計三体、実体として現れていた。



 ニミュエは自信満々のえっへん顔だった。



 指をビッとさし、出でたゴーレムたちに命令した。



「アクアゴーレムたち、あの忌まわしい大蛇をやっつけて」



「ぐぉおぁぁっぁぁぉお」



 アクアゴーレムたちは一斉に雄叫びをあげて、大蛇に襲い掛かった。



 けたたましく轟音をたてた。



 ファイもこれにはびっくりした。敵のようにみえるが、味方だったからだ。



 心強く、それに大蛇の身体を引っ掴み、抑え込もうとしていた。



「な、なに、水のゴーレム? 一体、誰が? ニミュエ、そうか、あいつの術か」



 ファイがいったとき、アクアゴーレムの一体がヘルムンガンドにパンチを繰り出した。



「ぐぎゃあぁあぉおぁ」



 ヘルムンガンドは咆哮を上げ、態勢を崩した。だが、それも一瞬。



 蛇というだけあって、すぐに態勢を直した。



 オネイロスがそれを垣間見、嬉しそうな顔で声音をあげた。



「態勢を崩したいけるぞ!」



 そのチャンスをファイは見逃さなかった。



「いけぇ、炎竜波(フレアドラゴン)」



 だが、フレアドラゴンが炸裂するまでには距離がかなりあった。



 もう少し、間合いをつめないと灰にはできない領域だった。



「ぐぎゃああぁ」



 なんと、どこからか、地獄の火炎がもう一つ、炎を伸ばした。



 その炎で大蛇の身体を捕まえていたアクアゴーレムが二体、蒸発された。



 一体どういうことだ?



「あああ、アクアゴーレムたちが」



「ヘルムンガンドの首が二つに割れた? 嘘だろ?」



 レイティスの顔が引きつった。オネイロスが続けて言葉を濁すように言った。



「ふ、さすが地獄で徘徊してる魔物だ。窮地になるとあんな生体分離ができるのか」



「まずい、地獄の火炎が二つになった。やられる」



 ファイは懸念し、まずいと直感視していた。眉間に皺を寄せた。



 だが、戦わなければ、待っているのは絶望と死のみだった。



 そのときだった。



「ぐぎゃああお」



「うおぉっぉぁっ」



 何と生き残っていたアクアゴーレム一体が、大蛇に向かって突進し、首を掴んだ。



 ヘルムンガンドは怪力で掴まれ、苦しそうな表情をし、咆哮を弾けさせた。



 だが、これも一瞬。ためらううちに熱量で葬り去られる可能性があった。



 ニミュエの手が震えた。



「アクアゴーレム、頑張って」



 次の瞬間、キュラが動いた。



「私がいるのを忘れるな! 『魔法剣アイススラッシュ』」



 なんとアクアゴーレムが掴んで動きを封じられている間に、氷の魔法を剣にかけ、膨張させた氷の魔法剣でヘルムンガンドの尻尾を丸々凍りつかせ、動きを完全に封じた。



「どうだ!」



 これが勝機になった。



「今よ、やぁぁぁぁッ『魔空飛翔翼(スカイウイング)』」



「空を飛んだ? あれは、飛翔魔法? あの子、魔法使い?」



 テアフレナの考察は正しかった。



なんとエリューが空を飛び、動きを封じ込まれたヘルムンガンドの頭上に飛び立った。



 瞬間的に魔法力を爆発させた。エリューの両手が光る。



 何をしようというのだ。誰しの目にも無茶だと映った。



「(勝負は一瞬。私の賭けが勝てないと、勝ち目はない)」



 エリューの脳裏には鋭い洞察があった。



 次の瞬間、爆発させた魔法力が展開した。



「炎爆撃(フレアメテオ)」



 なんとヘルムンガンドの頭上から、何発もの炎の隕石のようなものが撃ち込まれた。



 これは魔法なのか。



 大爆発が起こった。炎があちこちに散っては舞う。



 ヘルムンガンドは咆哮をあげた。



「ぐぎゃあぁ」



 だが、これも一瞬。固唾を呑む間のようなものだった。



 爆発が展開している。



「あの魔法は炎(アータル系)最強魔法!」



 テアフレナがびっくりした面持ちで空いた口が塞がらなかった。



 確かに、アータル系最強魔法、フレアメテオはレベル6にあたる、高位魔法だった。



 魔法に精通しているものなら、誰しも知っている魔法だった。魔法力が飛びぬけていないと誰にでもできる魔法ではなかったのだ。



 キュラもこれには感心しきっていた。



「なぜ、あの子が最強魔法を(かなり、魔法に精通しているな)」



 このチャンスをファイは見逃さなかった。



 フレアメテオの爆発の中に、竜撃を打ち込もうとフレアドラゴンの波動を引き寄せた。



「いまだ! 俺の炎の竜よ、大蛇を焼き尽くせ!」



 竜撃は凄まじい勢いで地獄大蛇に向かった。



 この瞬間が勝機を決した。



 竜撃は更に勢いを増し、ヘルムンガンドを呑み込んでいく。



「いけえぇえ」



「ぐぎゃああぁぁぁッ」



 なんと、ファイが放ったフレアドラゴンが、ヘルムンガンドの巨体を完全に呑み込んで灰と為した。



 灰となり、ヘルムンガンドの姿は跡形もなく消えた。もうこの世に大蛇はいない。 



これが地獄大蛇の最期の断末魔となっていた。









☆☆

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