第6話  魔の力を使える継承者



ファイたちはあれから、通路を辿って行って、ラーギア神殿の入り口のところまできていた。ものすごい象りをした建築物が並んでいた。



 誰もが、余りの凄さに、固唾を飲んだ。



「これは、なんて、遺跡なんだ」



「こんなところがフレアチジナ湖の水底にあったなんて信じられない」



 レイティスがそういった矢先だった。



「クッ、な、なんだ、手が熱い」



「お前、どうした、左手のグローブの下から炎のような光が出てるぞ」



「クッ、傷を負ったりすると、たまに昔から、現れることがあるんです。クッ、しかし、今日は、熱さが、おさまらない」



 ファイの左手からは炎とともに橙色の光が立ち込めていた。



 ファイは必死にこらえようと、左手を掴み上げた。



 ゆっくりと手を頭の上のほうまでかざした。



「ぐ、何かと共鳴しているみたいだ」


 そのときだった。黒煙と白煙が混じったような靄が立ち込めてきた。



 これは? ドロッとしている。



「な、なんだ、この瘴気のような、霧は?」



「グギャァアアォ」



 なんと、煙と共に奥から現れたのはかなりの巨体の蛇のような竜だった。



 こいつが、親玉の水魔竜なのか。歪な猛々しい煙の正体は奴の瘴気だったのだ。



 ニミュエが一度襲われてる所為か、体を震わせて、ファイの後ろのに隠れた。



 恐怖が染みついていたのだ。



「水魔竜か、奴さんからご登場ってわけか。丁度いい、探す手間が省けた。返り討ちにしてくれようぞ」



 オネイロスが大剣を勢いよく振り上げた。ファイとレイティスも剣を構え直した。



 水魔竜は巨体の癖に、凄いスピードで突っ切ってきた。



 通った後が轍のようになっていた。地盤が健気にもいとも簡単に壊されていた。



 それは、通るところにあった遺跡の建造物も同様だった。何回もぶつかっては壊して、前進してきた。まさに、竜族、魔竜だ。



 ファイたちに、動揺が走った。相手は竜族、防御力も高く、力も強い。そう簡単に倒せないのもわかっていたからだ。



「グガァ」



 水魔竜の突進、体当たりを上手く躱すことに成功した。



 だが、勢いがすごく、飛びのいて、攻撃に移れない。



「は、速い、なんてスピードだ」



レイティスは懸念し、悔しそうに舌打った。



 その瞬間、水魔竜はまた、何かの遺跡を長い尻尾で破壊した。 



ファイが続けて声音を上げた。



「それに破壊力も凄まじい。遺跡の像を壊しやがった? ん、な、なんだあれは?」



 なんと、壊された石像の下から、なにやら、突起物が岩に刺さった状態で形を顕わにした。


「壊れた像から剣が出てきたぞ」



「あれは、ラグナが封印していた剣!」



「ニミュエ、それはほんとか? ということは魔神が宿っている剣てことか」



 ニミュエの言葉に、ファイたちは唖然となり、起死回生のものかと、思惑を張り巡らせていた。ファイが水魔竜の攻撃を上手くフットワークで躱して、切り込もうと体勢を立て直そうとしていた。



