第5話 甦った水魔竜ヴァギラーザ
「くそ、また行き止まりだ、スケルトンハガーのやろう、俺たちが通れないように細工をしてやがったな」
ファイたちは、どうにかラーギア神殿にたどり着こうとしていたが、地理を熟知していたニミュエの案内の場所はスケルトンハガーに細工をされ、ほとんど通ることができなくなっていた。
そして、今いる通路にもその手が及び、頑丈な岩壁ができていた。
ファイは岩壁に手をポンと伸ばすようにして叩いた。
「強固な石壁だな。壊すか」
「ファイ、やめたほうがいい、洞窟自体にもし、何かあったら、上は湖です、浸水しかねない」
レイティスが間髪を入れず、ファイに聞き説かせた。
ファイもその言葉を鵜呑みにしているようだった。
「レイティスのいってることはあたっているな。最悪のケース、俺たちは水に飲まれてしまう」
オネイロスがそういったときだった。
ニミュエが前に飛び出した。
「みなさん、こっちです。ついてきてください」
「ニミュエ、なにか知ってるのか?」
「あたしがいたときは、通路にこんな細工はなかったのですが、スケルトンハガーは神殿まで続く隠れ道までは知らないはずです」
「なるほどな、そこを通れば、奴のところまでいけるかもしれないってわけだな」
「そうです。ここの突き当たりです」
ファイの顔は明るくなるが、また呆然と前にあるものをみて、立ち尽くした。
目の前には石盤だけしかなく、突き当りとなり、立ちふさがっていた。
「って、おい、道なんてなにもねーじゃねーか。石盤があるだけじゃねーかよ、ニミュエ」
そういい、ファイがポンと石盤を軽くたたいた時だった。
「う、うわわわ、な、なんだ?」
「石盤が開いた? ひっくり返った? なんだ、文字が刻まれてる?」
何とファイが触った石盤が音を立ててひっくり返り、そこにはまた難解な文字が刻まれていた。一体これは?
ファイは躊躇うものの、腕組をし、頭を傾げていた。
「これは? 魔法文字か? だめだ、さっぱりわからねー。レイティス読めるか?」
「団長、恐らく、この文字は古代魔法文字です。少しなら読めますが」
そういい、レイティスは解読するように文字を指で辿り、冷静に読んでいく。
「神、ラグナ? 炎、守護……? なんのことでしょうか?」
「ラグナ、この神殿にいた神のことよ」
「ニミュエ、読めるのか、これを?」
「まさか、この石盤にこんな仕掛けが施されていたなんて知りませんでした」
ニミュエは驚きの色を隠せなかった。長年いたが、こんなことは初めてだったのだ。
「字が掠れていないところは読めますが、『ラグナは神古代で炎を司る神をしていた』と記述がありますね。あたしが、前にいた守護のものからきいた情報と一致しています」
「やはり、神古代の遺跡か、ここは」
「ということは、六千年前?」
「そのラグナは剣に魔神を封じ込めたとかかれています」
ニミュエが旋毛を曲げながらどんどん解読していく。
「剣に封じ込めただと?」
「守護? とかかれていますが、後はわかりません」
「もしかして、炎の魔神のことじゃ?」
「しかし、あれが、復活したとなると、俺たちの力ではどうにもならないぞ」
「嫌な予感がするな」
オネイロスが歪な顔つきをしながらいった。
ファイがこれは参ったといった面持ちで、頭の後ろを手で書きながら掌を返すジェスチャーをしながら言葉を紡いだ。
「だけどよ、石盤はひっくりかえったけどよ、道なんてものないんじゃないか」
「ふふ、これですよ、これ」
ニミュエはうふふと笑みをみせながら、自信有り気な顔つきで一本の小さな突起物を手にあった球体から引っ張り出した。
「なんだ、その針みたいなものは? 釣り針か?」
「つ、釣り針! しつれいです、これはれっきとした、水の妖精一族に伝わる魔力がある『水仙針』という武器なのですよ」
「水仙針? やっぱ、針じゃねーか」
「もうッ、針は針ですけど、武器なのです! 凄い武器なのですよ、これは。この針は色んな魔法を無力化させる効果があるのです。他にも不思議な力がありますけど」
そういい、ニミュエは針を石盤の前で構えて、突き刺そうとした。
「えいッ!」
ツン!
水仙針でついた瞬間、何かの作用が働き、突き刺したところを中心に光り始めた。
「ロック魔法解除!」
「せ、石盤が光った?」
ニミュエがロックの魔法を解除すると石盤は更に光を増し、動き始めたではないか。
ガタガタガタ!
「通路?」
なんと石盤が壁がわに動き、塞がっていた通路から、隠れ道が現れた。
「みなさん、こっちです。ここがラーギア神殿へと続く、秘密通路です」
「よし、いくぞ」
オネイロスの掛け声を聞くと、ニミュエの先導のもと、ファイたち全員がラーギア神殿に向かって歩き出した。きっとこの先に、奴がいるはず。そう、水魔竜が。
☆☆ ☆☆
一行は、秘密の通路を暫くの間、ずっと歩き続けていた。かなり、奥深い通路だった。
「こちらが本殿へと続く道です。このまま、まっすぐいけば、恐らく水魔竜が眠っているところへつくはずです」
ニミュエがそういった矢先だった。
「ぐぁっ!」
「どうした、レイティス!」
「なんだ、その肩にいる赤目みたいなやつは?」
なんと、鎧の上から、レイティスの肩に噛みついてる妙な形をした赤目のモンスターがいた。こいつはもしや?
