第13話 地獄の火炎



シータラーが上空で哄笑を響かせた。



「ぐはははぁは、クハハ、ヘルムンガンドの地獄の火炎は伊達ではないであろう。姿が見えんな、終わったか、魔神剣士よ」



 ファイが瓦礫の山から岩石を退けて立とうとした。魔剣を松葉杖のように地面に突き刺した。あの熱量の炎のブレスで滝は跡形もないくらい消えていた。地盤があまりの熱量で抉れていた。キュラたちはこれで無事なのか。



 ファイは剣を地面から引き抜いて立った。



「ち、あの大蛇、なんて強烈なブレスを吐きやがるんだ。近づくとやられる。それなりのスピードで活路を見出さないと」



「イヒヒ、キュラの姿も見えんな、死んだか。滝を丸ごと消滅させてしもうたな、地獄の魔物というのは

なんと破壊力が凄まじい」



 シータラーは不気味に笑った。



「我の出る幕はない。退散だ」



 シータラーがそういったときだった。



「逃がすかぁ、シータラー」



BYU!



 キュラだ。キュラが死んだリザードマンが持っていた剣をシータラーに向けて放った。



 だが、シータラーはそれを見事に消えて躱した。この瞬間的に消える魔術のようなものは厄介だ。



 そして、シータラーは冷徹な笑みを浮かべ、哄笑を響かせた。



「古城で待っておるぞ、それまで生きていればの話だがな。クハハ」



 その瞬間、シータラーは何処かへ消えた。



 キュラはそれを見て、悔しそうな顔で、地面を手で叩いた。



「くそっ、わたしとしたことが、また逃がしたか」



「(キュラさん、傷だらけ)今、私が魔法で治します」



 ニミュエは、羽がついており、音速に飛べるため、無事だった。キュラは怪我を負っており、あちこちから血が出ていた。



「くそ、さっきの攻撃で、不意を突かれ、思うように身体が動かん。みなのもの、生きておるか」



「はぁ、はぁ、なんとか」



 レイティスも傷を負っており、苦しそうだった。



 オネイロスはリザードマンの死体を一瞥した。



「だが、リザードマンを巻き添えにしてくれたのは助かったな」



 そういった瞬間だった!



「(弓? いけない、リザードマンが生きている)キュラさん! 伏せて」



 遠くからその様子が目に入ったファイは、急いでキュラに大声をあげていった。



 しかし、気づくのが遅かった。それに、余りにも距離が近く、流石のキュラでも躱す余地がなかった。



 このとき、近くにいたテアフレナが瞬足に動いた。



 だが、敵は人間の動作速度よりも速い。



「(私の魔法で)至近距離過ぎる、くそぉ」



魔法を発動させる時間も全くといっていいほど、皆無だった。



 この瞬間、誰もがキュラの生死を嘆かれざるを得なかった。



「(や、やられる)しまった!」



 キュラは必死に躱そうとした、だが、放たれた矢は止まらない。



 みんな、助けようと身を乗り出した。



 そのときだった。何者かが割って入ってきた。



「ほんぎゃらけー」



BYUOOOOON!