 そのときだった。



「(我の意思を継ぐ継承者よ、今こそ炎の力を開眼し、我の神殿を荒らしている、あの邪竜を倒すのだ)」



 ファイの脳裏に何かの声が聞こえる。悪魔のような声だ。これは一体どういうことだ。



 ファイの動揺は凄かった。辺りに何かいるのかと思い、首を振り見まわしたが、化け物は水魔竜以外にいない。



 継承者、自分がそうなのかと。だが、この窮地を乗り切るにはファイは悪魔声の主の意志に従う他はなかったのだ。



「開眼? いったいなんのことだ?」



「(剣を取れ、若者よ)」



 また悪魔のような声がファイだけに聞こえてきた。



「俺にあの剣を抜けというのか」



 しかし、事態は急変した。



「ファイ、アブない、横に飛べ」



「ぐぁああぁあぁッ」



「ふぁ、ファイー」



 なんと、剣と悪魔声に気を取られていて、水魔竜の攻撃を迂闊にも躱せなかったのだ。



 ファイは、尻尾で腹を嬲られ、遺跡の壁に吹っ飛ばされて、叩き込まれた。



 壁が衝動で、岩が飛び、大きく人が埋まるように穴が開いた。



「きゃぁ、ファイが、ファイが壁に」



 ニミュエが涙目になり、背中の羽をはばたかせ、急いでファイのもとに飛んでいく。



「ねぇ、起きてよ、ファイ、ファイー」



 ニミュエは必死に懇願するが、その想いも届かず、ファイは、壁にめり込んで、ぐったりとしている。意識がない。



 ニミュエは心配して、何やら、念じ始めた。



「体力だけでもあたしの回復魔法で」



 オネイロスが、ファイを一瞥して、レイティスのほうを見やった。



「レイティス、俺たちが思っていたよりも、次元が違う。覚悟はいいか?」



「望むところです」



 竜族のポテンシャルの強さを感じ、レイティスにも、勝てないのは目に見えてわかった。



 しかし、ここで挫けるわけにはいかない。



 緊迫感が走る。



 オネイロスは気合を入れようと、手に唾を吐いた。自身を、鼓舞したのだ。



「相打ちでもよい。奴を仕留めてやろうぞ」



「いくぞ、レイティス」



 そう雄叫びをあげると、オネイロスは水魔竜の巨体に向かって、剣の切っ先を向け、突貫を仕掛けた。



「うぉりゃああぁぁ」



 KAKINN!



「な、なに、斬れない」



 なんと、見事に水魔竜にクリーンヒットしたものの、その攻撃を仕掛けた箇所には傷ひとつ付かなかったのだ。まして、金属の刃でオネイロスの怪力も上乗せされているのに、断ち切って血を出すこともできなかった。ここまで、竜族は防御力が高いのか。



「なんてことだ、団長の渾身の一撃があたって、斬れないなんて、甲羅は鋼鉄なみ、いや、それ以上か、クソッ」



 レイティスは悔しそうに舌打ちをした。



 そのときだった。ニミュエが目をパチクリしながら、きょとんとなった。



「あ、あれ? ファイが、消えた? どこへ?」



 その間にも、水魔竜は突っ込んできて、長い尻尾をあちこちに四散させ、遺跡を残骸のように打ち壊していく。



「ファイをよくも、こいつ!」



 レイティスは怒り、水魔竜の尻尾に剣筋を一閃させた。



 しかし、血、一つすらでなかった。傷にもなることもなかった。


 同時に水魔竜に仕掛けた反動で、レイティスの剣が芯のところから、見事に折れた。



 これでは、攻撃のしようがない。絶体絶命だ。


「しまった、剣が折れた!」



 この状態を見計らい、水魔竜は、鋭い眼光を光らせ、長い尻尾の一撃をレイティスとオネイロスに繰り出していく。砂塵が舞い、岩石が飛び散る。辺りは、瓦礫だらけだ。



 その攻撃を紙一重で上手く躱して、オネイロスたちは凌いでいた。



 次の瞬間!



「グギャアァオオァ」



「ガハァッ」



 オネイロスに水魔竜の強力無比な尻尾の一撃が真面に炸裂した。



 オネイロスは体が曲がり、そのまま、遺跡のほうに吹っ飛ばされて、壁伝いに埋もれた。



 起き上がる膂力もない。腕がピクリともしない。だが、息だけはまだあった。



 レイティスの顔色が一変した。



「だ、団長―(あの一撃をくらったら、確実に殺されてしまう)」



 そういい、水魔竜との間合いをとる。だが、人間が取る間合いくらい、巨体の上に、尻尾は長く、スピードも速い。リーチも長い。簡単に間合いを詰めることくらい水魔竜にとっては容易なことだったのだ。



 レイティスは戦える味方がいなくなったことで戦意を喪失していた。弱気になっていた。



 しかし、騎士団に入った以上、危険は承知の上だ。



 それに、レイティスには武器が折れて、なくなっていたのだ。



 どう考えても、素手で倒せる相手ではなかった。



 窮地だ。もう、間合いがない。



「ダメだ、やられる」



 水魔竜が牙でレイティスを噛み殺そうとした。



 そのときだった。



「ぐ、ぐぐ、ぐググ!」



「誰だ?」



「ファ、ファイ!」


なんと、やられていたはずのファイが、レイティスに襲い掛かってきた、水魔竜の


強靭な牙を両手で受け止めていた。



ファイの足元が、水魔竜の牙の力で、地面にめり込む。



それでも、ファイは負けずに、押し返した。



「水魔竜、結構な牙じゃねーか? ぐ、そらよぉ」


 パキィ!