当然のようにレイティスの肩から血が噴き出た。レイティスはそのまま地べたに屈みこんだ。顔を燻らした。
「グガガ、肩を食いちぎってやる!」
どす黒い悪魔のような声をしていた。どこかでその場にいたものには、聞き覚えのある声だった。
ファイが動いた。手を振り被った。
「このぉ!」
ドスン!
「くはは、生身の生血はおいしいのぅ」
レイティスの肩に噛みついていた赤目を遠くに弾き飛ばした。
赤目は態勢を一時、崩したが、すぐに立て直し、宙に浮遊した。
レイティスの顔色が悪い。段々、悪寒が走るように青くなっていく。
「その赤目、額の目か! お前はスケルトンハガー」
「目が生きてやがったのか、しぶてーやろーだ」
オネイロスとファイの顔つきが変わった。戦闘態勢に入った。
「ぐっ」
「大丈夫か、レイティス!」
オネイロスがレイティスをしっかりと抱え込んだ。
そのときだった。
ファイが打って出た。剣の一閃を赤目に叩き込もうとした。
「うぉりゃぁ」
ガキン!
だが、上手いこと赤目は剣戟を躱し、剣は地面に音を立てて穴をあけた。
赤目が光り、どす黒い甲殻をあけ、牙をむきだした。
「ヴァギラーザ様のところへは、いかさん」
「レッドアイ!」
ピカァ!
「なにぃ」「うわぁ」
DOWWOOOOON!
なんと赤目の目から赤い色をしたエネルギーの魔法のようなものを出してきた!
ファイとレイティスは上手く躱すことに成功したが、動揺の色は隠せなかった。
そのレッドアイがかなりのスピードだったからだ。
それにレイティスは怪我を負っていた。
オネイロスが必死だった。庇うように前に一歩でた。
「こいつ、熱源体の波動を出しやがった」
ファイはそういい、懸念しながらも、剣を構え直した。
ニミュエはファイの背中のほうに急いで飛んでいき隠れて顔だけぴょこんと出した。
「このまま、我のレッドアイで洞窟ごと血祭りにしてくれよう」
そういうと、レッドアイのエネルギーを拡充しようとして、赤目の動きが止まった。
それを見逃すオネイロスではなかった。
「おしゃべりはそこまでだ、赤目!」
「しまった、うえか……」
オネイロスはジャンプし、赤目の上から思いっきり切り込んだ。
「遅い!」
ZUSAAAA!
「ぐはぁ」
一瞬の不意をついた斬撃は見事に赤目を上から下まで薙ぎ、一刀両断にしていた。
昏い洞窟に二度と声が聞こえることはなかった。
「ふぅ、やったか、今度こそ」
オネイロスは額の汗を拭った。
ファイがレイティスに駆け寄り、手を差し伸べ、肩を組もうとした。
「レイティス、立てるか?」
「くぅッ、立てるが、どうやら、さっきかまれた牙に毒があったみたいだ。体がい
うことをきかない」
レイティスは、足がもたついていた。確かに毒が体に回り始めていた証拠だった。
肩の傷口は、深く牙で抉られていた。血の流出が止まらない。これでは、出血多
量で死ぬ可能性も高い。
「深いな。しまった、解毒瓶、毒消しポーションがあれば、こんな毒すぐに治るのによ、置いてきちまったぜ」
ファイが顔を手で覆い、辛そうな表情をした。ここで、友を亡くす訳にもいかなかったからだ。
「意識が朦朧としてきた、ファイ、団長、僕を置いて先に行って」
「レイティス、止血だけでもするぞ」
そういい、ファイは、自身の服を少し破り、包帯の代わりにしようとした。
そして、ファイがレイティスの傷に包帯の代わりを巻こうとしたときだった。
「みせてください、毒と血がとまらない深い傷ですね。あたしが治しましょう。こうみえても、あたしは妖精なのですよ。解毒魔法、回復魔法(ミラル系)くらいお手のものなのですよ」
ニミュエの言葉に笑顔がみなに戻った。助かる見込みがでてきたからだ。
「ニミュエ、お前そんなこともできるのか」
ファイが言うと、ニミュエはコクリと頷いて、レイティスの傷に手をかざした。
「天より井でし、回復の光り、回天寿(ミラルハッピリストー)」
ピカァ!
なんと白い光りとともにレイティスの傷が塞がっていくではないか。
「傷が治っていく」
レイティスがいったときには、ほとんど、元の状態に戻っていた。
「傷はふさがりましたね。あとは毒だけですね」
そういい、ニミュエは傷にまた手を当てて、念じた。
「癒す光りで、汝に無毒を『魔解毒光(リリーフハイ)』」
ピカァ!
一瞬のうちに、レイティスの青ざめていた顔がもとの顔色に戻っていく。
苦しそうな表情も一変した。
「はっ、治った」
レイティスは手を握ったり、肩を動かしたりして、完治した様子を探っていた。
まさに、完全そのものだった。魔法というのはここまで凄いのか。
それが誰しの目にも映ったことだった。
「ありがとう、ニミュエさん」
「いえ、大したことじゃないですよ」
レイティスは爽やかな笑顔をし、ニミュエに感謝の気持ちを返した。
ニミュエは当然のことをしたまでだ、という面持ちだったが、少し照れていた。
その様子をファイが面白そうにみていた。
ファイは完全に治った姿をみると一歩、踏み出した。
「よし、いくぞ、ラーギア神殿へ」
そう、この先には、確実に奴がいるのだ。
瘴気をファイたちは感じていた。魔物特有の毒々しい威圧感のあるエネルギーを。
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