 なんと、リザードマンが放った矢に弓矢を放ちあてて、大きなハンマーを回転させなげつけ、リザードマンに命中させ、リザードマンを気絶させた。



 一体、誰が? 敵か味方か。



「誰だ!」



「困るどんね、命の恩人に、誰だとは、失礼どんよ」



「な、なんだ? 猫?」



 キュラは一瞬、目を疑った。目の前には二足歩行で歩いている侍のようなカッコをした猫がいた。鎧と兜をきている。



「おいどんは、猫防人(ねこさきもり)どん。名は、ボン・バルフェルガ二世というんだどんよ」



「猫が、兜と鎧きて、ハンマーと弓矢持って二足歩行で歩いてる?」



 後ろにいたニミュエが目をパチクリさせた。信じられないといった面持ちだった。



 だが、テアフレナは素性がわからなく、魔法を発動させるところまでやり、警戒していた。入念な、下

準備があるのではないかとも思っていた。



「テアフレナ、どうやら、敵ではないようだ、魔法を解け」



「はい、わかりました」



 キュラがいうと、即座にテアフレナは発動しかかった魔法を解いて、消した。



 キュラは仮にも猫だが命の恩人の方へ出向き、笑顔で手を差し伸べた。



「すまないな、仲間が無礼をして、敵かと思ったようだ」



「それはいいどんが、そんなことより、後ろの敵が黙っていないどんよ。あの洞穴を壊されると、我が渓谷村ポンファンにもいけなくなるから助けたドンよ」



「なるほどな、お前の里があるわけだな。テアフレナ、オネイロス、レイティス、アザレ、総力戦だ、あの大蛇を仕留める」



「了解」



 皆の士気があがった。キュラの一言は力強さがあるのか、信望の厚さを物語る。



 立ち上がり、少し遠くにいた地獄大蛇の方を睥睨した。



 ファイと地獄大蛇が互いに、一歩、譲らぬ攻防を繰り広げていた。



 両者がジりりと、間合いを詰めていく。



 あと一歩、踏み込めば、あの地獄の火炎という強力なブレスの射程内だということも。



 ファイが真っ先に攻勢に出た。



「(それにしても、あのブレスなんて熱量だ)へっ、やってくれるぜ、なら、お返しだ!」



 後ろ手にファイは飛び上がった。飛び上がり、何やら紋章を光らし、エネルギーを収束させ、複雑な陣

容を取った。この陣容はもしや?



 それを次の瞬間、ファイは素早く地獄大蛇の動きを見遣り、発動させた。



「受け取れ、蛇野郎!」



 紋章が最大に光った。



「炎竜波!(フレアドラゴン)」



 水魔竜を闇に葬った、あの技だった。だが、ヘルムンガンドも負け時と撃って出てきた。



 そう、例の強力な地獄の火炎だ。



 二つの炎の力がぶつかりあった。



 威力が伯仲し、デッドヒートとなった。



「くそぉ、地獄の火炎か! 同じ炎の属性で、力が伯仲して竜撃を奴に、押し込めれねぇ」



 そうファイは苦言をいい、紋章の力を強めて放った。



 だが、相手も地獄に徘徊する魔物。一筋縄ではいかなかった。



 魔神剣士、魔の力を使えようと、生身の人間、だが、ファイには人間でも魔物と意味合いが違った。そう、守るものがあるのだ。みんなを死なせるわけにはいかない。



 その想いが強かった。



 ファイは出せる限りの力を紋章に収束させ、フレアドラゴンのエネルギーを強めた。



 しかし、一歩譲らぬ状況だった。力と力が伯仲し、動かない。



「おりゃぁ、くそ、もう少し、もう少しいけば、奴を灰にできるのによぉ」



 ファイがそういったとき、近くでその模様をみていた、仲間たちがいた。



 キュラが第一声を発した。



「あれは、水魔竜をやったときの技!」



「同じ炎の属性だからですよ、力が反発しあって、押し込めないのだと思います」



 テアフレナが考察したように鋭いことをいう。



 確かに、同じ属性同士だと、相殺するどころか、反発を起こしてしまう。



 ボンが後ろからぴょこりと現れ、口を開けて言を発した。



「あの兄ちゃん、すごいどんね、あの大蛇の一撃をまともに受け止めてるどんね」



「あのねぇ、あんた感心してる場合じゃないでしょ。あれを返せなかったら、ファイ、死んじゃうかもしれないのよ」



 ニミュエが宙に浮きながら、ぷんすか怒り、手を振り上げながらいった。



 レイティスが悔しさをにじませた面持ちで言葉を紡いだ。



「くそ、俺たちはなにかファイを助けれないのか、ここで黙って立ってるなんてできない」



「待て、レイティス、気持ちは皆同じだ、ここから先、歩を寄せたければ、私を斬れ。いかさん」



「しかし、キュラ様、このままじゃファイが灰に」



 レイティスは泣きそうな顔でキュラに言い寄る。



 しかし、キュラは手を大の字に広げ、一歩も通そうとはしない。



 レイティスは、顔を俯かせた。レイティスが悔しくもきいてくれたのをみると、キュラは動いた。















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