「グギャァアッァアアッァアッ」


「す、すごい、牙を折った」



 なんと、あの竜族の牙をファイは手で折ったのだ。剣でも切れない体だったはず。



 ファイは手で鼻を掻き、鼻をフンと鳴らした。



「へ、もう一本折ってやろうか?」



 ファイはなぜか、橙色の瞳をしていた。そこから、炎の光が出てくるような輝きだった。



 左手の紋章が光る。



 そのとき、オネイロスは壁伝いで、どうにか持ちこたえていた。意識がなぜか回復

した。



 オネイロスは遠目で水魔竜と戦っているファイを一瞥した。



「俺は助かったのか? (な、なんだ、ファイか? それにしてもあの橙色の目は一体?)」



「じっとしててください、いま、回復魔法をかけます」



「ニミュエか、すまない」



 ニミュエがオネイロスのもとにやってきて、回復魔法を唱えようと、右手を光らせ、魔力を集中させていた。次の瞬間、それは発動した。



「回天寿(ミラルハッピリストー)」



 白い光が、オネイロスを包んでいく。あっという間に、傷が治っていく。



 もう、少しで完全回復するだろう、というくらい、回復魔法で治すのは早かった。



 ニミュエは治しながら、オネイロスに語り掛けた。



「ファイは偶然にもラグナ様が作り、炎の魔神イフリートを封じ込めた魔剣イフリートの継承者だったみたいですね」



「継承者? 魔剣イフリート?」



「では、ファイの手の紋章のようなものは?」



「そうです、恐らくですが、守護魔神イフリートの紋章です」



 そういい、ファイをニミュエは一瞥した。丁度、牙を負って、煮えくりかえっていた水魔竜の長い尻尾の連撃をたやすく躱している最中だった。



「あいつが、継承者? では、英雄カルス様のように魔の力が使えるということか」



 オネイロスは、開いた口がふさがらなかった。英雄カルス様の転生ではないかと感じたのだ。魔の力が使えるというのは、常人離れした、魔族のような攻撃ができるということだ。



 ファイは、オネイロスが魔法で助かり、立ち上がったのを見ると、急に躱していた動作をやめて、少し後ろに飛びのいた。



 どうやら、水魔竜を回復が終わるまで引き付けていたようだ。



「炎闘気(イフリートラスタ)」



 ファイの体から、橙色の炎の闘気のようなものが瞬間的に発せられた。



 右手に炎のエネルギーが集束していく。



 そうして、ファイは大きく体をジャンプして振りかぶった。



「そうれ、いいものくれてやるぜ」



「『炎殺拳(フレアフィスト)』」



「グガアァアァウギャァ」



 なんと、右手から五発の橙色の玉が発せられ、それは見事に水魔竜にぶち当たった。



 水魔竜はフレアフィストの威力で、耐え切れず、顔を上に振り上げ、咆哮をあげた。



 効いている。当たった箇所が、爛れていた。



 水魔竜の動きが一瞬、止まった。



「ち、図体がデカイわりに、はえー奴だ。だが、3発あたれば十分!」



「強い! ファイが継承者?」



 オネイロスが、その猛攻をじっと見遣っていた。ニミュエも感心し、ファイに近寄っていった。



 勝てるかもしれない。少しだけ、明かりが灯ったのだ。



 水魔竜は大きく口を開けた。



「なんだ? 息を吸い込んだ?」



「ギュガアァアァァ」 



 なんと、ファイに水魔竜の強烈な炎が発せられた。



 だが、ファイもそれを見越していた。



「炎かよ、へ、上等だ」



 上手く、横手に飛び、躱した。



 しかし、水魔竜は計算していた。なぜか、ファイに放つのをやめ、違う方向に頭を向けた。



 そこには、ニミュエがいた。



 ファイに動揺が走った。



「きゃぁ」



「ニミュエー! 姑息な手を使いやがって」



 このままではニミュエが丸焼きになる。



 だが、水魔竜の炎のブレスは真面にニミュエを飲み込んだ。



 炎がニミュエに綻んでいく。攻撃の手を水魔竜はやめようとはしなかった。



「きゃぁーファイー!」



BUOOON!



 炎のブレスがクリーンヒットした。誰の目にも、悲惨な光景が目に浮かんだ。



 しかし、そのクリーンヒットした瞬間、ファイがニミュエの前に立ちはだかっていた。



 「へ、おっと、も少し強力なブレスを吐くんだな。じゃなきゃ、俺もニミュエも殺せないぜ」



 ファイがニミュエの前でバリアのような壁を作って、炎のブレスが真面に当たるのを隔てていた。炎がファイの壁の前で二つに分かれていく。



「あ、あれ、あたし、死んでない」



「大丈夫だ、心配すんな。俺の防御壁だ! 同じ炎の属性なら、そう簡単には破れないぜ」



 そういい、ファイは軽く、目で合図を送った。



 その戦いぶりをみて、レイティスは唖然としていた。これが魔の力を使える人間の為す技なのかと。息をのんだ。



「ニミュエ、俺はいいから、団長たちのそばにいけ、早く!」



「う、うん、わかった」



 余所見をしていたファイにレイティスが声音を発した。



「いけない、ファイ、シッポだ、奴の尻尾が狙っているぞ」



 なんと水魔竜は炎を吐きながら、尻尾の一撃を見舞おうと、ファイに仕掛けた。 



BYUUU!



「クッ、ぐ、ぐ、グググ(なんて重い尻尾だ)ぐぁあ!」



 ファイも不意打ちには、敵わなかったようで、尻尾の攻撃は見事にファイを嬲った。



 反動で近くにあった遺跡の建造物にファイは思いっきりあたり、めり込んだ。



 遺跡が無残にも崩れて、遺跡の残骸でその場が埋もれた。 



 しかし、その残骸から、ファイはムクッと何もなかったように立ち上がった。



「ててて、伝説の魔竜か何かしらねーが、調子に乗ってんじゃねーぞ」



 そう言い放ち、ファイは首を傾げ、鋭い目つきで、奴を凝視した。



「俺は負けない!」



 ファイの猛攻が始まった。今までのは小手調べか。



 凄いスピードで水魔竜に近づいていき、嬲ってきた水魔竜の尻尾を今度は手で掴んだ。



「うぉりゃぁぁぁあっぁ!」



 次の瞬間、ファイはあの重いであろう、水魔竜の巨体を空中に放り投げていた。



「すごい、あの巨体を放り投げた」



「止めだ! 一撃で葬ってやる。もう一度、地獄で眠ってろ!」



 そういい、ファイは両手を合わせ、紋章を光らせ、バーストさせた。



 両手にもの凄いエネルギーが集束していく。



「炎竜波(フレアドラゴン)!」




なんと、瞬時にファイの構えた両手から、エネルギーが拡充し弾け、炎のドラゴンの波動が水魔竜に向かって発せられた。



 勢いよく、フレアドラゴンは水魔竜に向かっていく。


DWOOON!


「グギャアァァッ」


 見事にフレアドラゴンは命中し、水魔竜を前から後ろまで、呑み込んだ。

 一瞬のうちに、水魔竜が燃え尽き、上空から数本の骨と少しの肉片、燃え尽きた

灰が雪のように舞い降りてきていた。



 これが水魔竜の末路だった。



 灰をみて、近くにいたレイティスは唸った。



「す、すごい、あの巨体を一瞬で灰にした?」



「これが、魔の力を使える人間の為す技なのか」



 そして、ファイは止めの一発を放とうと、空から落ちてくる灰に手を向け、拳を握りしめた。



「あばよ、俺の灰になりな」



「散れ(アッシュ!)」



 すると、落ちてくる骨や、残りの肉片が瞬く間に灰となって、手を握った瞬間、何もなかったように、その場から消えた。



 もう、水魔竜の骨のかけらさえも残っていない。



 この世から地獄へ消えたのだ。



 ファイは、そうして、額の汗を手で拭った。



「ふぅ、なんとかなったな」



「ファイー、やったぁ。水魔竜をたおしたー」



「ファイよ、よくやったな。お前のお陰でみな、死なずにすんだ」



「へへ、俺にもこんな力が使えるの、よくわからないぜ」



「やるな。おまえ、英雄カルス様のように魔の力が使えるんだな」



 レイティスが明るい顔で駆け寄ってきていった。



「へ、まぐれさ、まぐれ。それにしても、俺のこの手の謎がやっとわかった。守護魔神イフリートの紋章だったんだな」



 そのときだった。ファイがある異変にきづいた。



 首を傾げてその異変のあるほうを指さした。



「ん、おい、ヴァギラーザが死んだあたりにある、黄色い光り、あれは魔法呪魔法陣じゃねーか」



「魔法呪? そうですね、黄色ですから、魔法呪などに使われる魔法陣ですね」


レイティスが考察したようにいう。



 その瞬間、魔法陣が光り、何者かが現れた。もしや、この人は?



 ニミュエが一目散に飛んでいき、第一声を発した。



「あ、人が出てきた」



「あれは、大将軍キュラ様! なぜ?」



「キュラさまー、しっかりなさってください、大丈夫ですか?」


 オネイロスはキュラを抱きかかえ、体をゆすった。


「キュラ様、キュラ様」



「う、うう、オネイロス。ファイにレイティスか」



 どうやら、無事のようだ。意識が戻ったのだ。しかし、なぜ、キュラがいるのか、ファイたちにはまだ理解できなかった。一体どういうことだと、首をかしげていた。



「私はなぜ、ここに。たしか、魔族と戦っていたはず?」



「魔族?」



「いったい、どういうことですか、キュラ様。教えてください」



 緊迫感が一瞬、動揺とともに皆に走った。まさかと思ったのだ。



「魔族ベルフェゴールに私は、封印魔法で水魔竜の体の中に封じ込められていたのだ」



「封印魔法? きいたことがある。魔法で体内に封じ込む、おそらく呪縛魔法だ」

 オネイロスが洞察しいった。



 キュラがまたしゃべりだした。



「水魔竜は倒したのか?」



「はい、俺が」



「ほぅ、大したものだ。褒美をとらすぞ」



 オネイロスが、そのときあることに気づいた。



「おかしい、キュラ様は軍法会議で後からくるとのことだったはず」



「じゃぁ、もしかして、ソレイユ城にいるキュラ様は偽者?」



 最悪の事態になってなければいいが。



ファイが言うと、レイティスとキュラ、オネイロスは顔を見合わせた。



「イーミ姫様や、王様の命が危ない。急いで城へ引き返すぞ」



「了解!」



 レイティスがそういうと、ファイはニミュエのほうを振り返った。



「ニミュエはどうする? くるか、一緒に」



「うん、もちろんだよ、だって、あたしを守ってくれたんだもん」



 ニミュエは嬉しそうな顔でいう。たしかに、あの時、炎のブレスから守られてい

なければ、蝶の丸焼きみたいになっていただろう。



「そうか、じゃ、こいよ。今度は魔族が関わってるみたいだから、危なそうだけどよ」



「決めたんだから。あたしは、ファイのお世話をするの。どこまでも一緒に行くんだから」



「ありがとよ。回復魔法で助けてくれたの、恩にきるぜ」



「知ってたんだ」



「もちろんだ。そうしてくれなきゃ、俺はあの状態じゃ、水魔竜に勝ててなかっただろうぜ」



 ファイはグッドラックのポーズをニミュエにした。



 そう、勝てた要因はニミュエにもあったのだ。体を傷から治してくれいたから、魔の力を使っても負担がそれ以上にかからなかったからだ。



「ファイ、なにをしている、お前の力もきっと必要だ、早く来い」



「わかったぜ、今いく」



「待ってあたしも」



 ファイは急いでオネイロスのほうに駆けていく。ニミュエもファイの後をついていっていたが、一瞬止まり、ラグナが作った、壊れた石像をみやった。



「(ラグナ様、永い時を経て、貴方が作った剣の継承者がどうやら、現れたようです)そこで安心して眠っていてくださいね」



 ニミュエの思惑は、きっと、世界を変えるような希望になってくれると信じていたい。



 それは神、ラグナの意志の一つでもあったのだ。



 魔が作られる限り、魔を滅するものも存在しなければいけないのだから。



 しかし、魔族ベルフェゴールとはどんな難敵なのか。





 念頭には危惧と不安だけが広がっていた。








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